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プロローグ『絶望と再起の夢』

Another View 美結


「――そうして、今回の夢も幕を閉じましたとさ。ちゃんちゃん♪」


 毎回という程でもないが何度も何度も聞いた凛音の言葉と共に、今回の物語も幕を閉じた。拓也はいつものようにすやすやと眠っている。僕自身は今回こそ睡魔に打ち勝ったが、普段は拓也と一緒に居眠りをすることがある。


「いやー、今回も残酷な終わり方をしたね。いままで見てきた中で、五本の指に入るくらいには悔やんでも悔やみきれない、悲しい悲しい終わり方。みーちゃんもそう思うでしょ?」


 嘘だ。凛音は、口先ではこんなことを言っているが、風見たちへの感情移入なんて無い。風見たちはただの物語の一部でしかなく、凛音はそれをありのまま傍観するだけだ。

 僕はなんて返せばいいのか分からない。だけど、このまま黙っていたり、ましてや凛音の本音を指摘したりしようものなら、面倒なことになる。だから僕も、凛音に合わせて嘘を吐くことにした。


「うん」


 吐いた嘘はとてもシンプルであり、たった一言発するだけで終わるお手軽な肯定の言葉。

 凛音のアメジストの瞳が僕を見つめる。――――きっと、凛音には僕の嘘が見抜かれてるんだろうな。だけど凛音は、それくらいではいちいち追求してこない。


「ふぁーあっ……」


 このままどう転ぶか分からなかった沈黙は、拓也の大あくびによって破られた。

 でも、その覚醒は一時的なもの。きっと拓也はこのままもう一眠りしようとしたのだろう。凛音は拓也の肩を揺らし、起こしにかかっている。


「たっくん、起きてよ」


「まだ物語が終わったところだろ? もう少しくらい寝てていいだろ」


「もう次の物語が開幕しちゃうよ」


 もう少しもう少しとグズる子供と、それを起こそうとする母親みたいだ。

 何度も見てきた光景だけど、僕はクスリと笑ってしまう。こんな僕たちのいまは、あとどれくらい変わらぬまま続くのだろうか

 僕がなんとなくそんなことを考えているうちに、拓也は完全に起こされ、凛音から今回の物語の結末を聞かされ、僕がされたのと同じ嘘のセリフと質問をされていた。


「うーん、そうだな。確かに俺がしっかり把握してる夢の中では、トップクラスに酷い終わり方だな。でも、風見はまた懲りもせずに繰り返すんだろ?」


「うん、そうだよ。ほら、もう次の物語が始まろうとしてる」


「冷静になって考えてみれば、風見もなかなかスゲー奴だよな。普通、そんな経験をしたら心なんて壊れちゃうだろ? 風見は、何度も何度も何度も、そんな絶望を味わってる。それなのに、まだ心折れずに抗おうとしてるんだからな」


 拓也の言葉を聞いて、僕も確かにその通りだと思った。


「そうだよね。たくやの言う通り、普通の人間だったらとっくに壊れてるだろうし、とっくに絶望して全てを投げ出してると思うよ。ここまで戦い続けられるかざみは、普通じゃないよ」


 拓也と僕の言葉を聞いて、凛音は一瞬だけ目を丸くした。

 だけどすぐに、クスリと笑う。


「そっか、そうだよね。あの時の夢、二人は居眠りしててちゃんと見てなかったもんね」


「あの時の夢?」


 僕以上に居眠りの常習犯である拓也が食いついた。凛音はまるで、初めからこの流れを狙っていたかのように微笑んで、拓也の質問に答える。


「りーちゃんはね、一度絶望してるよ。何度も何度も何度も経験した残酷な結末に心を砕かれて、もう二度と繰り返さないと決意して、運命の日に自分も死んで全てを終わらせようとさえしたんだよ」


 初耳だ。でも、僕も拓也も興味をそそられる話。


「そんなことがあったのか。でも、現にこうして夢は繰り返されてるよな」


「うん。りーちゃんの心と希望はね、もうこれで終わりにしようと決意した夢の中で、蘇ったんだよ。だからもうりーちゃんの心は残酷な結末に負けないし、運命の日を超えるまでは絶望しないと想うよ」


 僕たちは既に、凛音の手中に堕ちていた。

 凛音がこのまま流れをどう誘発するつもりなのかは分かってる。だけど、僕も拓也もそれに抗うことは出来ない。


「いったい、その夢では何が起こったんだ? 絶望した人間がもう一度希望を取り戻すなんて、どんな奇跡が起こったんだよ」


「へー、たっくん興味あるんだ?」


「まあ、な」


「……僕も、その話には興味がある」


 凛音は、意外だなという顔をした。実際、この流れを作る直前までは、本当に僕と拓也の反応を意外だと思ってたんだろう。

 でも、僕には分かる。凛音のアメジストの瞳の奥では、既に道筋がたてられているんだ。


「二人が夢に興味を持つなんて珍しいね! でも、いいよ。次の物語に進む前に、もう一度あの時の夢を見返してみよっか。絶望してしまったりーちゃんがもう一度立ち上がって、本当の意味で不屈の意志を掴んだあの夢を…」


 そう言って凛音は本を開き、僕の視界は真っ白な光に包まれた。

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