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ゴミとドブネズミを拾いつつ今回の掃除する範囲内を回った。
水の流れをせき止める様な物は取りきったはずだ。
ドブネズミがいくらで売れるかわからないが俺達の仕事は掃除が中心だ。
「邪魔になるようなゴミは取ったから後は奥からラピアに水魔法を使ってもらいつつ掃除しよう。たまに俺とメリも変わる。」
「それがいいね。」
「あいよ。」
俺達は中央側から北に向かいながら水魔法で水を流しながら清掃をした。
これが夏だったとんでもない事になるなと思いながら臭い中、一生懸命ゴシゴシ掃除した。
水を流す係りと掃除する係りを回したが水を流す係りは俺とメリでは非効率すぎた。
普段使っても何かを洗う程度なのですぐ魔力が減る。
ラピアの凄さを改めて確認しつつ、訓練にもなるので俺達は魔力を消費した。
昼の鐘が鳴った。
下水だと聞こえ方が小さいが音が中で響いて独特の感じだ。
俺達は下水を出ると掃除道具部屋の前に木箱が置かれている。
俺は中を覗きたい衝動を抑えつつ、開けようとするメリを止めた。
掃除道具を一旦置いて俺達はお互いに服の上から体を洗った。
魔法で出した水が消えたのを確認して箱を少し開けて中を見た。
中には黒パンが3つ入っていた。
半分かと思ったがこれくらいの役得はあっていいだろうと思いつつ箱を持って外に出た。
「はー。外は良い空気だなー。」
メリが外に出て空気をいっぱい吸い込んで背伸びをした。
俺達もそれに倣って背伸びをした。
外は太陽が出ていて温かい。
俺達は座れるところを見つけて黒パンを食べ始めた。
長屋に物を置いたままだと盗まれる可能性があるのでいつも俺達は持ち物を全部持って移動している。
お陰で服や背負い袋などが全体的に臭くなってしまった。
これは帰りは念入りに洗わないとな。
俺達は適当に休憩するとまた掃除を始めた。
昼からは掃除中心だったのでドブネズミはほとんど取れなかった。
しかし朝の分を合わせると結構な量になるので暗くなる前に売りに行った方がいいかもしれない。
地図で現在の位置を確認しつつまじめに掃除をした。
「明日はもっと効率よくできそうだし、今日は全体の5分の1位でいいかな。暗くなる前にドブネズミも売りに行きたい。」
「いいよ。」
「体と服をしっかり洗おうよ。」
「賛成だ。戻ろう。」
俺達は掃除道具部屋に戻って使っていた道具を片付けた。
その後、下水管理人に一言挨拶をして外に出た。
外に出ると念入りに体と服を洗った。
2回ほど洗った所でとりあえずは満足してドブネズミを売るべくスラムへと向かった。
スラムに近付くと周りの雰囲気も悪くなってきて道には乞食が座り込んでいる。
俺は比較的元気そうな子供を見つけて声をかけた。
「ドブネズミを売りたいんだがドズって人の場所知らないか。」
子供は俺達の服や持ち物をさっと見た後に手を出した。
俺は1小銅貨を渡した。
「こっちだ。」
子供に先導されて俺達はスラムの中へ入っていった。
歩いていると嫉妬と怒りが交じり合った粘りっこい視線を感じた。
一応メリにはいつでも武器を抜けるように目配せをしておく。
しかしその心配は杞憂に終わったようだ。
スラムに入って比較的近い場所にその男は居た。
「ここだ。」
そう言うと子供は足早にその場を去った。
そこにはドブネズミや蛇、蛙の丸焼きと売り物になるのかわからない小物を売っている腰の曲がった男がいた。
「ドズはお前か?」
「へい、私がドズです。」
「ドブネズミを買い取ってると聞いて売りに来た。」
「へい、小さいのが1匹1小銅貨、中が2小銅貨、大が3小銅貨になりやす。」
俺はドズにドブネズミの入った袋を渡した。
ドブネズミの数は事前に数えてある。
「ほう、これは結構な量ですな。全部で23小銅貨と言いたいところですがおまけで24小銅貨でいかがでしょうか。」
ふむ、可も無く不可も無いそんままの買取値だ。
こんなもんだろう。
「それでいい。」
「へへ、ありがとうございます。下水のお仕事ですか?」
「そんなところだ。」
「明日も売ってくださるなら使いの者を出しますが、どうでしょう?」
俺は後ろの二人を見た。
メリは売り物を面白そうに眺めている。
ラピアは俺に頷いた。
「そうだな。この時間より少し遅めの時間で頼む。場所はどうする?」
「下水管理所を出た辺りでよろしいでしょうか。」
「それでお願いする。」
「へへ、ありがとうございやす。普通はこんなに数は取れませんがさすがダンジョンに潜っていただけありますな。」
「ふふふ、そうだよ!」
得意気になってメリが会話に混ざり始めた。
「これいくらなの?」
メリは丸焼きを指差して言った。
「ドブネズミ、蛇、蛙の丸焼きどれも2小銅貨です。」
「私、蛙が食べたい。」
メリが俺を物欲しそうに見ながら言った。
俺はしょうがないなと思いつつ今受け取ったばかりのお金の中から6小銅貨を出した。
「じゃあ蛙の丸焼き3本貰おうかな。」
「へへ、毎度あり。みんなお上品ぶって冒険者でも嫌がる奴がいるんですよ。」
メリは嬉しそうに蛙の丸焼きを3本受け取った。
メリはすぐ齧り付いたが俺はとりあえずラピアに持ってもらった。
「俺達がダンジョンに潜っていた事はみんな知っているのか?思ったより目立ってるんだな。」
俺は2小銅貨を渡して言った。
後ろではラピアが味見をしてみて大丈夫そうな気配を俺に出してくれた。
ドズは2小銅貨を嬉しそうに受け取って頷きながら話し始めた。
「へい、夜に門番が騒いでいたのでそれでわかりましたよ。特にスラムの人間は自分より相手が強いか弱いかが重要ですからね。若いのはわかっていないようですがデロス町から夜通し走って来るなんて仲良くする以外に道はありませんよ。ここに着いた時も余裕があったそうじゃないですか。まあ、お仕事もしっかり受けられているようなので私達とは別物だと周りもわかりましたがね。」
俺は感心して追加に2小銅貨払った。
「何かあったらまた教えてくれ。」
「ありがとうございやす。今後もお願いしやす。」
中々食えない男のようだがとりあえずは使えそうだ。
ドズは思ったより俺がお金を使ったので嬉しそうだ。
俺はラピアから俺の分の蛙の丸焼きを受け取って齧った。
俺もドブネズミがおこづかい稼ぎになって満足と言ったところだ。
こうやって副産物が美味しい仕事もあるんだなと思いつつ俺達は早めの夕食を取った。
食後は時間があったので運動場へ行っていつもよりきつめで訓練をした。
訓練後は再び入念に体と服を洗った。
面倒だが何度も洗えば匂いはなんとかなりそうだ。
下水を歩いているとダンジョンを思い出して少し楽しかったな。