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「今日から材木運びを初めてやる奴が何人か来るから森には入れない。せっかくの機会だからお前達に斧の研ぎ方を教えよう。」
「はい。」
「とは言ったが難しいものではない。お前達は剣を持っているから研ぎ方は知っているな?」
「みんな知ってるよ。」
「うむ。剣と斧の違いは刃の形状にある。斧の先端はいうなれば閉じた貝の形をしている。剣は真っ直ぐ研ぐが斧はその貝の形を壊さないように円を描くように研ぐのだ。」
フォレは円を描くように斧を研ぎ始めた。
「そして最後の仕上げに少し先端を真っ直ぐに研ぐ。これは好みによるからやってもやらなくても良い。基本的には円で研ぐだけで十分だ。」
俺達はフォレを真似て斧を研いだ。
研いで居ると人の気配を感じた。
少し遅れてフォレも気が付いたようだ。
「人が来たようだな。研ぐのが終わったらいつも通り素振りだ。」
「はい。」
俺達はその後強化で刃先を丸くしながら素振りをした。
今日は人が多いようでフォレもそれに付きっ切りのようだ。
昼が来たので丁度人が納まったフォレと一緒に飯を食べた。
「この前、馬車とか馬持ちの人とすれ違った時に俺達の報酬がばれたのかもしれない。」
「なるほどそれで大盛況か。」
「俺達のせいですみません。」
「気にするな。どうせそんな奴らは長続きせん。たまにこういう事があるが少し時間が経てばすぐ収まる。この分だとここ1週間は忙しくなりそうだからお前達は下水掃除をやっていて良いぞ。」
「わかりました。」
俺達はその後、計2往復したが行き交う人が多い。
それによく視線を向けられる。
これは完全に話しが漏れ伝わっているようだ。
しかしすれ違ったの時は丁度フォレに教わっていた時期だから2往復しかしていないはずなんだけどな。
厄介なものだ。
これは目立たないように下水掃除するのが正解だな。
材木運びに人が増えた次の日、俺達は朝一番に紹介所に来た。
「なるほど。ちなみに俺から漏れた訳じゃないからな。」
俺はわかっているが疑わしそうに見つめた。
「本当? とりあえず下水掃除を受けるよ。」
「よし来たもんだ。本当だよ。こっそりばらす可能性はあるがそんな大々的にばらすようなヘマはしないぜ。」
信じて良いのか悪いのかなんだかよくわからない反応だ。
最初からあんまり信じてないけどつまらない事で欲をかいて失敗するようには見えない。
俺達が大きく不利益を損なうような事はしないだろう。
門番から漏れていたならもっと早くにばれていただろうから馬車で運んでいた人だろう。
「それでいつからやれる?今日からでもいけるぜ。」
「今日からで。いつも通り2日仕事、1日休みでよろしく。」
「はいよ。じゃあ頼んだぜ。」
『ありがとうございます。』
俺達は下水掃除に向かうのだった。
今回は下水掃除が終わった後にドブネズミ退治をすることになっている。
どれくらい賢くなっているかが問題だ。
賢くなりすぎていたら俺達じゃ捕まえられなくなっているかもしれない。
俺達が下水管理所に行くといつもの男が出てきた。
「お、今回は君達が受けてくれたのか。助かるな。」
「はい。がんばります。ただドブネズミ退治はできるかわからないので今日の結果を見てから判断します。」
「話しは聞いてるよ。わかった。よろしく頼むよ。」
男は満足して持ち場に戻っていった。
俺達も掃除道具部屋に移動した。
下水の中は夏なので暑いわ、何時もより臭いわで他の人が受けないのも納得だった。
俺達はいつも通りに最初にドブネズミ狩りとゴミ拾いを行った。
結果、問題なくドブネズミは狩れた。
馬鹿が音と光で追い回したようで俺達にとっては特に変わらずに狩れるようだ。
俺は一安心して掃除に励んだ。
何時もより昼休みを長めに取って程々な時間でその日の仕事は終わった。
そして俺達は仕事の後にドズの元へ向かった。
