9話
俺達は食堂へと移動した。
今日の夕食は黒パンと野菜スープに魔境で採取した物が加わった。
大皿に虫や蛙、蛇、とかげが丸焼きにされ小さく切り分けられて載っている。
「この蛇は俺が捕まえたんだぜ。」
グロウが得意げに言う。
しかしグロウの目線は他の味の良い物の方に注がれている。
村長の合図の後に食事が始まるとグロウは一番大きい蛙の足を取った。
俺はというとみんなから人気がない虫の丸焼きを取った。
見た目は悪いが栄養価が多いし、慣れると美味いんだけどな。
「今年は去年より豚が増えたから祭りでは腹が壊れるほど喰うぞ。」
グロウが鼻息を荒くして言った。
「そうだな。年々畑も広がってるし、家畜も増えてるし良い事尽くめだ。」
「いつになったらポリジから卒業できるんだろうか。憂鬱だぜ。」
「それはないな。」
俺が言い切る。
「私はポリジも良いと思うよ。」
ラピアが言ったがほとんどの者がそれはないという顔をしている。
「ポリジは栄養もあるし、消化にも良いのよ。毎食出てもいいくらいの一品よ。」
セリナが冷たく言った。
「毎食ポリジになったら反乱が起きるな。俺が起こす!」
「グロウだけじゃすぐ鎮圧されるな。」
エスタがグロウを一刀両断する。
「覚えてろよ!」
さすがグロウ。
捨て台詞も堂に入っている。
「なあ。ラコスもポリジは嫌いだよな。」
「そ、そうだね。もう少し美味しかったらなあ。」
突然話しを振られたラコスはモゴモゴして言った。
「好き嫌いは駄目よ。」
ウカリスがラコスに言った。
ラコスは突然シャキッとして、わかったと言った。
俺もポリジは好きではないがしょうがない面もあると思う。
安い、早い、栄養豊富となると味に目を瞑っても仕方ない。
「今日も一日お疲れさま。おやすみ。」
エスタの一言で今日も皆、家路につく。
今日のライトの担当は広間なので魔力の消費が少なくて済む。
ライトを使いながら俺は本を開く。
本を読んでいるとラピアが寝室にライトを設置し終えて俺の隣に座った。
「わからない所があったら言ってね。」
「うん。ラピアありがとう。」
俺達はテーブルの隅で静かに勉強し続けた。
「ロッシュはなんで薬師にならないの?」
「薬師は大変だからなあ。それに会計になって別の村とか町にも行きたいし。」
「ロッシュなら勉強もできるし光魔法適性もあるからピッタリだと思うのに。」
「光魔法はライトしかまじめに鍛えてないからなあ。ラピアと違って魔力が多いわけじゃないから強化とライトでいっぱいいっぱいだよ。」
「私に遠慮してるなら気にしなくていいよ?」
「そんなことないよ。薬師って柄じゃないし強化を主にがんばる。」
「戦闘職目指している訳じゃないのに強化ばっかりしてるよね。」
「強化は使い勝手が良すぎる。魔境耕すのにも使えるしね。まじめにやってればきこりにだってなれる。そしていざとなれば自分だけは逃げて生き残れるぜ!」
「もう、メリだったらそこは俺がお前を守ってやる位言えばいいのにって言うね。」
「俺達はメリに守ってもらう側だからな。」
「そうだね。私が薬師になって、ロッシュも薬師になったらおもしろそうなのになあ。」
「そう言われると弱いな。」
二人とも本から目を話さずに話す。
仕事は別に選り好みしないが孤児院のみんなと離れるのは寂しいな。
そこまで寂しい訳じゃないがたぶん自分の家をもらって少し経った時に今の生活を懐かしむんだろうな。
最近、こんなことばっかり考える。
弱気は駄目だ。
力がほしいな。
何があっても動じることのない力と心が。
祭りの前の3日間は参加する9歳から11歳の子供達は仕事を免除される。
