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俺は討伐隊の疑問をフォレに聞いてみた。
「討伐隊の主な収入源はここらの魔境だと獣だな。」
「猪とか鹿とかかな?」
「そうだな。それに兎や鳥類も多い。獣が不猟だと穴埋めに木を切ってくる。」
「魔境の木っていくらで売れるの?」
「物によるがここの南の魔境だと普通の木材の2倍以上になる。その分重さも2倍以上になっている。」
「それだとすごく儲かりそうに聞こえるけどやってる人が少ないってことは大変なんでしょ?」
「そうだな。管理された森と魔境の森で違いは何だと思う?」
俺は少し考えて答えが何個か思い浮かんだ。
俺はメリとラピアを見た。
メリはいまいちわかってなさそうだ。
ラピアは自分なりの回答を見つけたようだ。
「うーん。あ、明るい。」
「それもあるな。」
「木が真っ直ぐ伸びてる。」
ラピアが答えた。
「そうだ。人が管理している森は売り物にならない曲がった木などは切ってしまい、真っ直ぐ伸びるように手を加えられている。だがメリが言った事も間違いじゃない。魔境の森は基本的には鬱蒼とした薄暗い森になるが、人が手を加えると風通しの良い、木漏れ日のある森になる。場所や植えている木によっては変わってくるがそれが大きな違いだ。森は人が手を加えることで森全体を活性化させることができる。」
日当たりの良さも正解だったのか。
思い浮かばなかったな。
「お前達の村の近くの魔境はどうだった? 確か森の魔境だったな。」
「確かに木は少なかったけど真っ直ぐだったよ。」
「それはお前達の村の大人がしっかり森を管理していた証拠だ。魔境は魔素が豊富なので外に比べると木の成長速度は2倍から6倍になる。条件が重なるとそれすら上回る時がある。土や水の属性が強いと植物が良く育つ。数が少なかったのはしっかり見極めるためにわざと減らしていたのだろう。」
「魔境の開拓はみんなで相談して計画的にやってるって言ってたよ。」
「なるほど、一度話してみたかったな。魔境では売り物になる木を探すのが困難だ。特に浅瀬の木は良い物はほとんど取られてしまっている。だがそのまま放置していればすぐ新しい木が生える。そして木が少し成長した頃にまた人が取っていくという具合だ。それでも浅瀬で程々に取っていく程度だからそこまで魔境の環境を変えることがなくて安定している。これが近くに採取用の開拓村が出来たらあっという間に狩りつくされて魔境の環境を変えてしまうだろう。そうすると大きなしっぺ返しが来るっていう寸法さ。森を維持するのも魔境を維持するのも人しだいってわけだ。」
「採取用の開拓村ができない人気の無い場所を選んだって大人達が言ってた。」
「周りに開拓村が多いと自分達だけが上手くやってても周りが下手すりゃ巻き添えだからな。」
「大人達はやっぱりすごかったんだな。」
「うんうん!」
「今日はこんな所にしておくか。しかしこの話しもある程度の学がないと理解できないものだ。仕込みは上々、あとは実践と応用だ。」
『はい。』
俺達は丸太を持って町へと戻っていった。
俺達は4日働いたら一回紹介所に顔を出す事にしている。
あんまり木札を溜め込んだら俺達もわからなくなる。
『おはようございます。』
「おはよう、最近はよく稼いでいるな。」
「周りに合わせなくて良いから気が楽だ。」
「はは、違いない。」
「この前、南門で探索隊が居たけどあれは何を採取してるんだ?」
「詳しくは知らないが魔獣や獣、木を取ってきているぞ。」
「儲かってるの?」
「それなりって所じゃないのか。南の魔境は木が取れるし去年もこの時期に魔境入りしてたから赤字にはならないだろう。お前達も興味があるのか?」
「一回は見に行きたいけど斧がないから金稼ぎは難しいね。」
「ま、お前達ならそのうち買える金が貯まるよ。そういえばデロス町の北にある町で町長が不正で捕まったらしいぞ。お陰で向こうは大混乱だそうだ。」
「大変だなあ。エル村に影響が出ないと良いな。」
「こっちとしてはまた日雇いが流れてくるんじゃないかと戦々恐々だぜ。今でも下級紹介所は大変なんだぞ。冬が心配すぎるぜ。」
