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荷運びの仕事が終わって休みの日となった。
俺達はいつも通り朝飯を食べた後に紹介所へ向かった。
『おはようございます。』
「おはよう、評価は良かったぞ。別の奴が下水掃除の仕事を受けたみたいだが程々に稼げてるみたいだぞ。」
「それなら下水の仕事も人気が出てくるから良かったね。」
「そうだがお前達からすれば勿体なかったな。」
「お金より安全が優先だよ。荷運びはまあ楽だった。」
「さすがってところだな。そんな感じなら遠めでも大丈夫そうだけど、用心深いお前達は受けないよな。」
「もちろん受けないよ、危ないじゃん。」
「そうだよな。とりあえず1日9大銅貨で2日だから18大銅貨だ。」
「大銅貨で。」
「はいよ。次の仕事はどうする?荷運びが大丈夫なら木材運びとかも大丈夫だと思うぜ。」
「出来高払いなんだよね。どういう計算なの?」
「まず場所は南の管理された森だ。そこの森番から木材を受け取って町まで運ぶ仕事だ。森までは徒歩で3時間といった所だな。帰りは木材が増えるからもっとかかるな。あとたまに、本当にたまにだが草原狼やゴブリンが出る。一応町の巡回警備の範囲に入っているからほとんど出ないはずだ。木材はほとんどが丸太だから安心しろ。それでだいたいは相場は・・・・・・。」
相場が書かれた板が取り出された。
板に簡単な絵が書かれている。
「文字が読めない奴でもわかりやすいように書かれているんだ。お前達には必要ないだろうが仕事を受ける奴みんなに見てもらう決まりになっている。見せてもあとで駄々をこねる奴が出るから面倒なこった。」
「説明始めるぞ。重さにしてだいたい17.5kgで運搬費が1大銅貨だ。重さは森番が量っているので、どれを運ぶか選ぶ時に木材に値段が記載されている。基本的に間違いはないと思ってくれて良い。もし間違いがあったとしたら買い取り材木屋で言えば計り直してくれるだろうが手間なんで嫌がられるな。」
「森番はもう何十年やってる爺さんで偏屈だが不正はしないから信じても大丈夫なはずだ。木材はほとんどが丸太で生木で普通より重いから見た目で判断すると痛い目にあうぞ。最初は軽いのからやる事を勧めする。」
「だいたいの目安だが直径15cmで2m位の丸太が2大銅貨位だ。重さにして35kg位だ。実際は重さで値段が変わるから1~3小銅貨位は前後するかもしれない。直径20cmで2m位の丸太が4大銅貨、約70kg前後って所だ。」
「実際は木材の重さによって決まるから目安程度に考えてくれ。だから1日2回の運搬で一回で4大銅貨、だいたい70kgの木材を運んでる奴が多いな。昔は運ぶ奴が多かったんだが今となっては大変だし、町から離れるしで人が減ってる仕事だ。お前達なら大丈夫だろうが外に出る時は絶対に気を付けて行けよ。」
思ったよりしっかりとした説明を聞いて俺は下手すれば3往復は行けるんじゃないかと素早く計算をした。
俺と同じで思案顔になったラピアを見たがラピアも頷いた。
メリは蚊帳の外で俺とラピアの顔を交互に嬉しそうに見ている。
絶対メリは何も考えてないで俺達の反応を見てどうなるか答えを待っているな。
「とりあえず2日やってみるよ。明日からお願い。」
「ああ、お前達なら大丈夫だと思うがやばくなったらすぐ逃げろよ。どこへ出しても評価が高いから別に危険がある可能性の仕事をやらなくてもやっていけるさ。」
「わかった。ありがとう。」
俺は木札を受け取って内心ワクワクしながら紹介所を去った。
「ねえねえ。ロッシュとラピアはどう思ったの?」
メリが待ちきれずに聞いてきた。
その顔は期待に満ちている。
「俺達なら3往復できないかなって思ってたんだ。とりあえず明日は軽めで2往復して行ける様なら2日目に3往復してみるか。良い訓練になりそうだ。」
「私もがんばるよ! あの時もそうだったけど走ってると楽しいよね。」
「今思えばあそこで走ったのはかなり良かったな。周りと比べる機会はなかったが同世代より一歩先に行ってるようだ。」
走るのは楽しいと言えば楽しいが重い荷物を背負ったら楽しくはなくなりそうだ。
それでも出来高払いなら自分達にあわせた仕事ができるので俺は嬉しかった。
出来高払いっていうのはなんか男心をくすぐる物がある。
よし、おもしろくなってきたぞ。
俺達は気合を入れて道場へ向かったのだった。
道場ではゲニアにボコボコ、ボロボロにされた。
しかしそれも慣れてきた。
俺の回復魔法の腕もラピアには及ばないが効率が良くなってきた。
剣の腕より回復魔法の腕が上がるなんて嬉しくない誤算だがラピアの練習にもなるし良いだろう。
最近は仕事が完全に金を稼ぐ為だけのものになっていたが次の仕事はもしかしたらもしかするかもしれない。俺は久しぶりに仕事の日が待ち遠しくなったのだった。
材木運びの初日になった。
昨日は道場の帰りに縄や当て布用の布の切れ端を買った。
俺達は朝の鐘が鳴る前に朝食を済ませて一応昼飯分の黒パンも合わせて買った。
そして町の南門に向かった。
南門で身分証明を見せて町を出た。
そして南に向かって歩き始めた。
グリエ町の門番から見えない所まで歩いた俺達はお互いに顔を見合わせて走り始めた。
最近は回りに合わせて窮屈な思いをしてたから俺も嬉しい。
メリなんて特に嬉しそうで俺達の前を走り始めた。
そして周りの気配を探り始めた。
荷運びの時に狩りができなかったのが少々不満だったようだ。
俺とラピアはメリから離されない様に後を追った。
途中で小さな気配を感じてメリが踊りかかった。
そして木刀の一閃で終わった。
メリは蛇を片手に満足気に俺達に合流してきた。
「やった。蛇取ったよ。」
「やるな、メリ。」
「メリ良かったね。」
俺達は素直に褒めた。
メリは昔俺達が魔境で薬師に渡したようにラピアに蛇を渡した。
「魔力も普通だし、これは食べられそうだね。迷うけど今処理しちゃおうか。」
俺は背負い袋から木のコップを取り出してラピアに渡した。
ラピアは蛇の首を切ると中から出る血をコップに入れた。
メリはそのコップを受け取って少し飲んだ。
口の周りに血が付いているが豪快に腕で拭った。
にこやかなメリを見てラピアは、もうと言ったがどうせ後で洗うんだからとそれ以上は何も言わなかった。
俺も残った血を飲んで残りをラピアに渡した。
ラピアが飲んだあとは内臓を捨てて、俺が蛇の頭の方を持ってラピアが皮を剥いだ。
手や顔を洗った後に蛇を洗って俺達は再び走り出した。
俺達が森に着くまでに蛇を3匹取った。
走っていたのに中々進まなかったがまあ今日は様子見だから楽しむとしよう。
それにしても蛇が多いってことは人があんまり通ってないって事なのか、ただ蛇が多いだけのところなのか判断に迷う。
俺達は森に着くと森の端にある大き丸太の家へと向かった。