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俺達が森の丸太小屋に着くとフォレは驚いた顔をした。
「3往復するというだけあって早いな。体力は持つのか?」
「次は休憩しながら来るのでゆっくりだよ。」
メリが答えた。
俺達は再び3大銅貨の丸太を受け取って町を目指した。
やっと俺の番が来たな。
どうやって上手く運んでやろうか。
背負子をラピアに渡した俺は丸太を持って色々な走り方を試した。
実際に使えそうな方法は見つからなかった。
「メリ、どう? 丸太が上下してない?」
「してた。」
「うんうん。走りながらでも丸太が上下しない走り方、つまり上半身の重心が安定している走り方を探そうってわけ。」
「なるほどねー。」
「今少し試したけど良い方法はまだ見つからないな。メリも何か気付いたら教えてくれ。」
「まかせて!」
今回に限っては良い走り方を見つけるのはメリかもしれない。
元々俺達より安定していた可能性がある。
俺はダンジョンの暗闇の中で色々な案を練っていた時の事を思い出して今回も頑張ろうと思った。
しかし、結局何も掴めないまま町へと到着した。
これは長引きそうだなと思いつつ丸太を納品した。
「それで昼は外で食う?」
町の様子と太陽の位置的には昼飯の鐘が鳴る前のようだ。
「もちろんお外で食べるよ。」
メリが言った。
「うん。それでいいよ。」
「わかった。じゃあ、行こうか。」
「おー。」
朝からいる門番は俺達が町を出るのが3回目だとわかっているので呆気に取られている。
俺達は門番の視界から出るまでは走り出したくなるのを我慢して歩いた。
「蛇は合計3匹までな。次回からは1匹だ。」
「食べるのが大変だよね。」
「えー、いっぱい捕まえたいなあ。」
俺達は競い合うように蛇を捕まえた。
当然の如くメリが2匹捕まえて今日の勝者となった。
下見しておいた場所まで移動して各自準備を始めた。
俺は蛇を焼く場所の準備をしてメリは蛇の内臓などを捨てる穴を掘った。
ラピアは手際良く蛇を捌いていく。
俺は準備を終えて朝にフォレから貰った木の串用に使う枝を整えた。
メリも途中から参加した。
串がとりあえず形になってきたころにラピアも蛇が捌き終わったようだ。
各自思い思いの形でまだのたうっている蛇を串に指した。
蛇の皮は裏のぬめりをウォータで長々と落さなくてはならない。
結構面倒な作業が必要だ。
その後に干すのだがこのまま毎日蛇を捕まえてたら部屋が蛇皮だらけになって夢に蛇が出てきそうだ。
俺は嫌な想像を巡らせながら蛇を焼き始めた。
各自が木の串を強化して燃えにくくした所にファイアで一気に焼く。
魔境の近くではないのであっという間に蛇に火が通って肉の焼ける匂いがしてきた。
ラピアに岩塩を軽く削ってもらって焼蛇にかけもらう。
準備が整ったのでいつもより遅い昼食が始まった。
最近は蛙の肉しか食べれなかったので蛇でも嬉しい。
それに無料というのも重要な点だ。
この仕事は俺達以外がほとんど居ないという点で評価が高い。
俺はこうやって伸び伸びとできる環境の方が好きだな。
ううっ、ミュッケ村を思い出してきて悲しくなってきたぞ。
がんばらないと。
それにしても蛇は骨が変な形をしていて食いにくい。
これで骨が簡単な形だったらもっと本気で狩っていただろう。
俺とメリはラピアより速く食べ終わったので交互に蛇の皮を洗った。
ラピアは食べるのが遅くてごめんねと言ったが俺とメリが早いだけなので気にしない。
逆にメリが早すぎて女としてどうなのか心配になったがもう俺と結婚してたから別にいいか。
けど人の前ではあんな顔で蛇をがっついてほしくないな・・・・・・。
