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魔境の情報を得た俺達はついでに斧を1本借りる約束もした。
と言っても最初の数回で木刀用の木を採る為のみに使うつもりでいる。
もし魔境の木を切って稼ぐなら自分で斧を買わなければならない。
今日は薬草の本を探しに本屋を回ってみる予定だ。
薬草の本は絵が付いているので他の本に比べても値が張るので値段次第では諦める事になるだろう。
そしてその可能性のほうが高い。
だからとりあえず値段だけ確認しておいて買うか買わないかを判断すれば良いだろう。
ついでに斧の値段も調べるつもりだ。
俺達は最初に一番近くにある本屋に向かった。
本は1冊1冊が高価なので自分達で触れることすらできない。
1冊盗まれただけで大きな損害になる。
普通は本屋では店主にほしい本を言って店主が該当する本を持ってくるのだがお金を持っていなさそうな子供相手にまじめに対応してくれるかどうか難しい所だ。
しかし以前に写本をした店なら俺達が高級紹介所を利用している事を知っているのでそこまで無碍にはされないだろう。
だから以前写本をした店が本命で他の店を回ってからにするつもりだ。
そう考えていると早くも一番近くにある本屋に到着した。
薬草の本を見せてもらうと訝しがりながらも本を持ってきた。
そして俺達の目の前で軽く開いてパラパラと本をめくった。
内容は簡単な物で1金貨だった。
俺達はお礼を言ってとりあえず別の店を見に行く事にした。
「あの程度だったらわかるからいらないな」
「そうだね。けどあの程度ので1金貨もすると私達がほしい本はもっとお金がかかりそうだね」
次の本屋に入ったが予想通りに門前払いにあった。
この店では絶対に買い物してやらない。
そう心に決めつつ本屋巡りを続けた。
その後回った所、安い物では10銀貨の簡単な物から4金貨の内容がしっかりした物があった。
4金貨とか強気すぎて売る気があるのか俺達が子供だからわざとそう言ったのかはいまいち不明だ。
結局、特に大きな収穫はないまま写本をした事がある本屋へと向かった。
本屋に着いて中をチラッと見て他の客が居ない事を確認して本屋に入った。
中に入ると店主は俺達を見て少し驚いた。
一応俺達の事を覚えているようだ。
「おはようございます。今日は薬草の本がほしくて見にきました」
「いらっしゃい」
そう言うと店主は本を探し始めた。
店主は2冊の本を本棚から取り出した。
「薄い方が初歩の本で1金貨、少し厚い方が少し詳しい本で2金貨になるよ」
「少し見てもいいですか?」
俺が恐る恐る聞いてみた。
「いいよ」
「ありがとうございます」
俺とラピアは交互に2冊を読み比べた。
俺は最初に薄い方の本を手に取った。
丁寧に本をめくると絵付きで解説が付いている。
軽く全体を見たがだいたい俺でもわかる内容だった。
俺は本を閉じてラピアが厚い方の本に目を通すのを待った。
そんな俺達を店主は眺めている。
ラピアが本に軽く目を通し終えると俺と本を交換した。
俺は厚い方の1冊を見た。
1冊目より詳しい内容であんまり見かけない草まで載っている。
ほしいと言えばほしい。
うーん、買うとしたらこっちになるけど2金貨は少し高いな。
俺は本を丁寧に閉じて店主に返した。
「ありがとうございます」
俺とラピアは目を合わせた。
ラピアは難しい顔をしている。
どうやらラピアも俺と同じ結論に達したようだ。
しかしさすがに2金貨は高いな。
2金貨あれば一番安いショートソードよりましな剣が買える値段だ。
俺達が思案していると店主が声をかけてきた。
「どうやら高い方がほしいけどお金の方が問題のようだね」
「はい」
俺は珍しく向こうから反応があったのでとりあえず素直に答えた。
