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「お前達は材木運びに来たんだったな。案内しよう。」
メリはフォレの後を素早く着いて行った。
俺達は慌てて後を追うのだった。
「説明は受けていると思うがだいたい重さで値段が決まっている。小さて軽い物は少し割安になる。好きなのを持っていくがいい。」
「俺はこの4大銅貨ので。ラピアは軽いのにしておく?」
「私も4大銅貨で大丈夫そう。」
「じゃあラピアが背負子を使って俺は背負い袋を持つよ。」
「私はー5大銅貨のやつ!」
「最初だから4大銅貨にしておこうよ。ラピアがつらくなったらメリが少し持ってあげて。」
「わかった。私も4大銅貨のやつにする。」
「お前達、結構重いけど大丈夫か?」
「今持った限りではまあ大丈夫ですね。いざとなれば背負子に2本つけてメリが持ちます。」
「まかせんしゃい!」
「わかった。木札を出せ。」
俺達は木札を出した。
フォレは木札に素早く書き込んでから俺達に渡した。
『ありがとうございます。』
「ああ、今日はすまなかったな。」
「大丈夫。また昼に来るのでよろしく。」
フォレが話し相手になった礼のお金をくれると言ったが受け取らない事にした。
お金を貰っても大した金額にはならないだろう。
それら恩を売った方が良い。
俺達は元気良く歩き出した。
さすがに走るにはちょっと重過ぎる。
早足程度が安全にできる範囲のようだ。
今回は初めてなので普通に歩いていった。
俺達は歩きながらフォレについて話した。
「偏屈って言われてたけどそうでもなかったな。まあ、俺達が適応してたからってのがでかいか。」
「良いお爺ちゃんだよ。ドングリパン美味しかった。」
「食べ物に釣られてないか?」
「まさかー。」
「本当に嬉しそうだったし嘘は言ってないと思うよ。」
「そうだな。嫌われるよりはいいだろう。」
「またドングリパン食べたいな。苦いお茶はいらない!」
「それより祝福ってのはなんか特別扱いで恥ずかしいな。適応が好きだ。」
「えー。祝福って格好良いよ。」
「私は適応でいいな。」
「えー。」
ラピアは俺に同意してくれた。
祝福は与えられるものだ。
俺達は自分達の力で魔素を吸収出来るようになったと思いたい。
だから祝福と言うのは受身のようで嫌なのだ。
その考えは傲慢な考え方なのかもしれない。
いつだって何かを変えるのは自分の力だ。
だから俺は常に前のめりでありたい。
森に向かった時と同じで小動物のような小さな気配を何回か感じたが荷物が重いし、いちいち置いて木に傷がついても嫌なので無視した。
メリが残念そうにしていたがこれから何度も来るとしたら最初に狩り尽くしてもつまらない。
丸太の重量はまだ大丈夫な範囲だがやはり早足程度が精一杯だ。
無理に走ると肩が痛くなりそうだ。
背負子の数を増やせばもっと楽になるのだが増やすとしても1個だな。
今は背負い袋1つと背負子1個が手元にあるが部屋に置いておけないので常に持ち歩く事になる。
背負い袋は何も入れなければ小さく畳めるが背負子は分解してもかさ張るし組み立てに時間がかかる。
収納性に若干の問題がある。
丸太運びをするなら背負子を一個増やした方がいいがデロス町と違って棍棒が安く手に入らないから作っても原料費が高く付くし、売ってるのはもっと高いだろう。
諦めて多少高く付くが、材木を買って自分で作るのが一番だろう。
今回の往復でとりあえず1日8大銅貨は楽勝という事がわかった。
次は量をわざと増やしてみるかどうしたものかな。
休憩を挟みつつ俺達はグリエ町に到着した。
門番も丸太運びは見慣れたもので俺達が小さい事を除けば驚きは少ないようだ。
俺達は指定の材木屋へ向かった。
材木屋に丸太を納品して木札に書き込んでもらった。
太陽の位置から見てまだ昼ではなかったがせっかく町に居るので昼食を取る事にした。
