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「合計132大銅貨だ。すげえな、定職以外ではこんなに稼ぐのは難しいぞ。」
「銀貨で。けど暫くはもう少し減ると思います。」
「なんでだ?」
「別の方に力を入れたいので少し様子見。あとラピアはそろそろたまに治療院の手伝いをやるつもり。それで質問なんだけど雨の日って木材運びはどうなるの?」
「木が濡れるから休んで良いぞ。森番から許可が出たからお前達はいつでも受けて良いそうだ。仕事の時はここで木札を受け取って町の木材屋で受領のサインを貰ってくればここで清算できるぞ。ただしあんまり木札を溜め込むなよ。いくらこっちで木材屋から報告が来ているとは言え、早めに細かく清算しないとこっちだって間違いが出たりするからな。」
「はい。」
「それと下水掃除の方だがお前達ほどではないが稼いでるらしいぞ。ただ仕事は雑だから下水管理所の方は微妙な反応だ。」
「ふーん、それ位が丁度良いね。良すぎても悪すぎても困るから丁度いいよ。」
「はー、お前のその謎の余裕はすごいよな。こっちが感心するわ。けど実際に余裕があるんだよなあ。」
「小金に釣られている内は安心でしょ。俺は自分達の身の安全が最優先だからね。それとラピアに治療院の仕事をよろしく。」
「ああ、様子見で2日にしておくか?」
「はい。」
ラピアが頷いた。
「俺達はとりあえず材木運びをやるよ。」
「わかった。これがお前達用の木札だ。」
「治療院にはいつもの時間に行けば良い。」
『ありがとうございます。』
俺達は紹介所を出て道場へ向かった。
ここ数日の材木運びで筋肉痛は普段使っていない筋肉を使ったからだと言う事がわかった。
俺は強化の強さの調整に失敗したわけではないとわかり安心した。
しかし次からは今まで使わなかった筋肉を使うから筋肉痛は当分続く事になるだろう。
頭の中で喜ぶゲニアの顔が浮かんできたので切り伏せた。
まだだ、今は雌伏の時なのだ。
ラピアが治療院で働くようになって少し経った。
足の筋肉痛もしなくなってやっと俺達に平穏が訪れたのだ。
しかし最近は徐々に雨の日が増えてきた。
雨の日に道場へ行って晴れの日に木材を運ぶ事となった。
雨の日の後は道がぬかるむので走るのも大変だ。
最後に持ってくる木材も小さい物にしたりして調整している。
人通りが少ないので道が踏み荒らされてぐちゃぐちゃにならないのが救いだ。
市場では少しずつ葉物以外が増えてきた。
アスパラは取立てが美味しいのでわざわざ昼に買いに行って生でそのまま食べた。
きゅうりやそら豆、早い瓜ももう出始めている。
村では旬の野菜が体に良いと言われたので、できるだけ旬の野菜を食べるようにしている。
町には珍しくピクルス屋台が一軒できたのでそこで嫌がるメリにピクルスを食べされせた。
今はもう野菜が出始めてきているが野菜が少なくなる冬から春には通ってもいいだろう。
雨の日が増え始め、仕事に行く日よりも道場に行く日が増えてきた。
そろそろ材木運び以外の仕事をした方が良さそうだ。
ラピアは治療院で安定して働いている。
デロス町でも大丈夫だったのでグリエ町の治療院でも安い上に使える人材が来て喜んでいるらしい。
雨の日が長いと日雇いの仕事も減ってくる。
冬の時とは比べられないが町は少しピリッとした雰囲気を漂わせている。
俺達は新しい仕事を探しに紹介所に顔を出した。
『おはようございます。』
「よお、最近は雨で仕事不足か?」
「ああ、道場に行けるのは良いけどお金が心配になってきた。」
「残念ながら屋内の仕事はもうないな。この時期になるといつもこんな感じだ。冬もこうなるから考えておけよ。」
「雪が降らなければ材木運びで十分だ。」
「若いなー。今残ってる仕事は下水掃除があるぞ。」
「他の奴らも真似をして3週間もしない内に取れなくなってみんな止めたぞ。」
「なんでそんな情報が漏れてるんだよ。」
「自分達で自慢してたそうだ。」
「まあ、段々は取れなくなって来るとは思ってたけど自分から自慢するか、普通。」
「お陰で下水掃除は閑古鳥って訳。今は水の流れがいつもより多くてあんまり臭くないぞ。」
「ラピアが居ないからネズミは取れないな。他にある仕事は?」
「泊まりなら雨で崩れた道の補修とか荷運びがあるが日帰りはみんなが受けててないな。」
「はー。じゃあメリ、下水掃除でいい?」
「いいよー。」
「下水掃除でよろしく。」
「おっしゃ、頼んだぜ。残ってるのが下水掃除だと聞いても誰も受けないからな。」
俺達はしょうがなく下水掃除を受けることにした。
ラピアが居ないのでおこづかい稼ぎは無理だ。
抜き足差し足でドブネズミに襲い掛かっても良いがあんまり失敗して学習されてもまずい。
明日からやる予定だったが今の時期は物が詰まったりするのですぐやってくれとのことで俺達はその足で下水掃除に向かった。
下水管理所では俺達の人数が減ってるのを心配されたが別の仕事を受けていると説明した。
そして俺達は下水掃除を始めた。
いつも通りに大きいゴミを集めたが流れ込んだゴミが多くて水の流れを塞ぎそうになっている場所が数箇所あった。
ドブネズミは完全に無視して掃除に取り掛かった。
何時もはラピアに水を流してもらうが今回は水の流れが強いので魔法なしで俺とメリでゴシゴシと洗った。
二人だからいつもより時間がかかるかと思ったけどいつもと同じような時間で終わった。
良く考えてみるといつもは水魔法使ってる人と洗う人が2人だからいつもと結局変わらなかった。
俺達は5分の1程度をさっさと終わらせて雨が少し降っている外へ出た。
作業する人数が少ないので今回は5日の仕事になっている。
これで4日でやれと言われたら次からは避けようと思ったがしっかり調整してくれたので安心だ。
水魔法で何回か全身を洗った。
洗っていて気が付いたが、メリはまた身長が伸びたようだ。
俺だって大きくなっているはずだがメリはグングン伸びていてそろそろ普通の大人の女性と同じ位になってるんじゃないかな。
俺がメリを眺めているとメリは俺をチラッと見てすぐ逸らした。
俺もメリみたいに早く大きくなりたい。
魔法の水はすぐ消えるが雨水は消えないので必要な物を買ったらさっさと部屋に戻って風魔法で乾かそう。
朝飯を食べた後はラピアを治療院まで送っていく。
それから俺達は下水掃除に向かう。
最近はいつも雨が強く降っていて下水管理所に付く前に濡れねずみになってしまう。
下水管理所の一番臭くなさそうな場所で少し乾かしてから俺達は掃除を始めた。
昨日より新しいゴミが増えているが軽く集めてから掃除に取り掛かった。
最近はメリとばっかりいるなあと思っているとメリが俺を見ている気配を感じた。
俺がメリの方を見ると既にメリは視線を俺から逸らしていた。
なんだったんだ?
今日はからかってないからお怒りは買っていない筈だぞ。
まあ、メリだから大したことは考えていないだろう。
俺達はその後もまじめに掃除をして何事もなく仕事が終わった。
早く材木運びがしたいな。
雨の日はその後も続いた。
俺達は道場に通いながらも夏の訪れを待つのであった。