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エピローグ『繰り返される夢、続いていく物語』

Another View 美結


「――こうして、絶望の底に堕ちたりーちゃんは再び希望を信じて歩みだしましたとさ。ちゃんちゃん♪」


 いままでと違って真面目に見ていたせいか、いつもよりも長い物語を視聴していたような気分だ。

 僕はすっかり凝り固まってしまった身体をぐっと伸ばす。すぐ隣では、拓也も大きく背伸びをしている。


「凛音はいつもこんな長い物語を、最初から最後まで真面目に見てたのか。すっげーな」

 

 拓也の口から発せられた最初の感想は、そんなことだった。

 この夢に一番興味を抱いていたのは拓也のはずだが、第一声がこれということは、やっぱり拓也は拓也であり僕たちは僕たちなんだということを実感できて、僕は安心できる。

 しかし、拓也の好奇心に応えてあげた凛音はどうなんだろう? と思って凛音を見ると、いつもと変わらず微笑んでいた。てっきり、不満の一つでも口にするものかと思っていたけど、どうやら凛音も僕と同じ気持ちらしい。

 でも、凛音が僕と拓也のほんのちょっぴの好奇心に応えてくれたのは事実だ。夢に関する話くらい、しておかないと申し訳ない。


「ねえ、りんね。もしかして、かざみが夢の始まりに必ず深凪に『信じて』って言いに行くようになったのは、ここから?」


「お、さっすがみーちゃんご明答! もうりーちゃんは、どの世界でも独りじゃないってことを知ったからね。もう、負けたりしないと思うよ。前を向いて、希望を信じ、どんな結末ぜつぼうにも負けずに突き進んでいくよ」


 ああ、やっぱり凛音って怖い。アメジストの瞳の奥に込められたモノを知らない人は、凛音は風見を肯定し応援していると捉えてしまうのだろう。

 だけど、僕と拓也だって抱くモノは凛音と同じだ。


「そうだね、かざみは確かにもう希望を見失わないし、負けもしないと思う。でも、僕たちも僕たちで目指すモノがある。かざみが勝手に頑張るのは構わないし、あの絆はすごいと思うけど……もし、僕たちの妨げになるようなことがあれば」


 あっ、と気づいたときには既に遅かった。別に言葉に出す必要はないしそのつもりも無かったが、つい、無意識のうちに心の中で抱いてた気持ちを言葉として放出していた。

 でも、今更になって無意識の発声に気づいても遅い。もういいや、このまま言い切ってしまおう。急ブレーキをかけれるものではない。


「――――もし、かざみの希望が、その絆が、僕たちに立ちはだかるなら。その時は、せっかく取り戻した希望もあの強い絆も、今度こそ完全に引き裂いてあげる。僕たちの意志と絆は、絶対なんだから」


 言ってしまった。凛音と拓也の前ではあまり出したくなかった自分が、少しだけ出てしまった。

 僕の悪い癖だ。一度ポロリと出てしまうと、そのまま少しだけ漏らしてしまう。

 だけど凛音と拓也は、僕がどれだけ失態を犯してもそばに居てくれる。触れ合うくらい寄り添い、ぎゅっと抱きしめてくれる。

 ――――ああ、温かい。無言で僕の両隣に座って肩に手を回してくれたこの二人の体温が、僕の内側からマグマのようにこみ上げ噴火しかけているモノを沈めてくれる。


「さあ、感動的な悲劇の物語はもうとっくに終わってるんだ。新しい物語へ進もう」


 そのまま僕の視界は真っ白な光りに包まれたが、僕を挟むようにして存在する二人の暖かさはずっとずっと消えなかった。


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