「4大銅貨分の仕事をしたけどどうだった?」
「楽勝ー。」
「私もまだ余裕があったよ。」
「午後はどうしようか。4大銅貨でもいいし、5大銅貨くらいの丸太でもいいよ。」
「私は5大銅貨の丸太にするよ!」
「私も5大銅貨に挑戦してみるよ。」
「じゃあ俺は3大銅貨のにするわ。」
「え、減らすの?ロッシュらしくないけどどうしたの? もしかして自分だけ蛇を取るの? ずるいよ! 私も取りたいのにー。」
メリは1人で勝手な想像をして1人で勝手に興奮しだした。
「ラピアが持てなくなった時の為だよ。」
「いや、ロッシュの顔がニヤついている!絶対如何わしい事を思いついたんだ。」
「ちぇ。ばれたか。何の為に3大銅貨の丸太にするか当ててごらん。」
俺はメリを挑発しながら言った。
「むむむ、わからないよ。ラピアはどう?」
「明日に3往復できるか重さを確認するんだね。」
「おー、さすがラピア。」
「そういうことだね。だからちょっと手間になるけど各自一回3大銅貨の丸太を持ってみよう。俺も5大銅貨分の丸太を持ってみたい。」
「ふむふむ。私は4大銅貨のでも駆け足くらいはいけるよ。」
「俺は安全を取って早足だな。」
「私も早足が安全だと思う。」
「それで何で3往復したいかと言うとさ、3往復なら昼の時間に外に出たり調整できるでしょ。2往復でもできるけど今日背負ってみた感じ5大銅貨だと速度も落ちるだろうし丸太を持っていくのに専念しなくちゃならなくなると思う。つまり余裕がなくなる。だからある程度余裕を持って行動できるように軽めを3往復したいんだよね。」
そして俺は今朝捕まえた蛇の入った袋を叩く。
「それでその余裕を何に使うかってのは、町中じゃ決まった場所じゃなきゃ火が使えないじゃん。けど外なら自由だから良い場所を見つけて蛇を焼いたり、買った野菜を焼いたりもたまにはしたいと思ってるんだ。今日捕まえた蛇も森に行く途中に焼こうぜ。」
「あー、それはいいね。蛇肉、肉。」
「とりあえず、明日に3往復をしてみて様子見だけどな。往復が多いほうが訓練にもなる。元はといえばメリ君がピクルスが苦手なのがいけないんだよ?お陰で生野菜しか食えなくなってるんだよ? わかってる? メリ君。」
「うう、だって美味しくないじゃん。」
「ピクルスなら冬でも野菜が食えるし無理やり玉ねぎを生で食べなくてもいいんだよ? んん?」
「うえーん。ラピア、ロッシュがいじめるよ。」
「メリもそろそろピクルス食べられるようになったほうがいいね。」
「お、そうだな。少しずつならしていこう。最初は軽くらっきょうのにしておくか。」
「そんなー。」
メリをいじりつつ昼飯を食べた。
俺達は一息入れると再び森に向かって出発した。
「メリ君、メリ君。」
「ロッシュはピクルス食べさせようとしてくるから嫌いだ。」
「え、メリ君が喜ぶお話しをしようと思ったのに残念だなあ。」
「う、嘘だよ。そうやっていつも私を騙すんだ。それで?」
警戒している割には話しは聞いておくようだ。
「俺が蛇を取り過ぎないようにしたいのは3往復に秘密が隠されていたのですよ。」
「ほう、続けたまえ。」
メリの注意がこっちに向いた気配を感じる。
「今日は話しをしてたから昼頃に町に着いたけど3往復だったら丁度森に向かっている時間が昼になるように調整できる。そうすると昼飯に火が使える。外で火が使えるようになったら何を焼くのかな? 蛇だよ! だからお弁当は取り尽くさないで残しておくのが賢い狩人ってものさ。毎日少しずつ取って昼飯の1品にするのさ。」
「はー、ロッシュ君。君も中々の悪だね。それで行こうじゃないか。」
メリのご機嫌取りは成功したようだ。
そんな喜んで油断したメリに間髪入れずにピクルスを食わせたい。
俺はメリの反応を思い浮かべてほくそ笑んだ。
しかしその企みもすぐラピアにばれた。
ラピアに軽く肩を叩かれてメッされたのは俺の慢心から出た失敗だろう。
獲物の前で舌なめずりは3流の証しか。