82
俺は不貞腐れた振りを続投して朝を迎えた。
飯を食べたら紹介所に行って、その後に道場だ。
『おはようございます。』
「おはよう、どうした、なんかあったか?」
俺は軽く事情を説明した。
「舐められるのが嫌だったからさっさと逃げたかったんだ。」
「はー、大変だな。まあ対応としては上手い対応だったと思うぜ。4日で1日9銅貨だから36大銅貨だ。」
「銀貨で。」
「3銀貨になる。次は二日後から2日間荷運びだな。この木札を持って指定された場所に行ってくれ。時間はいつも通りだな。グリエ町から隣の村まで1日で往復する仕事だ。」
「はい。」
俺達は紹介所を後にして道場へ向かった。
道場についてゲニアに礼をしたがゲニアは俺達の様子が気になったようだ。
メリは今回の件の事をゲニアに話した。
その結果ゲニアはこう言った。
「力があればそんな問題は簡単に解決できるよ。殴り倒せば良かったんだ。」
力任せな回答ではあるが間違いではない。
というよりどんな方法を取っても結局は良い所と悪い所があってそれを考えたうえで選択しなければならない。
冒険者は安っぽいが剣か槍を持っていたので俺は戦うという選択を除いたが相手に恨まれる覚悟さえあれば倒しても良かった。
逆に舐められても良いという覚悟があるならひたすら下手に出ても良かったのだ。
結局自分で選ぶって事だ。
一番悪いのは自分で選ばないで回りに流されて自分で分からないうちに周りの状況が固まってしまうことだ。
選ばない事を選ぶのは悪い事ではないがそれによって起こりえる事を知った上で選ぶのだ。
選んだ人間は自分で自分の道を選ぶが自覚が無いままに選ぶと知らないうちに覚悟もないままに状況に放り出される事になる。
それだけは回避したい。
次に同じような状況に陥った時にどうやって状況を乗り越えるか考えておかなければならない。
「ロッシュも男なら不貞腐れてないでシャンとしな!」
「次からは二人にもやってもらうからな。」
「うん。」
「わかった。」
メリはいまいちわかってなかったようだがラピアは俺が怒った振りをしているのを気が付いていたかもしれない。
3人とも考えは違うからしょうがないよな。
俺が出来る事は二人が失敗した時にそれを補助したり受け入れたりして一緒に頑張るくらいだ。
今回は俺としてはあんまり良い結果ではなかったが二人にも少し警戒感を感じて欲しかった。
自分達が弱い存在だということを自覚して動いて欲しい。
メリは無理だろうなあ。
任せた時にどんな大立ち回りをするかと思うと今から頭が痛い。
ゲニアはわざとらしくいつもより訓練を厳しくした。
俺も訓練が終わる頃には少しは気が晴れたがゲニアをいつか同じ目に合わせてやると誓うのであった。
訓練日も終わって今日は荷運びだ。
ほとんど使う事がなかった背負子が実力を発揮してくれるだろう。
俺達は木札を持って指定された場所に移動した。
いつもなら人が疎らな時間でももう荷物の積み込みが始まっているようだ。
俺は近くのそれらしき男に声を掛けて木札を見せた。
男は木札を確認すると別の男を呼んだ。
『おはようございます。』
「ああ、さっそくだが荷を積んでもらう。もう少ししたら人が集まってくるだろうが先に荷だけ受け取って置いてくれ。」
「はい。」
俺達は男に指示されて荷を積んだ。
背負子が力を発揮するかと思ったがそのお陰で遠慮なく荷物を積まれて失敗したと思った。
けど俺の身長を越すように満載された背負子を見てメリはちょっと羨ましそうな眼差しを送っている。
変わってもらいたい気持ちを抑えて俺は別の人達の積み込みを手伝った。
荷運びは早めに来て積み込みを手伝っている人と時間ギリギリに来る人の2つに別れているようだ。
俺達は早めに着ていたので積み込みを手伝って後から来る人に荷を渡した。
人によっては重そうな物を露骨に嫌がったりできるだけ避ける人がいる。
これは下級か中級紹介所の人なのかなと思いつつ程々に手伝った。
木札で荷運びを確認しているので荷物の分配が終わるまで少し時間がかかったが責任者と思わしき人物が出てきた。
「これから隣の村まで行くが現地に着いたら荷下ろしと荷積みをすぐやってもらう。その後に昼食だ。移動中の休憩は1回になる。以上だ。」
そう言うと男は馬に乗りそれに馬車などが着いて行った。
俺達はその後を着いて行くもようだ。
荷運びを監視する為の人員が2人付けられて遅くなりがちな最後尾の人間を急かした。
俺達は荷運びでも前の方に移動した。
少ないが監視役と護衛役がいるようで護衛は前方の馬車周りにいる。
これらは全て冒険者のようだ。
小さい商隊だが護衛を付けているので魔物が出ても安全だろう。
盗賊も近辺には大きな規模の集まりは居ないという話しだったのでこんな商隊を襲うことはないな。
地を這うように大きな荷物が進むのを見て注目を集めているが少し歩けばそれもなくなるだろう。背が低いのに背負子に荷物を満載にしやがって遠慮を知った方がいい。
だが俺達にとってはこの程度の荷物はまだ余裕の範囲内だ。
強化を軽く使っているがこれなら1日移動しても大丈夫だろう。
俺は背負子だから運びやすいってのもある。
その反面、後ろの方に居る荷運びはやる気がないのか体力がないのかわからないが動きに精細が無くて大丈夫かと思いたくなる。
監視する冒険者も若干苛立ちを思えてるようだ。
俺達はそんな最後尾に近付かないように前に陣取って気楽に周りを見渡しながら移動した。
「今日は天気が良くて気持ちいいね。」
「そうだな。こんなゆっくり移動するのって良く考えたらほとんどなかったな。」
「いつも走ってるからね。けど思いっきり走ったら気持ちいいだろうなあ。」
俺達と同世代も居るが余裕が無くて荷を運ぶので精一杯の様子だ。
暢気に話しながら歩いているのは慣れた人だけだ。
後で役に立つかもしれないからできるだけ道を覚えたいが当たり一面が平原で目印になるようなものはなかった。
気配を探るが回りに人が多すぎていまいちわかりにくい。
せめて商隊の端の方に行かないと精度は見込めない。
けど俺達は護衛じゃないし始めての荷運びなので頑張りすぎずにとりあえず着いていくことだけを考えよう。
俺達が景色を堪能していると休憩場所に着いたようだ。
商隊は休憩場所に使われている広い空き地に入っていった。
「これから少し休憩だ。各自楽にしてよい。」
俺達は端の方に移動して荷物をゆっくりと降ろした。
背負子にやたらと荷物を載せたので俺だけはメリとラピアに両側を持ってもらって降ろした。
メリはそんな俺の様子を少し羨ましそうだ。
「帰りはメリが背負子使う?」
「使う使う! なんかたくさん荷物を運ぶのって楽しそう。」
俺達はゆっくり周りを見渡して休憩を取った。
余裕がある人達は話したりしているが疲れ切った人は今の内に体力を回復させようと静かにしている。
同年代は休みに集中していて余裕があるのは歳が離れた男達なので俺達が話しかけられることはなかった。
メリが辺りを探索したくてウズウズしているが監視役に怒られそうなので止めておいた。
短い休憩が終わって商隊は再び移動を始めた。
俺は布の切れ端を背負子の当たる部分に当てた。さっきよりも肩への食い込みが弱くなって楽になった。
商隊はそのまま何事も無く隣の村に到着した。
村に着くとすぐ大きい倉庫のような建物へ移動した。