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昼の鐘が鳴ると休憩時間になり、一人につき黒パン半分が配られた。
俺は足りないなあと思いつつ受け取ったがメリは明らかに悲しそうな顔をしている。
「メリ、そんな顔するなよ。周りは昼が出るだけましって顔をしてるぞ。」
「へーい。けどこれじゃあお腹が空くなあ。」
「夜のご飯はしっかり食べよう。」
ラピアの提案にメリは必死に頷いた。
温かい日差しが心地よく眠たくなってくる。
黒パンを持参したら目立って嫌味になる.
だから小さい物か飲み物をピケットにするとか工夫する必要がある。
大人の中にはチラホラと黒パン以外の何かを齧っている人がいるので目立たなければ大丈夫そうだ。
何か良い案はないか後で二人に聞いてみよう。
周りの同年代位の男達はこっちをチラチラ見てメリとラピアに話しかけたそうにしている。
俺達3人は固まっているので中々話しかけづらそうだ。
1人の勇気ある男が踏み出してきて俺達というかメリとラピアに話しかけた。
「君達見かけない顔だけどどっから来たの?」
いきなり確信から攻めてきた。
返答は面倒なのでご希望通りに女性陣に話してもら事にした。
「私達はデロス町から来たよ。ミュッケ村で生まれたけど村はスタンピートで無くなっちゃったからね。」
話しかけてきた男は面喰らって、やってしまったという顔をしている。
「ああ、それは大変だったんだな。悪い事を聞いたな・・・・・・。」
早くも会話が尻すぼみになってきてしまっている。
「いいよいいよ。それより君はグリエ町は長いの?」
「おう。俺は近くの村出身だけど成人したからグリエ村に着たんだ。ここでしっかりした仕事を見つけて成功するんだ。」
男は急に元気になって熱く語り始めた。
「この町の事は結構知ってるからわからないことがあったら聞いてくれ。ところで君達はどういう関係なんだい?」
男は敵意の混じった目で俺の方を眺めながら言った。
「ありがとう!私達は夫婦だよ。3人で一緒に住んでるんだ!」
自分達も会話に参加しようと前のめりになっていた他の同年代の男達も力なく座り込んだ。
周りの大人はその一部始終を見ていて俺達から突然背を向けて忍び笑いを始めた。
その様子を完全に無視してメリは楽しそうに語りだした。
「私達はデロス町でダンジョンに潜っていたんだよ。すごいでしょー。」
脱力して悲壮感を漂わせていた同年代達もダンジョンという言葉には反応が違った。
目をキラキラさせて何度も頷き、話しの続きを待った。
「デロス町のダンジョンはねー。ゴブリンとドブヌートが出るんだけど、ドブヌートがすばしっこくてねー。」
メリの独演会が始まったがみんな楽しそうに聞いている。
一時はどうなるかと思ったが良い雰囲気で昼休みは終わった。
同年代の男達とは結構距離が縮められたようで仕事中に俺に少し話しかけてくる奴も居た。
同年代の奴よりも強化をしている分、俺達はしっかり働けた。
強化しなくても普通の人並以上には働けるが強化使ってやった方がやる気があるように見ていいよね。
夜の鐘が鳴ると職人に集められて本日の給料が払われた。
しかし俺達には払われなかった。
高級紹介所では金額が大きくなる為、お金で揉める事がないように紹介所で給料が払われる事になっているようだ。
回りの大人達が俺に給料が支払われない事で高級だとわかり、ギョっとしていた。
周りは低級と中級の人達だったようだ。
周りの者は7大銅貨の給料を貰っていたが俺達は確か1日8大銅貨だったはずだ。
明日はもう少し働こうと思いつつ俺達は空きっ腹を抱えて市場へ向かった。
いつもより多めの夕飯と明日の昼に食べる為の人参を買った。
葉物じゃあんまり食べた気がしないんだよな。
「思ったより楽だったな。」
「そうだねー。明日はもう少し強化する?」
「うん。それがいいね。」
今までミュッケ村以外の同世代とは一緒に働いた事が無いからどれ位やっていいか加減が分からない。
明日はもう少し働こう。
次の日は朝の訓練を集合の少し前までしっかりと行った。
昨日とは集まっている人がチラホラと変わっているが半数は昨日と同じ人だ。
昨日一緒だった同年代の奴らに軽く挨拶をして職人が来るまで待った。
昨日参加していなかった同年代は俺達の事が全然知らないようで昨日居た奴らに聞いているようだ。
昨日よりも強化を強くして大人より少し上の働きをした。
やっている事は単純な力仕事なのですぐ慣れた。
これなら問題はないなと思いつつまじめに働いたのだった。
昼飯になると俺達は受け取った黒パン半分と昨日買っておいた人参を交互に齧った。
昨日いた同年代の奴らは黒パンだけなのですぐ食べ終わってメリの話しを聞きに来た。
メリはそれを見て豪快に黒パンと人参を食べて嬉しそうに話しを始めた。
ラピアはしょうがないなあといった顔だ。
今日始めて会う同世代も集まってきてメリの話しをおもしろそうに聞いている。
「俺達は金を貯めて来年は冒険者学校に行くんだ。冒険者登録されると日雇いで給料が上がるからな。」
「私達も来年に冒険者学校に行くよ。よろしくね。」
「おう、メリよろしくな。」
メリはもう同世代の奴らと友達になったようだ。
ラピアは相手が男なのもあって少し怖がっている。
正面から殴り合ってもここにいる全員に勝てるのにおもしろいな。
昼休みが終わると仕事が再開された。
昨日の昼よりかは多少はマシになった腹具合で俺達は仕事を始めた。
栄養があって腹に貯まって安い食べ物はないもんかねえ。
昨日よりも強化された体は並みの大人を上回る仕事を可能にさせた。
単純労働だから力勝負だ。
体を鍛えるのには良いかもしれないけどここから何かを得るのは難しそうだ。
しかし建築現場を一通り観察し終わるまではこの仕事をやってもいいかもしれない。
できるできないは置いておいて知ってるか知らないかでは大分違う。
簡単な手順だけでも覚えさせてもらおうじゃないか。
夜の鐘が鳴って仕事は終了となった。
職人に給料を貰いに行く人達に逆流して俺達はさっさと帰路に着いた。
明日の昼飯用の野菜はもう少し増やそうと思う。
俺達はその後3日も並みの大人以上の働きを維持した。
最終日を終えて帰路に着いた時に俺は気が付いた。
明日は紹介所に行かなければならないから休日になるな。
もしすぐ働きたい場合は最低でも仕事の最終日の朝の鐘が鳴ってすぐに紹介所に言って仕事の集合前に次の仕事を考えなければならない。
それだと思ったより慌しくなりそうだなあ。
毎日紹介所に行く事に比べれば随分優遇されているが仕事の取り方も考えて行かなければならない。
今回は3人とも同じ仕事で同じ期間だったが別々の仕事になったら色々と大変だ。
できるだけ3人で固まって動きたい。
けど今の所は明日の給料の受取りが一番気になる。
早く明日にならないかな。