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初めての給料日となった。
お金を一気に受け取る事は少ないから素直に嬉しい。
今日は次の仕事を決めたら町を色々見回ってもいいだろう。
働いてばかりだと剣の腕が落ちるのでここでも道場を覗いてみようと思う。
俺達はまず朝食を食べる為にパン屋へと移動した。
黒パンとポリジを食べ終わって紹介所にゆっくり移動していると朝の鐘が鳴った。
紹介所に着いた所、もう開いていた。
この前の男が居たのでその受付へと移動した。
「お、きたな。金は受け取りに来なかったけど大丈夫だったか。」
「はい。中々時間が合わなくて。」
「紹介所は朝の鐘が鳴る前から開いてるぞ。夜も結構遅くまでやってる。俺は朝から昼すぎ位までの担当だ。」
「なるほど。今度は朝来て見ます。」
「今回の報酬は5日間1日8大銅貨だから1人40大銅貨だ。」
「銀貨でお願いします。」
「ほう、余裕があるんだな。1人3銀貨4大銅貨だ。あと、別に言葉遣いは普通でいいぞ。他の奴はお上品にやった方がいいが俺はそこらへんは気にしない。」
俺は頷きながら1人1人今回の報酬を受け取った。
まとめて貰うとすごく貰った気分になるな。
けどダンジョンに比べると全然低い。
これでも良い方なはずなんだけどなあ。
「評価の方は合格点以上だな。これなら他の仕事も紹介できるぞ。肉体労働系だと荷運び系、町の清掃、下水の清掃などがあるぞ。近々デロス町に荷を運ぶ大きな仕事があるがお前達は向こうには行けないんだったよな。畑の手伝いなどはもう少し経ってからになるな。今は無いが道路の整備とか川の整備の手伝いもあって魔法が使える奴は給料が上がるぞ。頭脳労働系だと代筆、簡単な会計、難しいのだと写本とかがあるな。女だけが受けられる仕事として飯炊き場の手伝いとかもある。とりあえず簡単なのから始める事を勧める。」
「治療院の手伝いとかはある?」
俺はさっそく言葉使いを崩した。
「有るには有るが報酬は少ないぞ。治療院の手伝いは治療師になる奴の為にあるようなもんだからな。1日6大銅貨だ。安い分、いつでも受けられるな。」
「体力的にきついけど報酬が高い仕事は?」
「下水掃除が期間限定で1日9大銅貨があるな。他にもあるが少し様子を見てからの方がいい。下水掃除はこれだけの値段でも誰もやりたがらない。下水は狭いし、臭いし、ねずみとか虫とか色々と出るぞ。真っ暗だからライトが使える奴限定だ。水魔法適性があると掃除が楽になる。」
「試しに一回やってみようか?」
メリはワクワクしているがラピアは若干引いている。
「お前達、結構大変だぞ。けどこれがはけると俺的には助かるんだが。」
ラピアはしょうがなく頷いた。
「それ受けるよ。いつからいつまで?」
「いつからでもいいぞ。仕事の期間は4日だ。水道管理所に朝の内に行けばいいぞ。今からでもいい位だ。1日9大銅貨で計36大銅貨になる。ここに来るような奴らはこの仕事には手を付けないから助かったぜ。」
「試しにやるだけだから次はわからないよ。今から行けるなら行ってみる?」
二人は頷いた。
今までダンジョンで走り回っていたので体力が有り余っている感じだ。
何か体を動かす仕事がしたいな。
「よし、この木の札を持っていけば今日から仕事が始められる。」
俺は木の札受け取った。
「ありがとう。」
俺達は紹介所から出て水道管理所の場所を見るべく、中央広場に向かった。
「なんかガッツリできる肉体労働がしたいな。運動が足りない感じだ。」
「そうだねー。建築現場だと楽すぎだよねー。けど周りに合わせて手加減しなくちゃらないんでしょ?」
「そうだね。一通りお仕事をやってみて力を出すのはその後にしようね。あんまり目立たないようにしよう。」
「そうだな。」
俺はラピアに同意した。
体力は使いたいけど回りに合わせなくてはならないので結局不完全燃焼になる。
俺達は下水道管理所の位置を確認した。
下水道管理所に着いて俺達が木札を渡すと男は同情した目で見てきた。
