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残り2日の仕事も特に問題は起きずに終わった。

写本の仕事は季節は選ばないが学べる事が少ない。


本が読めるのは良いが仕事だから本を読むより写すのに集中しなくちゃならない。

だから結局あんまり頭に入ってこなかった。


それでも冬の仕事の1つとして考えておこう。

その点、建築現場の手伝い等は周りを見れたので少しは為になった気がする。


今の所、写本以外は誰でもできる単純労働なので下水掃除の次の仕事は仕事がきついというより難しい仕事が割り振られるかもしれない。

単純な力仕事なら強化で誤魔化せるが複雑な仕事の場合は熟練が必要だ。


そして明日は道場だ。

ゲニアは性格が悪いが月謝は安いし腕は確かなので余裕があればもっと行く日を増やしたい。


俺が金持ちの息子だったら毎日訓練漬けもできただろうが今の俺ほど熱心にはできないだろう。

今は夜の鐘が鳴ったら買い物をしてすぐ部屋に戻っているがもう少し遅くまで訓練したいなあ。


けど遅くなればなるほど危険が増すからまだ怖いのが本音だ。

色々考える事がある。

そのうちまた相談しようと思った。



休みの日が来た。

俺達は朝食を取って紹介所に向かった。


朝はいつも通りの黒パンとポリジだった。

食べると腹の底から力が沸いて来て今日もがんばろうと気合が入る。


『おはようございます。』

「おはよう。写本の報酬だよな、ちょっと待ってろ。報酬は6日間で1日8大銅貨だから1人48大銅貨だ。」


「銀貨で。」

「1人4銀貨だ。評価も良かったぞ。」

「明日は休みで2日下水掃除、1日休みで計4日働くんだっけ?」


「そうそう。よろしく頼むよ。それとその次の仕事も探しておいたぜ。報酬が高い仕事で一番簡単なのは荷運びだ。荷運びと言ってもピンからキリまであるんだぜ。今までやっていたのは町の中だったが、町と村、村と村、町と町の間を重い荷物を背負って行き来する仕事から始まり魔境近くの村に行ったり、魔境の中に入る探索隊に同行したりと幅が広い。」


「今回のお勧めは隣の村に日帰りで荷を運ぶ仕事だな。他には南に管理された森があってそこから木材を運ぶ仕事もあるぞ。そっちは出来高払いになる。運が悪いと魔物や盗賊に会ったりする。と言っても盗賊はここらへんではあんまり見かけないから出てもゴブリンとか草原狼くらいだ。」


「もっと南に行くと魔境になるがあんまり良い物が見つからないらしくてあまり人気はないな。たまに魔境で木を切って持ってくる奴がいるが最近じゃ大きい木が少なくなってきていて下火だ。お前達はダンジョン経験あるって話しだったからポーターもやれるだろうがだいたい7~8大銅貨って所だな。泊まりの仕事だと報酬は増えるが基本的に1パーティーに1人になるから3人でやる仕事ではないな。」


