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下水掃除は最終日となった。
今回は南だったので他の方角に行かなくてもドブネズミはある程度の量が狩れた。
狩り過ぎても長期的に見たら損だから程ほどの量にしておく。
時間が経てば勝手に増えて俺達のお小遣いになってくれるありがたい奴らだ。
今回は掃除が慣れたせいもあってすぐ終わるし、また期間が空いたら受けてもいい。
俺達は下水管理所の敷地に出るとメリは子供を呼びに行った。
しかし途中で止まって俺達を呼びに来た。
「買取の子が絡まれてるよ。」
ドブネズミを買い取りに来ている子供が冒険者4人に囲まれている。
俺は面倒事の気配を感じて嫌になった。
「よし、子供を置いて逃げようぜ。」
「え、逃げるの?」
「さすがに可愛そうなんじゃないの?」
メリとラピアは反対のようだ。
「それも含めての手間賃だよ、うん。」
俺は今思いついた適当な回答をした。
「ええー。助けようよー。」
「うーん。逆恨みしそうで関わり合いになりたくないんだよな。いくら相手がそんなに強そうじゃなくてもだ。」
俺は子供を囲んでいる冒険者を盗み見た。
たいして強そうには見えない。
「私は助けたい。」
メリが言うとラピアも頷いた。
二人を俺をじっと見つめた。
「はー、わかったよ。でも子供を助けた所で俺達には損しかない事はわかってよ。」
俺はそう言うと嫌々ながら冒険者達に近付いた。
「どうも、こんにちはー。」
俺は冒険者達に話しかけた。
俺が話しかけると冒険者は俺を見て少し話し合った後に頭と思わしき男が口を開いた。
「おう、お前達稼いでるそうじゃないか。俺達にも教えろよ。」
「飯の種ですから簡単には教えられませんよ。それより子供にドブネズミを売りたいので解放してあげてくれませんか。」
俺が持っている袋を冒険者達は見つめた。
その中には程々の量のドブネズミが入っている。
「そう簡単にこっちも引き渡せないぜ。」
「俺としてはお金だけ貰えればその後はお好きにしてもらってもいいのですが。」
俺がそう言うと冒険者は一瞬戸惑った。
俺の後ろからはメリの鋭い視線が突き刺さって冒険者達より怖い。
子供は助けが来たと思ったがそうでもなかったので一瞬晴れた顔が曇った。
「そもそもこの仕事って臭いから嫌なんですよね。紹介所からお願いされたから嫌々受けてるんですよ。」
「なら教えてくれてもいいじゃねえか。」
「教えたら子供を解放してくれますか? 別に俺としてはそのままでもいいですよ。スラムに持っていくのが面倒なだけです。」
冒険者達は小声で相談した後に子供を解放した。
俺は子供に袋を渡して数を数えさせようとした。
しかし子供は怯えてしまってそれ所じゃなさそうだ。
俺は下水管理所のほうを指差してそっちで数えろと指示した。
子供は震えながらも袋を持って素早く移動した。
「早く教えろ。」
冒険者は待ちきれずに言った。
今度は俺を取り囲むように陣取った。
「簡単なことですよ。ドブネズミを見つけたら水魔法を打つ、これだけです。」
「舐めてるのか!」
「もちろん水魔法適性があってしっかり訓練されているのが最低限必要ですよ。下水の施設を壊したりでもしたら大変なことになりますからね。」
冒険者達は怒りの形相で近付いてきた。
「この方法は以前までの方法です。ドブネズミも賢いですから力押しが一番なんですよ。今回はドブネズミがライトを見ると逃げるようになりました。誰かが狩り過ぎたせいでドブネズミが賢くなってしまったんですよ。」
冒険者は足を止めた。
「俺達が連続で下水掃除を受けないのはそれがあるからなんですよ。何回かやるとドブネズミが学習して使えた手が使えなくなる。だからわざと間を開けて時間をかけてドブネズミに油断をさせているわけですよ。4日あっても日に日に取れる量は減ってきています。」
俺は冒険者達が話しに食い付いたのを確信した。
「だから俺が今回取った方法を使っても取れる量自体は減ってしまいますがいいですよね?」
俺は冒険者を流し見ると早く話しを続けろという雰囲気が出てくる。
観客の反応は重要だ。
食い付きが悪かったまた別の話しにしなければならない。
今回は掴みはよろしいようだ。
「今回はライトを使った追い込み漁をしました。ドブネズミがライトを見ただけで逃げるようになったのでそれを利用して地図で最初に追い込む場所を決めてあとはライトを設置してドブネズミの逃げる方向を操作するのです。あとは決めた場所に追い込んで一網打尽という訳です。」
冒険者達の方を観察する。
見たところ納得しているようだ。
「今回は私達は南側をやったので他の方角ですればある程度は捕まえられると思いますよ。せっかく教えたんですから狩り尽さないでくださいよ。美味しい狩場を潰されたらさすがに俺達だって黙っていられません。」
冒険者達はお互いに目配せをし合っている。
そして各々が頷いた。
「わかった。これでいいぞ。」
そう言うと冒険者達は去って行った。
馬鹿を騙すのは楽でいい。
この方法が成功しても失敗しても俺としてはどっちでもいい。
成功したら美味い狩場が減ってしまうがまた別なのを探せばいい。
俺達以外が仕事を積極的に受けるようになれば下水掃除の仕事も減るだろう。
ただ、早くも言葉使いが丁寧すぎたかもしれないと後悔し始めた。
強気で言ったら反感を招くし、弱気で言ったら舐められる。
こういう場面の経験が少なかったので判断が難しい所だ。
「さすがロッシュだね。」
メリがいつでも戦う準備万全といった様子で歩み出てきた。
「相手が馬鹿だったから良かったが今回の方法が上手くいかなかったら逆恨みされるぞ。俺達がこんな事する必要はなかったんだ。今回ので舐められたら今後もずっと舐められて、たかられ続けるんだぞ。何もわかってない。」
俺はそう言うと怒った振りをした。
ドブネズミを取りに来た子供はこの気配を察して謝りながら足早に去って行った。
メリは自分が正しい事をしたのに俺が怒ったので困惑顔だ。
俺達は冒険者ではないが舐められたらお終いだ。
ただでさえ俺達は子供でメリは剣を持っている。
金のない奴らが剣と誘拐目的で近付いてきてもおかしくない状況だ。
しかし今回は断れなかった俺も悪い。
俺が怒ったのは自分自身に対してでもある。
俺も脇が甘かった。
子供が絡まれる可能性を俺が先に考えていればメリに気づかれずに一手打つ余地が生まれたかもしれない。
今考えても良い手は浮かばないが誤魔化して子供を見つけるまでもう少し時間を引き延ばせたかもしれない。
せっかく運良く上級紹介所に所属できたし安い道場も見つけたのだからこの町から逃げるのは惜しい。
だからといって直接争うのも今のところは避けたい。
最近は物事が良い方向に進んでいたから俺も油断していたのかもしれない。
今後はもっと気を引き締めていこうと思った。
ついでに怒った振りも継続しておいた。
俺にばっかりまかせられても困る。
今回はメリはすぐ喧嘩になりそうだし、ラピアは年上の男4人に囲まれたら引くだろうから俺がやったがメリもラピアも自分でこういった相手を自分で捌けるようにならなくてはいけない。
それができないなら逃げるが勝ちだ。
相手に気が付かなければ逃げにすらならない。
こういうのはもっと段階を踏んで失敗しながら学ぶのだろう。
しかし俺達にはその猶予がなかったから仕方ないと言えばしかたない。
次回からは二人にもまかせようと思う。