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最近は色々と目標が出来て充実した日々を過ごしている。
仕事は体力も付くし走り方の訓練にもなる。
最近は瞑想を始めたから少しの間はこれで色々と考察できる。
剣の修行はまだ実感はないものの、このまま続けていけばいいだろう。
今の訓練内容は俺とメリにとってはかなり良い内容となっているがラピアに関しては治療院に行く程度しか魔法の訓練としてはなっていない。
もう少し水魔法を使う機会があるといいのだがどうすれば良いのだろうか。
町中では魔法を使った訓練はできない。
下水掃除は臭いし暑いし遠慮したい所だ。
ドブネズミもこの前たくさん取ったので取りすぎも良くない。
仕事を変えるという手もあるが紹介所で聞いても中々俺の希望に沿う仕事は見つからない。
仕事に関しては材木運び以上の仕事を求める方が贅沢か。
だから今まで考えて来た事を2人に提案した。
「少しお金が貯まってきたし仕事では肉体労働ばっかになっているから薬草とかの薬学の本を買いたいけどどう思う?」
「げっ」
メリが露骨に顔を顰めた。
ラピアはすぐ俺の思っている事を理解したようだ。
「本は高いから私は無くても大丈夫だよ」
「安い仕事しかなかった時は本買う余裕はなかったけど今なら多少は余裕ができてたし勉強もしておかないと色々と忘れるでしょ。それに良い本があれば安い剣を買うより得になる」
「うーん。確かに最近はお勉強自体してないね。けど良い本はすごく高いよ?」
「そうだな。だから良い本が安かったら買おうかっていう提案になるな。今こんな事を言い始めたのには理由があって、その内に森の南の魔境に行ってみたいと思っている」
「魔境!? 行く行く」
「私も魔境に行って見たい」
メリもラピアも乗り気のようだ。
俺だって行きたかった。
けど今まではお金に余裕がなかったので行きたくても行けなかった。
「目的としては魔境の木を切って木刀を作りたい。それと魔境の木を切ってどの程度で売れるかも知りたいな。そうすると斧の値段とかも調べないと行けないけどそれは優先度的には高くない。あと良い石があれば石斧代わりに出来ないかなっていうのもある。2人は魔境でしたい事はない?」
「はい! 私は色々採取したいな。あとね、探検もしたい」
メリが手を上げて元気よく答えた。
浅瀬辺りの安全な場所ならうろついても大丈夫だろう。
「なるほど。だから薬草が載っている本を買うって話しになるのね」
「そうそう。採取するのは良いけどお金になる物や、食べちゃ駄目な物の判断が魔境だから普通の場所より難しいよね。だから最低限の知識だけでもあったらいいなって思ってさ」
「そういう事なら安くて良い本があったら買っても良いと思うよ」
「勉強は嫌だけど魔境に行く為の勉強かあ。しょうがないなあ」
メリは腕を組んでウンウン呻りながらもしょうがなく了承した。
「食べられる物かそうじゃないか程度でもわかると助かるはずだ」
「なるほどー。食べ物ならしっかり勉強しないとね」
「あんまり早い段階でこの話しをしてもメリが行きたくなって止まらなくなると困るから言わなかったんだよね。けど最近は色々と今の生活に慣れて来たしフォレから木の切り方とかも教わったからそろそろいいかなって」
「私はちゃんと我慢できますー」
メリが頬を膨らませた。
「ラピアは解毒の魔法も訓練してるよね」
「うん。ヒール程じゃないけど治療院で使ってるよ」
「という具合に色々と必要なものが揃ってきたからそろそろ魔境に行きたいと思う。その為の下準備をできるだけしよう」
自分で話しながらもそんなに深くは考えていなかったが長期的に考えていたような発言になってしまった。
まあ、いいか。
