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第02話『始まる最後の夢』

 修平くんとの最後の初めましてから五日が経った。今までの世界と同じように私たち六人の日常が完成し、スタートしている。

 椛ちゃん、葵雪ちゃん、ひよりちゃん、小夏ちゃん、そして修平くん。……みんな、私の大切な人たち。誰ひとりとして欠けてほしくない存在。でも、私のこの思いが、みんなに何度も悲惨な死を繰り返させてしまった。

 今更どれだけ侘びても、侘びきれない。この夢で私も死ぬわけだけど、きっと地獄に落ちちゃうんだろうな……。

 でも、地獄に落ちることがそんなに怖いとは思わないな。だって、目の前でみんなが死んでいく光景を数え切れないほど見てきた今までのほうが、よっぽど生き地獄だったもん……。


「……巡、どうかしたか?」


「え?」


 修平くんが私の顔を覗き込んでいた。

 その奥には、みんなが美味しそうに和菓子を食べている光景がある。


「ううん、なんでもないよ」


「本当にそうか?」


「うん。ちょっと考え事をしてただけだから」


 今は甘味処で親睦会の真っ最中。きっと私は、重い表情でもしてたんだろう。

 ダメダメ、今は目の前の日常を楽しまなくちゃ。私が地獄に落ちる前に神様が見せてくれる最後の夢、最後の幸せな時間。無駄にするわけにはいかない。


「なあ、巡。ちょっと失礼するぞ」


「えっ」


 唐突すぎる修平くんの行動に対し、私は対処できなかった。

 突然自分のおでこを私のおでこにくっつけてきた修平くん。私も突然の行動にびっくりだけど、もちろん、他のみんなも無視はできなかった。


「お兄ちゃんっ!?」


「ちょ、修平。あんた何やってんのよ」


 私の目の前には修平くんの顔があって、みんなの様子を見ることは出来ない。だけど、驚きの表情をしていることは分かる。


「うーん、熱は無いみたいだな」


 あまりにも突然のことすぎて、理解が追いつくのも、私の心と身体が反応するのも、遅れちゃった。

 ちょっとちょっとちょっとちょっといきなり何してくれてるのっ!? 近いよ、互いに吐息を感じる距離だよっ!?


「はわわわわ…………」

 

「うおぉっ!」

 

 頭が沸騰しそうな感覚。私は思わず後ろに倒れ込んでしまい、修平くんも私に引っ張られる形で倒れ込んできた。

 ギリギリ修平くんは腕立て伏せの形で踏ん張ってくれたから下敷きにはならなかったけど、形としては、仰向けに倒れてる私に修平くんが覆いかぶさってる形になっている。


「おおっと、大丈夫か?」


「う、うん……」


「ごめんな。あまりにも巡の様子がおかしかったからさ。もしかしたら具合が悪いんじゃないかと思って心配になっちゃったんだ。……ほら、あの時のこともあるし」


 起き上がりながら修平くんは弁解の言葉を口にした。でも最後の一言だけは、私にしか聞こえないようにボソっと呟いただけ。

 なるほどね。確かにこの世界での私と君との出会いを考えると、心配をかけちゃうのは必然だよね。

 小夏ちゃんだけは、そんな私と修平くんの事情を察してくれたのかな。浮かべていた驚きの表情を元に戻した。

 でも、まるでケダモノを見つめるかのような葵雪ちゃんと、顔を真赤にしてあたふたしている椛ちゃんひよりちゃんペアは私たちの事情なんて知らない。


「ねえ、修平。普通、会って数日しか経ってない女の子にそういうことする?」


「おい待て、葵雪。俺は、巡が具合でも悪いんじゃないかと心配だっただけなんだ! だから、団子の串バルログを引っ込めてくれっ!」


「葵雪ちゃん落ち着いてほしいんだよ~。でも、修平くんの今の行いは不審行為なんだよ~。洗い浚い白状させる必要があるんだよ~」


「おい椛。お前は葵雪を止めるつもりがあるのかっ!?」


「しゅ、修平さんってやっぱり変態さんだったのですねっ……」


 もう驚きを通り越して怯えているひよりちゃん。そんなひよりちゃんの言葉に、葵雪ちゃんがまっさきに反応した。


「やっぱり? やっぱりってどういうことかしら?」


「修平さんはひよりと初めて出会った時、ひよりのパンツを覗いたんです。やっぱり修平さんは変態なんですっ!」


「へぇー? それは興味深い話ねぇ?」


「おいこら待てひよりっ! 誤解を招くようなことを言うんじゃない! 葵雪も、ひよりの言葉を鵜呑みにしないでくれ!」


「でも事実は事実ですっ! 修平さんがひよりのパンツを覗いた事実は嘘でも捏造でもありません。違いますか?」


「それはそうなんだが、あの時はだな」


「つまり修平がひよりのパンツを覗いたことは事実ってことね」


「待て葵雪。最後まで話を聞いてくれっ!」


 両手の全ての指の間に団子の串を持ち、その尖った先端を修平くんに向ける葵雪ちゃん。

 ああ、こうなっちゃったら葵雪ちゃんを止めることなんてできない。本当、この六人で居るといろんなアクシデントが起こって退屈しないよ。


「巡っ、逃げるぞっ!」


「え、あ、うんっ!」


 何故か修平くんは私の手を引いて駆け出した。私には、修平くんに従って一緒に走る以外の選択肢がない。


「このケダモノっ! 巡を返しなさいっ!」


 ヒュンッヒュンッと風をきるような音が耳元をかすめた。その音の正体は、矢のように飛来する団子の串。

 ねえ、葵雪ちゃん? これって、私も危ないよね……?


「とにかく走れ、巡っ!」


「うんっ!」


 とにかく今は修平くんに従って全力で走るしかない。






「よし、なんとか逃げ切ったな。大丈夫か?」


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……うん、なんとか大丈夫だよ」


 私は、葵雪ちゃん程じゃないけれど体力に自信がない。もうこれ以上走れる自信はないなぁ。


「本当に大丈夫か?」


「うん、ちょっと疲れちゃっただけだから……」


「……ごめんな」


 修平くんは、地面に座り込んだ私の肩を支えてくれる。そして、背中を擦ってくれる。


「いいんだよ、気にしないで。……こういうハチャメチャな日常も、すっごく楽しいよ。私たち六人じゃないと体験できない、幸せな時間だから」


「…………」


 修平くんは黙って私の背中を擦り続けてくれる。

 心肺はすぐに平常運転に戻ってきたが、その沈黙はあまり心地よいものではなかった。


「……なあ、巡」


 私が充分に息を整え終えたところで、修平くんはまっすぐに私を見つめ、口を開いた。 


「巡は、どうして俺と小夏を仲間に加えようと思ったんだ?」


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