「冬かあ、雪降ったら仕事はどうしようか。」
「冬は仕事も減るし、減った仕事にみんなが殺到するから大変だぞ。今の内に稼いでおきな。冬でも下水掃除はお前達を待ってるから安心しな。」
「臭い上に寒いとか遠慮したい所だな。」
「だよな。」
俺達は紹介所から出た。
現状は材木運びをして金と体力を増やしていこうと思う。
「今日からきこりの仕事について教えるぞ。お前達が知っている事もあるだろうが、どこまで知っているかわからないから最初から説明する。」
『はい。よろしくおねがいします。』
今までも簡単な事は話しに出てきたが今回から本格的に俺達はフォレからきこりについて学ぶ機会を得た。
俺はしっかり覚えられるように気合を入れて臨んだ。
「最初は基本的な事だ。まず仕事道具の斧について話す。他に細かい小道具もあるがそれらは一通りの説明が終わってからにする。斧は基本的には鉄の斧を使う。しかし鉄の斧は高いのでお前達が自前で揃えるなら石斧や木斧になる。木斧ははっきり言って何も無い者が無理やり、しょうがなく使う。魔境の外の木なら木の斧でも強化して無理に使えば使えなくはない。それだったら鉄剣でも強化して斬った方が下手すりゃ早い。武器の損耗を気にしなければな。しかし魔境の木を倒すには魔境の木の斧が必須だ。それでも時間がかかりすぎてやりたいとは思わないな。」
「石斧ならその品質によってだが時間をかければなんとかなるだろう。鉄剣で魔境の木を斬るのは鉄剣がボロボロになるから止めた方が良い。魔境の石で作った石斧でも良いが重量が普通の石の倍以上になるからお前達でも厳しい。普通の石斧でも相当重いぞ。お前達が使うであろう斧の材質はそんなもんだな。」
「斧は武器、伐採、薪割り、木材の削り等使い方によって種類がある。物によって使い方は違ってくるがとりあえず伐採用を優先するぞ。伐採用の斧は片刃と両刃の物がある。どっちも使い方は同じだ。ただ両刃の方は鋭い方と先が鋭くない刃があって用途によって使い分ける。鋭い方は小さい枝とか柔らかい部分を切る時に鋭い刃を使う。逆に硬い部分を切る時には鋭くない刃を使う。そうしないと刃がすぐ駄目になる。だから刃を研ぐのも考えて研がなければならない。斧の使い方を理解するまでは刃は研がない方が良い。」
「素人はとにかく鋭くしがちでそれが原因でよく斧を壊す。普通、武器に強化を施す時には鋭いイメージをする。しかし強化のイメージを刃の部分を少し丸くするだけで効果ははっきりと違ってくる。鉄などの硬い物を切る時には斬ると言うより叩き壊すというイメージになるだろ? それと同じだ。強者は鉄でも難なく斬るという話しだがお前達は基本に忠実にやると良い。まず刃先を丸く強化することから始める。」
俺達はフォレに体の配置と斧の振り方を習って素振りを始めた。
なるほど、ただ何も考えずに切っている訳ではなかったのか。
俺達が斧を持って素振りをしている様子をフォレは真剣に1人1人見て回った。
「木を切る時に重要なのは腰だ。安定した姿勢を身に着けないと怪我をするぞ。特に魔境の木は硬いから慣れない者がやると危険だ。そして力を逃さないように斧を当てる位置でしっかり止める。振りっぱなしだと体にも良くないし力が上手く伝わらなくて全くの徒労になるぞ。お前達は剣をやっているからわかるよな。剣はただ振り抜いた時と、しっかりと止めた時では威力が全く違う。素振りでもしっかり振って、止める。斧も一緒だ。しっかり切って、止める。」
斬るのと叩き切るは違う。
俺達は昼が来るまで素振りを続けた。
要するに斧も剣に通じるって事だ。
効率よく斬ったり叩いたりするのはどこも一緒だ。
そして重心の安定か。
ここが今回の訓練の重要点になるな。
俺達はきこりの訓練が終わると一緒に飯を食べて午後は材木運びに勤しんだ。
フォレは俺達の為にシチューを用意してくれていたのでメリは大喜びだった。
俺だって嬉しかった。
道場では剣の素振りをして、森では斧の素振りをする。
素振りばっかしてて妙な気分だがそれだけ素振りが重要ってことだ。