訓練も武器ばっかりでラピアにはもっと長所を伸ばして欲しいと思っている。
最近は全く勉強をしていなかったので丁度良い。
「そこらへんをフォレに話して魔境の注意点とかも聞いておこう。最近は仕事と訓練ばっかだったから偶には遊びに行くのもいいだろう」
「賛成ー!」
「賛成」
「よし、準備が整ったら魔境に行こう」
「久しぶりの魔境かー。早く行きたいなー」
かく言う俺もワクワクしている。
しかし魔境では何が起こるかわからないので細心の注意で挑まなければならない。
最初の数回は特に気をつけていこう。
純粋に楽しむのはある程度安定してからだ。
俺は胸が高鳴るのを我慢しつつ冷静を装うのであった。
「今度南の魔境に行くことにしたんだ。魔境の注意点って何がある?」
メリがフォレに尋ねた。
「ほう、魔境に行くのか・・・・・・」
フォレは頷いて少し考え始めた。
魔境の情報をフォレから引き出そうと思ったが失敗かな。
俺がそう思っているとフォレは何かを決心したように目に力が宿った。
「ふむ。なら今が一番か。わしの森番としての秘伝をお前達に教えてやろう。」
「え!私は魔境のお話しだけでいいよ? 今のきこりのお仕事を教えてくれるだけで十分だよ」
「いや、いいんだ。お前達が魔境に行くならこっちとしても良い時期だったのかもしれない。それにやってほしい事がある」
俺達は斧の素振りをやめてフォレの周りに集まった。
「椅子に座って話すか」
俺達がフォレに先導されえ外のテーブルの椅子に座った。
フォレは家の中に入ってお茶でも持って来るようだ。
俺は思ったよりも大きな獲物が釣れてちょっと戸惑っている。
少しするとフォレはドングリパンとお茶を持って出てきた。
いつもならドングリパンに飛びつくメリも神妙にしていて俺はほっとした。
「お前達が森に初めて入った時にこの森が魔境と理解したな。ここの森が魔境なのはわしがそう手を加えたからだ。魔素には流れがあって魔力のある物に引かれやすい。その習性を利用して魔境から森までの間に小さな木を点々と植える。木でなくても根のしっかり張るものなら代用できるが人通りも少ないし草の背も高いのでわしは木を植えている。それが魔素の道になる。そうすると木を経由して魔素が少し流れてくるのだ。人為的にやるならこれが一番楽な方法だ。遠い祖先は地下水脈などを利用して擬似的に魔境を作る事をしていたようだが管理が難しく今はその管理方法も失われている」
フォレは一息ついてお茶に口をつけた。
「お前達の話しを聞いてお前達の開拓村も魔境を利用していたようだから元の開拓団の方に方法が残っているかもしれない。わしの森番としての知識もわしの代で潰えると思っていたがお前達に教える事が出来て祖先にも顔が立つわ。ここの森の魔素はわしにしか懐かなかったがお前達にも懐いている」
「知識は秘匿して慎重に扱うべきだが抱え込みすぎて腐らせてもいけない。お前達の存在はわしにとって渡りに船と言った所だ」
フォレは話し終わると肩の力を抜いた。
フォレの中では残されていた肩の荷が下りて清々しているのだろう。
「ありがとうございます」
そう言うとフォレは首を軽く振った。
目からは感情は読みきれないが纏っている空気は柔らかい。
「なに、ただで教える訳ではない。お前達が魔境に行く時に魔素の道となる木を植樹してほしいのだ。木を切る分には楽だが植えるのは中々大変でな。植えても上手く育つと冒険者が取っていって減る一方なんだ。魔素が増えすぎたらこっちで適当に間引きするから植樹をお願いしたい」
「もちろん、まかせて!」
メリは胸を張っていった。
植樹程度で教えてもらうには貰いすぎな気がしたが本人が満足しるので問題はないな。
俺達はその後、魔境の注意点や植樹の仕方、魔境の木の選び方などをフォレから教わった。