その時期に大人に相談したり祭りの為の訓練を行ったりする。
孤児院では11歳のメリとラピアが順に院長に呼ばれ話し合いが行われた。
その次に俺とグロウが順に呼ばれた。
「ロッシュは今回はどうするんだい?」
院長が優しく俺に語り掛けた。
「会計狙いで学力部門3位を取ることが目標です。婚約は・・・・・・メリかラピアだったら良いです。」
「そうかい。そうかい。」
院長は嬉しそうにゆっくり頷く。
「他に相談したいことはあるかい?」
「特にないです。」
「それじゃあ話しはこれで終わりでいいわよ。」
「え、もう終わりですか。」
「簡単な確認だけだからね。来年はもっと仕事の事とかするけどロッシュはしっかりしてるから希望通りで大丈夫よ。」
「はい。ありがとうございました。」
話し合いはすぐ終わった。
肩透かしを食らった気分で部屋から出るとグロウが話しかけてきた。
「早かったな。何を話したんだ。」
「仕事と目標と婚約のこと。」
「入ってすぐ出てきたから驚いたぜ。となると俺もすぐ終わるな。」
そう言ってグロウは意気揚々と院長室に入って言った。
グロウが出てきたのはその後随分時間が経ってからだった。
そしてその顔には焦燥が見て取れた。
祭りで勝者が決まった後は3日かけて各自の職業と結婚が決まる。
結婚が決まらなかった11歳の者はその後時間をかけて結婚相手を探すことになるが大人達がお節介をやくのである程度の期間でみんな決まるらしい。
ここ2年連続で武力部門で一位を取っているメリ以外は落ち着かない様子だ。
いや、グロウだけは別だ。
グロウは計6日休みだと言ってウキウキしている。
あいつは大丈夫なのだろうか。
大抵の参加者は戦闘訓練場に集まり、最後の仕上げをしている。
俺は孤児院で勉強をしているが気合の入った声が聞こえてきて身が引き締まる。
今年一番の目玉とされている美少女のウカリスだが歳も相まってどれも平均より下だ。
となると俄然男子は白熱している。
魔力部門は今年は女子が1位から4位位までは埋めそうなので武力部門が勝負所となる。
武力1位はメリが確定と考えると熾烈な2位争いとなる。
武力部門は総当り、魔力部門は勝ち抜き戦となっている。
魔力部門、学力部門、武力部門の順で行われるので魔力の配分が重要だ。
だが魔力部門で上位を狙う者は武力部門は棄権して、武力部門で上位を狙うものは魔力部門は棄権する。
魔力部門では足を止めた真っ向からの魔法の打ち合いなので終わった頃には参加者はみんな魔力切れ寸前になってしまう。
武力部門ではみんなが強化を使うので魔力が残っていない者が勝てるほど優しくはないのだ。
俺はもちろん武力部門に参加する。
魔力部門の参加者が大半が女子で8名、武力部門は男子多めの12名となった。
魔力部門の参加者は1日目の訓練が終わった後、2日目、3日目は魔力の回復に努める。
武力部門の参加者も強化は使わずに魔力をできるだけ貯めて完璧な状態で祭りの日に備える。
俺が勉強をしているとラピアが隣に座ってきた。
「勉強の進みはどう?」
「まあまあだなあ。ラピアは魔力回復の休みか。」
「うん。私も勉強しようかなって。」
二人は静かに自分の勉強を始めた。
こういう時だからこそ集中して最後の追い込みをかけるのだ。
その後は特に話すこともなく一日中勉強をした。
「ラピアは明日はどうするの?」
「明日も勉強するよ。中には魔力回復の為に瞑想とかしてる子もいるみたいだけど私は魔力がほとんど回復してるからね。」
そして次の日も俺達は祭りの為に一日中勉強に励んだ。
祭り前の準備期間3日はあっと言う間にすぎていった。
そしてついに祭りの朝となった。