「この仕事を選んだからにはしっかり掃除が終わる4日間は抜けられないぞ。お前達がやる事は簡単だ。下水を掃除してゴミは回収する。それだけだ。掃除道具や口を塞ぐ布などは全て貸し出すから自分達のペースで掃除してくれ。糞尿は流れてきていないはずだからそれだけは安心してくれ。魔法は水魔法のみ使用して良い。下水の施設を壊す事があったら数ヶ月は強制で下水掃除になるから絶対壊さないようにしろよ。以前に火魔法を使って大変な事になったことがあるから絶対にするなよ。とりあえず北側を4日間で終わらせてもらう。下水の入り口はあそこで掃除道具の部屋はそこだ。あとはこれで確かめてくれ。」
俺達は下水の地図を受け取った。
掃除道具が置いてある場所に通されたが部屋に入った瞬間腐った泥の様な臭いがした。
男はまかせたぞと言って去って行った。
後は自分で好きにしてよさそうだ。
俺は使えそうな物を調べながら言った。
「それじゃあ、準備しようか。」
部屋の中は臭いので置いてある物全てが臭かった。
口を塞ぐ布もあるがこれは一回洗ってからじゃない使いたくないな。
布を多めに洗う事にした。
「ラピア、水お願い。」
「うん。」
俺がラピアに魔法で水を出してもらって布を1枚1枚丁寧に洗っているとメリは楽しそうに掃除道具を身に付けた。
「私は準備万端だよ。」
俺は洗った布を絞って1人2枚ずつ手渡した。
「一回入ってみて様子を見よう。布が足りなくなったら戻ってこよう。」
俺とメリは掃除道具を中心に持ってゴミを入れる袋を持った。
ラピアは軽装で魔法を中心にがんばってもらうつもりだ。
俺達は担当の北側をまず一周することにした。ライトを点けて下水に入っていく。
大きなゴミ自体は少ないが小さいゴミが固まって異臭を放っている。
とりあえず大きなゴミや固まっているゴミを袋に入れて集めて歩き回った。
思ったより臭いがきつい。
息をしづらくなるが口に当てる布を2重3重にしたほうが良さそうだ。
腐ったヘドロを踏みしめつつ転ばないように進むと小さい気配を感じた。
「ウォータアロー」
ラピアが魔力を多めに使って魔法を唱えた。
小さい気配に魔法が当たった感覚を感じて俺達は小走りで気配に近付いた。
ドブネズミだ。
メリが拾って首をキュッとした。
うーん、あんまり嬉しくないな。
「これどうする?食べる?」
メリは食べたそうだ。
「袋に入れて一旦持ち帰ってみるか。けど衛生面が心配だなあ。」
ラピアの方を見たが、気が進まなそうだ。
俺はゴミとは別の袋にドブネズミを入れた。
結論は置いておいてとりあえず進む事にした。
その後何匹かのドブネズミを捕まえた。
ドブネズミは相当な数いるようだ。
下水の中なので水魔法以外では周りに被害を与えてしまうので使う事はできない。
ここはラピアの独壇場だ。
しかしラピアの顔は全然嬉しそうじゃなかった。
ドブヌート狩りで慣れてきたようで2回に1回はドブネズミを倒せる。
袋にドブネズミとゴミが貯まってきた頃、一旦戻る事にした。
俺達が戻ると丁度さっき俺達を案内した男が居た。
「まじめにやっているようだな。」
「はい。ドブネズミを捕まえたんですけどこれって売れたりしますか?」
俺は持っていた袋を軽く開けて見せた。
男はギョッとして驚いた。
「これ全部ドブネズミか?すごい量だな。もちろん周りは壊してないよな?」
「もちろんです。」
「そうか、ドブネズミは取っても取っても増えるし増えすぎると別件でドブネズミ狩りの仕事を出さなくちゃならないから取れるだけ取っていいぞ。もちろん回りの物は絶対に壊すなよ。」
男は興味深そうにドブネズミが詰まった袋を見ている。
「スラムではドブネズミは貴重な蛋白源になっているからスラムに持っていけば売れると思うぞ。たまにドブネズミを買いに来る奴が居たな。確かドズっていう腰の曲がった背が子供くらいの男だ。」
「わかりました。」
「ああ、物を壊さない分にはドンドン取ってくれ。昼の鐘が鳴ったら掃除道具部屋の前に食事を箱に入れて置いておくから受け取ってくれ。ここは臭いだろうから飯は外で食っていいぞ。仕事さえしっかりやってくれれば仕事の終了時間はそっちで決めていい」
「ありがとうございます。」
男はドブネズミの入った袋を眺めていたが満足して去って行った。
俺達は持ってきたゴミを捨てた後、掃除道具部屋で口に当てる布を増やした。
ドブネズミの入った袋はここに置いて行こう。
誰も持っていかないだろう。
少し休憩してから俺達はゴミ拾いを再開した。