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俺達はフォレの丸太小屋に到着した。
会話もそこそこにして各自決めておいた重さの丸太を受け取る。
時間的にはかなり余裕があるが初日だからこれでいいのだ。
俺達はフォレに挨拶して歩き出した。
俺は3大銅貨の重さの丸太を持っているがこれなら駆け足以上でも問題ない。
しかし体が上下すると丸太が跳ねて肩が痛い。
当て布を増やせば軽減できるが走り方の方も考えた方が良さそうだ。
俺はちょっと走ったら二人を待つを繰り返して様子を見てみた。
背負子があれば走り方に工夫は要らないがせっかくなので上半身が上下しない走り方を考えた方がおもしろいだろう。
俺は次の課題を見つけてニヤリとした。
その後、各々が3大銅貨の丸太を持って少し走ってみた。
5大銅貨の丸太は重いが強化を使えば大丈夫そうだ。
しかしさっき走りながら思ったことだが歩きでも上半身が少し上下していた。
動きが遅いので走っている時のように気にはならないが重心がぶれるのはよくないので考える必要がある。
俺はそのことを二人に言うか言わないか考えながら歩いた。
結論は明日3大銅貨の丸太を持って走ってからにしておく事にした。
できれば二人がこの問題に気が付く前に解決策を見つけたい。
だってその方がすごいし俺自身も色々と試してみたい。
そんな事を考えつつ、町に着くまで懸命に歩き方を考えるのであった。
「ロッシュ君、君は何か隠してるね?」
材木屋に丸太を納品して夕食に向かう道でメリが俺に言ってきた。
こういう時にだけ勘が良くて困る。
「へえ、やるじゃないか。明日教えて上げよう。けどこれは自分で気付いた方がいいな。」
「勿体振ってないで教えてよー。」
「ふふふ。何事も自分で気が付いた方が身に付くのだよ。わからなかったら明日の昼に教えるって。」
「ぶー。」
「メリも気が付いた事があったらドンドン言っていいんだよ。次の修行の方法とかさ。俺ばっかり考えてない?」
「そんなことないよ。ちゃんと考えてるよ。」
全く考えてない顔でそう言われても説得力は皆無だ。
しかし俺はメリの直感だけは信じているので直感が舞い降りてくるのを期待しながら待っている。
要するに普段は全く当てにならないということだ。
それでもちゃんと自分で考えるようにしないと俺だけの考えじゃ間違った方向に進んでしまう可能性もある。
強い人程歩く時などの動作で重心がぶれない。
それは経験則から重心がぶれない方が良いという事を体が、頭が理解しているからだ。
だから本当に強い人は気配を隠していても歩き方でわかる場合がある。
逆に世間一般で強そうに見える巨体で筋骨隆々の男がノッシノッシと歩いていると見ているこっちが恥ずかしくなる。
わざとノッシノッシと歩いて見せているなら相当の使い手だろうがそういう人間で力を隠していそうな人間は見たことがない。
ちょっとした動きで運動神経の良し悪しがわかるので敵対する可能性があるダンジョン攻略組合の者などは気が付かれないように観察したものだ。
強い奴には近付かないに限るからな。
そこらへんがわかっていそうなのは奥に向かう数人程だった。
タウロ開拓団はほとんどがそうだったのでさすがにわかっているな。
ゲニアも重心が安定していて、エクレはまだまだって感じだ。
俺達は意識している分、エクレより少しましな程度だろう。
道は遠いな。
だが俺は課題を見つけた。
これを乗り越えれば一歩前に出ることができる。
勘の良い人間は自覚しないでも乗り越えられるが勘の悪い人間にはしっかり提示した方がわかりやすいはずだ。
自分に必要な物を見つけられる能力も重要ってことだ。
その点では俺もそこそこ出来るほうだろう。
メリは天才肌だしラピアは魔法に強いから俺にも何か秀でた物がないと可愛そうだよな。
明日はもっと上手くやろうと思いながら俺は眠りに付いた。
朝になった。
昨日の蛇は1匹1小銅貨でドズに売ってしまった。
その程度なら自分で食べた方が良かったけど焼くのはすぐに出来ても骨が変な形をしているから肉が食い辛くて時間がかかるから昨日は止めたのだ。
朝に温かいポリジを掻っ込むと体がジワリと温かみを増す。
黒パンを昼の分まで買って、俺達は森に向かった。
途中で小さい気配を感じたが昨日話しておいたお陰でメリは余裕を持って見逃した。
昼飯君とメリがボソリと呟いていたので今日は外で食べた方が良さそうだ。
外で火を起こせる場所を探しながら俺達は走った。
『おはようございます。』
俺達はフォレに元気良く挨拶した。
「おはよう。今日も早いな。」
俺達は3大銅貨の丸太を受け取って木札に記入してもらった。
「さすがに昨日のは重かったか?」
「そうでもなかったけど今日は3往復するつもりだからね。」
「3往復するのか?無理するなよ。」
俺達はフォレに見送れて駆け足で走った。
俺は二人に体感して貰う為に1回目は背負子を使わせてもらっている。
本当は丸太を持ちたい。
少し走ると慣れて来たので徐々に速さを上げていく。
速くなりすぎて遅くしたりと調整しながら走った。
一回目の休憩では二人ともまだわかっていないようだったのでそのまま言わなかった。
町に付いて丸太を納品し終わると俺は二人に尋ねた。
「どう? なんかわかったことはない?」
「わからない!」
メリは踏ん反り返って言った。
「背負子がもう1個あれば楽だと思った。」
「そうだね。けど俺達はもう1段階先に進みたい。」
「?」
「背負子を例えば3人分用意したら仕事は楽になる。けどそれじゃあ周りの人達と一緒だよね。せっかくだから俺はこれを修行に使いたいと思う。」
「おー。」
さっきまで疑問顔だったメリも拍手をし始めた。
「とりあえず森に向かいながら話そうか。」
俺達は南門を出た。
「はやくはやくー。」
「俺が昨日3大銅貨の丸太を持って走った時に思ったのはラピアと同じ考えだったよ。ただ、それで解決したら俺達自身の成長にはならないよね。丸太を持って走ると丸太が上下してぶつかる部分が痛くなる。これって重心がぶれて上半身が上下してるってことになるね。これを安定させることを目標にしたい。」
メリは途中まではわかっていたようだが最後の方は話しの繋がりがよくわからなかったようだ。
「強い人はどんな動作をしていても重心が安定してるからその真似をしようってこと。5大銅貨の丸太を持った時にも体は小さく上下していて重心は安定していなかった。だから重いものを持って歩いてる時と走っている時の両方とも重心を安定させるように修行したい。」
「それは良い考えね。」
ラピアが頷いた。
「私はそんなに上下してたかな?」
メリはいまいちピンと来ていないようだ。
「次に走る時に気をつけてみればいいよ。」
「うん。」
普通に走って安定させる分には太ももを高く上げて走ればそれで上半身が安定する。
しかし速度を落すとどうしても崩れる。
他の動作にもすぐ移れない。
何故ならばそれは早く走る事に重点を置いた走り方だからだ。
俺達はいつでも他の動作に移行できて、速度も調整できる重心の安定を目指している。
運ぶ物が軽ければその方法でもできるだろうが重くなると難しそうだ。
つまり俺達の目標は重い物を持った時にも重心を安定させられる走り方を見つける事だ。
なんかよくわからなくなってきた。
とにかく、今の方法以外のやり方を考えなければならない。