いつも通り子供に小銭を渡してドズの所に案内させる。
「この前はこちらの失態で申し訳ありやせん。」
俺達の顔を見るとドズは禿げ上がった頭をすぐ下げた。
「ああ、次は助けられないから注意してくれ。明日と4日後、5日後に買取を頼む。」
「へい。あっしが行きやしょうか。」
「いつも通りで良い。ただ7日目、8日目にドブネズミ退治を中心にする。量が多くなるけど買取を頼めるか? 数はいつもの2倍かそこらにする予定だ。もちろん量が多いから俺達がこっちに持ってくる。」
「へい。大丈夫です。」
少し思案顔をしたドズだったが大丈夫のようだ。
「7、8日目は量が多いから少し安くてもいいぞ。じゃあ明日から頼んだ。」
「ありがとうございやす。それとデロス町の開拓村の方は探索の方はいまいちですが村への移行には成功したようです。今は近場の木を切っているようです。」
俺が袋から大銅貨を取り出そうとした。
「いえ、今回は迷惑料なので結構です。またのご贔屓お願いしやす。」
ドズは深々とお辞儀をするとそう言った。
次は助けられないと言ったあたりから少し不機嫌なメリを気にしないようにしつつ夕食を買いに行くのだった。
下水掃除は問題なく終わった。
ドブネズミの買取も今回は絡まれる事なく平穏に済んだ。
俺はほっとしつつドブネズミ退治を行った。
俺とメリが探してラピアが狩る。
今回は西側の掃除をしていたので北、南、東を2回に分けで回るつもりだった。
しかし南を回った所、既に50匹ほどのドブネズミが集まってしまった。
俺達は早く集めすぎたかと思いながらも昼まで掃除道具部屋で時間を潰した。
昼飯をゆっくり食べた後に俺達はいつもより多めに体を洗った。
夏の暑い時期なので気持ちがいい。
1人が水を出して1人が服と体を洗うのを手伝った。
またメリの身長が伸びたのを確認して俺は悔しかったので脇を思いっきりくすぐってあげた。
ラピアが少し羨ましそうにしていたのでラピアにはまじめに洗ってあげた。
メリが不公平だと言ったが普段の行いの差だ。
俺は最初に洗ったので後出しが最強なのだ。
俺はもう終わったから余裕の態でいたら洗うのとは関係なしにメリに捕まってくすぐられた。
メリの圧倒的力の前では俺は無力だった。
少し時間を潰した後に俺達は下水管理所で捕まえたドブネズミを見せて仕事の成果を確認してもらった。
男は嬉しそうに頷いて明日も頼むよと言った。
俺達はドブネズミが詰まった袋を持ってスラムへ向かった。
ドズの場所は知っているがいつも通りに案内してもらった。
「へへ、さすがに早いですね。」
ドズは嬉しそうに俺達にお辞儀をした。
「明日もこれくらいの予定だ。」
俺はドズに袋を手渡しながら言った。
ドズは嬉しそうにドブネズミを1匹1匹取り出しながら数えた。
「53小銅貨になりやす。」
「50小銅貨でいいよ。」
安くても良いと言ったがドズの査定はいつもと同様の査定だった。
気分良く商売をさせてくれるので俺は安く売ることにした。
一応ラピアの方を向いてみたが頷いてくれたのでほっと一安心だ。
「旦那、失礼承知で聞きやすが明日のドブネズミの数を増やす事はできやすか?」
ドズの気配が少し変わった。
いつもだったら小銭が浮いてニヤニヤしているのだが今回は違うようだ。
「今日以上に取れるよ。」
「銭は用意するので多めにお願いできやせんか? 今回は量が多いので燻製にしようかと思ってやす。」
「なるほどね、分かった。ついでに蛙の串焼き3本貰うよ。」
「毎度ありがとうございやす。」
ドズはすぐいつもの雰囲気に戻った。
燻製にするなら数を集めてからやった方が効率が良い。
ドズにとっても稼ぎ時なのかもしれない。
今回は南しか取ってないので明日は残りの東と北で取れば良い。
今日の反応を見たところ、下水管理所には今日より少し多めに見せれば大丈夫だろう。
俺は内心ニンマリしながら明日が待ち遠しくなった。