「隣村の荷運びは何日?」

「とりあえず2日だな。状況によっては増えるかもしれない。」


「じゃあそれでよろしく。荷運び以外で長期間働ける仕事はある?」

「ああ、あるぞ。けどお前なら簡単なのから順にやりたいだろ?」


「おっしゃるとおりで。まだ受けるかは決めてないけどたぶん荷運びをすると思う。」

「わかった。下水掃除まかせたぜ。」

「はいよ。」


俺達は紹介所を後にした。

木材運びの報酬を聞いておけばよかった。


まあ、また次回にしよう。

これから道場に行って訓練だから気を引き締めて行かない。


俺達は昼飯を買ってから道場へ向かった。

今日もエクレは居ない。


今度いつ来るか聞いてみるのもいいな。

俺達はゲニアに礼をすると訓練を始めた。


嬉しい事ではないがゲニアのお陰で俺も最近よく回復魔法を使っている。

昼飯時になるとラピアは自分とメリを回復して俺は自分を回復する。


俺はラピアがヒールをするのを見てできるだけ真似をしようとするがラピアとの差は広がる一方だ。

それでも教えてもらいつつ俺もヒールを使う。


最近はライトをあんまり使ってないからもう少し意識して使わないといけない。

代わりに強化は良く使っているので効率が良くなってきているのを実感できる。


メリは簡単な魔法以外はどれも効率が悪すぎるので早い時点で諦めている。

その分強化だけに魔力を注ぎ込んでいるから俺達の中でも一番強化が上手い。


治療が終わると俺達は飯を食べ始めた。

ゲニアも自分の黒パンを片手にやってきた。


「ヒールは便利だね。」

「お陰様でね。」


俺が嫌味を言った。


「光魔法適性のある奴があんまり居なかったからみんないつもボロボロになったもんさ。懐かしいねえ。」


ゲニアはそのまま話し続けた。


「ロッシュとメリは無属性魔法の適性があるんだよね? ラピアは適性がないのに強化もしっかり鍛えてて偉いもんだ。」

「ゲニアは何が得意なの?」


「私は火魔法に適性がある。」

「わかる。」


「でも私は強化に力を入れてるから火魔法はあんまり鍛えてないね。無属性魔法に適性がある奴が羨ましくってしょうがないよ。」

「そうだぞ。メリ、男は黙って強化1択だ。」


「うん。私はぶきっちょだから強化だけを鍛えてるよ。」

「メリはそれが一番だね。私もメリくらいの才能があったらもっと強くなってたね。」

「ゲニアは強いよー?」


「まだまだだよ。お前達も見たことがあるように周りにはまだ強いのがゴロゴロいるよ。メリならそういう奴らに並び立つ事ができるね。いや、今みたいに真剣に鍛え続ければ上回る事だってできるさ。」


ゲニアは一瞬、眩しい物を見るように目をひそめたが一瞬で元に戻った。


「昔は多くの人が純粋に力を求めたもんだ。魔物も多かったしスタンピートだって多かった。生きる為にみんな必死だった。けど今は安全な生活に慣れきった人が増えたね。それ自体は良い事なんだけどねえ。お前達みたいに本気で力を求める子供が減ったのは寂しいもんだね。小さい頃から剣を習ってもお習い事になってるよ。」


「タウロ開拓団は同じような生活してそうだし、まだまだ俺達みたいな子供は居るよ。」

「はっは。ロッシュに慰められると背中が痒くなるな。」

「人がせっかく教えてあげたのに。」


「それに最近はすぐ強くなる事に重点が置かれてるからねえ。教わる側がまずそういう考えだからね。昔は教える側はもっとましでじっくり腰を据えて鍛えたんだ。昔は剣の振り方を覚えたら後は見て覚えろって言われたもんさ。私もその口で親父が道場主だったから大変だったよ。けど私は親父を信じてたし、周りもみんなそうだった。前はもっと強いのがゴロゴロしてたよ。だからいつか私も強くなれるって信じて励んだものさ。そういう信頼関係みたいなのも今は無いね。下手すりゃわざと教えるのを遅くして長く通ってもらうようにしむけたりしてる奴だっている。」


「今はまず信用できる道場から探さなくちゃならない世の中だよ。お前達は大人達からしっかり手をかけて育ててもらったのが手を取るようにわかるよ。安易で見栄えの良い技とかじゃなくて自分で見て覚えようとしている。その方法に疑問を抱いていない。これって中々できることじゃないよ。強くなっていく内は良いけど誰だっていくらがんばっても訓練の成果が上がらない時期がある。そうなると途端に不安に駆られるものさ。そこでじっくり腰を据えられるか安易に流されるかで違ってくる。子供だけになってもじっくりしっかり大人達に教わったとおりに訓練するなんて健気な事よ。お前達はなんて素直で可愛い子なんだろう、ロッシュ以外は。」


「そこでまた俺かよ。」

「良い所だからお黙り。今は技もすぐ教えてすぐ強くなった気にさせるのさ。それを小出しにして長く居てもらおうといった具合さ。お陰で中途半端なのが多いこと多いこと。冒険者が増えても質はドンドン下がっていってるよ。道場なんて言っても結局は飯の種だからね。世知辛いものさ。うちは本当の道場だから安心してしごかれなさい。」


おばさんはありがたいお話しが終わってニヤニヤにしながら立ち上がった。

訓練の始まりだ。


もう少し謙虚だったら助かるんだがな。

しかし本音を話してくれるのは俺達を信用してるって意味だから許すとしよう。

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