「その高い方の本は1冊しかないから絵心があるなら写本してもいいよ。この前みたいに書く場所を貸すから君達なら数日で写せるでしょ。紙代とか込みで1金貨でどう?」
「本のページ数を確認していいですか?」
「どうぞ。」
俺は素早くページ数を確認した。
100ページには届かないが80~90ページ位になりそうだ。
紙の値段しだいだが薄い方の本と比べるとかなり安くて得になりそうだ。
店主側は本を見せるだけで1金貨から紙代を引いた金額が懐に入るから悪くない取引になるのか。
ラピアは絵も上手かったから問題は無いと思う。
俺はラピアを見て反応を待った。
ラピアが頷いた。
俺も頷き返した。
「ラピアが書くことになるけど大丈夫?」
「うん」
「1金貨で写本させて下さい」
「毎度あり」
「写本はいつどういう形でやればいいですか?」
「君達は上級紹介所だよね。あそこなら信用性が高いから写本する対価に1金貨って契約を結べば大丈夫なはずだよ。期間は多めに見積もって6日にしておくか。明日には出しておくから君達の都合の良い日においで」
「ありがとうございます」
俺達は互いに満足して取引を終えた。
俺達は帰りに紙の値段を調べた。
本に使う紙でだいたい1大銅貨から4大銅貨の間の値段だった。
1大銅貨の紙はかなり質が悪かったが以前写本した時に使った紙は2大銅貨程度の質だった気がする。
以前と同じ紙なら良い取引になったな。
今日は様子見の予定だったが話しが一気に進んだ。
その後、斧の値段を見たが最低でも2金貨、まともに使えそうなのは3金貨だった。
フォレが使っていたのは小さい物でも4金貨以上の物を使っていたので斧を買うのは一先ず諦める事にした。
『おはようございます』
「おはよう。本屋から依頼が来ているぞ。と言っても今回はお前達が払う側か」
「うん。紹介所ではそういうのもやっているんだね。中々便利だ」
「ああ、ここは信用が高いしちゃんと双方が納得しているなら色々な依頼を出したり受けたりできるぞ。これが紹介所を経由しないでやると騙したり騙されたりの心配をしなくちゃならないから大変だぞ。今回はお前達が前払いになるが金は用意してあるか?」
俺は20銀貨を手渡した。
「確かに1金貨受け取った。依頼を受けた日から6日間が期限になるぞ。それで誰が受けるんだ?」
「私が明日から受けます」
ラピアが前に出て鉄板を出した。
「わかった。お前達2人はどうする?」
「材木運びにしておくよ」
「ならこれだな」
俺達は木札を受け取った。
紹介所を通しているから行き帰りの迎えをすれば問題はないと思う。
大きな出費になったがこれからの事を考えると良い買い物になるはずだ。
写本は問題なく6日で終わった。
実質はもっと早く終わったが見直しなどを念入りにしたので6日間をたっぷり時間をかけて使った。
特に絵は失敗が許されないから俺では絶対にできない仕事だ。
さすがラピアだ。
ラピアは出来た本を恥ずかしそうに俺達に見せてくれた。
俺とメリが賞賛の声を上げたのでラピアは顔を真っ赤にさせたのだった。
メリも食べ物関係の事なので普段とは違ってまじめだ。
ラピアを先生にして3人が並んで本を見ながら一通りを読んでもらった。
せっかくなので時間がある時に全部覚えておこうと思う。
もっと下準備に時間がかかるかと思っていたが思ったよりも話しはトントン拍子に進んでいる。
これなら本をある程度覚えたらすぐ魔境に行ける。
メリはもう魔境に行く気満々で毎日いつ行くのか聞いてくるが本を暗記したらねと言うとぐったりしてしまう。
久しぶりの勉強なので最初は中々覚えられなかったが毎晩読んでいると頭も徐々に覚える感覚を取り戻してくる。
なんとか食べられる物と毒が強くて食べられない物を浅くだが覚える事ができた。
そろそろ魔境に行くとするか。