俺の気持ちが全然わかっていないメリは楽しそうに蛇皮を洗っている。
ラピアが食べ終わったので片づけをして森へと向かった。
時間はいつもよりかかったが美味かったし楽しかった。
俺達は丸太小屋に着いた。
「今まで3往復した奴は居たがお前達ほど余裕ではなかったぞ。」
フォレは呆れ顔で答えた。
「今日はね、途中で蛇を捕まえて食べたんだよ。美味しかったなー。また食べたいなー。」
メリが露骨に俺の方をチラチラ見てくるが無視だ、無視。
「うーん。帰りはどうしようか。」
「私は5大銅貨でもいいよ。」
「俺も5大銅貨でいこう。ラピアは4大銅貨の方がいいんじゃない?」
「うん。まだ大丈夫だけど今回は4大銅貨にしておくよ。」
俺達は重めの丸太を担いでゆっくりと町へ向かうのであった。
以前走った時のようにフラフラと歩いていたがまだまだコツは掴めそうにない。
けどこれで1日11大銅貨か。
ラピアのように10大銅貨くらいにしておけば良かったかな。
でもこれで金不足に悩まなくて済む。
「体力も付くし金も儲かるから木材運び中心でいいかな?少しやったらラピアは治療院の手伝いに行っても大丈夫だろう。」
「また蛇食べたいー。」
「治療院の手伝いはしなくても道場で使うから大丈夫だよ。」
「ラピアから見て見習うものがなかったらそれでいいよ。せっかくだから一回見てきたら?」
「あ、そうだね。」
「ちゃんとデロス町で治療院の手伝いをしていて、ベラと知り合いだよって言えば悪いようにはされないだろう。」
「うん。」
「へーびーたーべーたーい。」
「次の仕事は材木運びだからその時に食べられるって。」
これで今後の金策が楽になった。
一番の問題が解消されたのでできた余裕を有効に使いたい。
冬までこの仕事をやり続けても良い位だ。
俺達は顔がにやけるのを隠すのだった。
朝、目が覚めると足が痛い。
俺は目覚めと同時に後悔した。
メリも俺と同じ顔をしている。
ラピアは俺達ほどではないようだ。
最後の最後で油断したな。
俺はぎこちなく起き上がって痛みに耐えながらゆっくりと体を動かした。
痛む足を引きずって朝食を食べる。
ああ、柔らかくて温かいポリジは体に優しいな。
俺達はいつもよりゆっくり朝食を食べて紹介所に向かった。
『おはようございます。』
「おはよう、評価はいつも通りだ。お前達らしくもなく今日は疲れているようだな。」
「昨日がんばりすぎて筋肉痛だ。」
「そりゃ、こんだけ稼げばなあ。けどお前達にも子供らしい所があってほっとしたぜ。」
「久しぶりの外だったからつい頑張りすぎたよ。」
「今回は3人の合計金額で行くぜ。1日目は25大銅貨、2日目は32大銅貨で合計57大銅貨だ。」
「銀貨で。」
「はいよ。4銀貨と9大銅貨だ。次の仕事はどうする?」
「明日から2日仕事、1日休みの順で仕事日が計4日分お願い。木材運びは俺達以外の人を見かけなかったけどいつもあんな感じなの?」
「上級紹介所では受ける人はほぼ居ないな。けど中級紹介所で受けるやつは少ないけど居ると思うぞ。移動距離が長いのと昼飯が付かないってのが不人気の理由だな。」
「なるほどありがとう。」
「おう。」
俺達は足が痛いのでゆっくり歩き始めた。
今日の道場は地獄を見そうだ。
筋肉痛は回復魔法をするなと村の大人に言われていたからかけられないんだよな。
ゲニアは予想通り、筋肉痛の俺達を見ると嬉しそうにしながら言った。
「いつも万全な状態で戦えるわけじゃないよ。傷付いた時こそ落ち着いて戦うんだよ。」
言ってる事はご立派だ。
しかし笑いながら嬉しそうに俺達を追いかけてくるので説得力が皆無だった。
何時もは身軽な俺達でもさすがに動きが鈍っている。
それがまたゲニアには楽しいようだ。
いつかこのおばさんをギャフンと言わせてやる。