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いつもより遅く町に着いた俺達は町で昼飯を取る事にした。
せっかくなので何か1品買おうと屋台を見ていると最近出来たばかりのピクルス屋台を見つけた。
俺は満面の笑みでメリを見るとメリはハッとして逃げようとした。
「ピクルス食べようか。」
「嫌だー。」
「たまにはいいね。」
「メリ、浅漬けがあるからあれなら食べやすいはずだぞ。」
「それでも嫌だよ。」
「好き嫌いは駄目よ、メリ。」
「うえー。」
今回はラピアも同意してくれたので大丈夫そうだ。
俺達はピクルス屋台に近付いて何を買うか考えた。
きゅうりにするか人参にするか悩むな。
人参の方が食べ応えがありそうなので今回は人参のピクルスにした。
「人参のピクルスください。」
「私はきゅうりのピクルスください。」
「うーん。どのピクルスが食べやすいかな。」
「浅漬けのならどれでも食べやすいよ。お勧めはきゅうりの浅漬けだね。」
「きゅうりの浅漬けください。」
「はい、どうぞ。」
屋台のおばさんはピクルスを木の串で指して俺達に手渡した。
俺達は1小銅貨を払った。
座る場所を見つけてピクルスを齧る。
カリッと良い歯ごたえと共に酸っぱめに味付けされた人参の仄かな味がする。
うむ、これは当たりだな。
食い応えもあるし塩も良い具合に効いていて黒パンが進む。
「ラピア、一口ずつ交換しようぜ。」
「うん。」
俺はラピアに人参を差し出した。
ラピアは口を小さく開けて上品に人参を食べた。
「しっかりしてて人参も美味しいね。」
俺は柔らかくなったきゅうりのピクルスを齧った。
人参に比べるとしっかり漬かっていて酸味が強い。
メリが嫌がりそうな味だが口の中がさっぱりして脂っこい物に合うだろうな。
「きゅうりも美味いな。」
俺達は食べ始めてから何も言わないメリを見た。
「浅漬けなら美味しいかも?」
メリは味を確かめるべく啄ばむように何度もピクルスと黒パンを交互に食べている。
俺はわざと作り笑いをしてメリに言った。
「きゅうりはしっかり漬かっているけど俺の人参の方はメリでも美味しく食べられるぞ。」
そう言ってメリに人参を差し出した。
「う、嘘だ。いつもそうやってロッシュは私を騙すんだ。」
「本当に食べやすいって。騙されたと思って食べてみ。」
人参を向けられてそっぽを向いていたメリだったが俺が一向に引かないのでしょうがなく端っこのほうを少しついばんだ。
「ん?そこまで酸っぱくない。」
味を確かめて大丈夫そうだと思ったメリはもう一口食べた。
「あ、これなら大丈夫だよ。」
「ほら。美味いって言ったじゃん。」
「ラッキョウとかきゅうりのピクルスはまだ駄目だけど浅漬けなら食べられそう。」
そう言うといつも通りパクパクと食べ始めた。
虚実を混ぜるから意味があるんだ。
たまには本当の事を言わないと嘘ついた時に引っかからなくなっちゃうからね。
俺達は昼飯を食べて再び森へ向かった。
俺は森に向かいながら今朝合った探索隊について考えた。
あの移動速度だと魔境に着くのは昼前になりそうだ。
もし木を切るだけだとしてもどんなに早くても1日じゃ町に帰れない。
そうすると2,3日以上の日程になる。
馬車を用意していた所を見ると大物を持ち運ぶから日帰りという訳ではないか。
木を切るだけなら着いてすぐ木を切り始めて明日の昼過ぎ位までは木を切ることができる。
もっと粘れば夕方までは居られるな。
日も高くなってきているから粘ろうと思えば結構粘れそうだ。
その後に帰ってくれば夜には町に着く。
2日だとするといくらかかることになるんだ?
探索隊は10人以上の人数だった。
すごく大雑把に10人として計算すると報酬が1人8大銅貨として2日で160大銅貨はかかる。
体力を使う仕事なので食費が3食で毎食1大銅貨として・・・・・・。
走っていると考えがまとまらない。
落ち着いて計算すれば簡単だが走っていると簡単な計算すら難しい。
時間をかけてゆっくりと考えることにした。
うーんと、10人で1日3大銅貨の食費がかかるとして1日30大銅貨になる。
2日で60大銅貨だ。
そうすると最低でも160大銅貨と60大銅貨で220大銅貨かかる。
数が大きすぎてわからなくなってきたぞ。
落ち着いて計算したい。
「ロッシュ、どうしたの?」
「あ、ああ。探索隊の事を考えてた。休憩の時に話す。」
「わかったー。」
メリは俺が考え込んでいるので気を使ってくれたようだ。
俺の頭はそろそろ限界に達しそうだ。
どこまで考えてったっけ?
最低でも220大銅貨以上はかかるってところか。
実際探索隊は10人以上居た。
馬車も用意してあったから自分たちの物でない場合はもっと余計にかかる。
馬の餌はとりあえず置いておく。
これ以上入れたら訳がわからなくなる。
その他に色々と費用がかかるとして250大銅貨と勝手に考えよう。
魔境にいる約1日の間にそれだけの成果は上げられるものなのだろうか?
滞在期間が伸びるほど掛かる費用は増す。
一般的な森の魔境だと木、獣、植物の採取でお金を稼ぐ。
町に居る時には特にそういう話しを聞いた事がなかったのとあまり魔境へ行く探索隊が少なかったので高価な植物や鉱石が取れるわけではないだろう。
そうすると狩猟か伐採の2つに絞れる。
とりあえず今回は木を切ると仮定して考えてみよう。
木を切ったとして250大銅貨か・・・・・・。
普段俺達が運んでいる木の代金より木自体の値段は高い。
フォレは運び手が少ないのでかなり割高で運んでもらっていると話していた。
木の値段がわからないから考えはここまでだな。
持てる木の重量がわかればもう少し考えの幅が広がるが馬車にどれ位積めるかなどは俺にはわからない。
魔境の入り口で馬車は待機して人力で荷物を運ぶのか、魔境の中まで馬車で入るのか。
魔境に入るという事は馬にとっても負担が大きい。
外と比べてどれくらいの荷を運べるのか。
分からない事だらけだ。
考え事をしているといつの間にか何時もの休憩地点に着いた。
俺はメリとラピアにさっき考えてた事を話した。
ラピアはその話しを聞いて独自に考え始めたがメリはそれがどうしたのという顔をしている。
高く売れるんだったら俺達も取りに行きたい。
魔境に行ってみたいがそれを言うとメリが飛びついてきて行かなくちゃならなくなる。
だから今はそこまでは言わないでおこう。