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「ロッシュ、11歳です。デロス町ではダンジョンに潜っていました。魔法は光魔法に適性があるのでライトが得意です。力仕事はどんな仕事でも人並み以上に働けます。文字の読み書き計算ができます。」
俺は魔法適性についてはぼやかそうかと思ったがとりあえず無属性の事は隠して仕事がありそうな光魔法適性は明かす事にした。
ラピアも治療院の手伝いをするなら光魔法適性を言わなくちゃならない。
「私はメリ、12歳。力仕事が得意です。ロッシュとラピアに比べると文字の読み書き計算は得意じゃないけどできます。」
「私はラピア、12歳です。魔法は光魔法に適性があります。デロス町では治療院のお手伝いもしていました。力仕事は人並みです。文字の読み書き計算が得意です。」
受付の男は紙に俺達が言った事を記入した。
「とりあえずお前達には最初は簡単な肉体労働をやってもらう。その出来によって他の仕事も紹介できるようになる。一番早いのは明日から5日間建築現場の荷運びだ。」
俺はメリとラピアを見渡した。
二人とも大丈夫なようだ。
「はい。お願いします。」
「集合場所は町の北東にある材木屋になる。場所は中央広場の地図で確認しておけよ。朝の鐘が鳴って1時間程度したら集合だ。そして夜の鐘が鳴るまでの仕事になっている。仕事によっては時間が変わってくるがこの時間が普通の日雇いの仕事時間になっている。何か質問は?」
「ありません。」
とりあえずやってみないとわからない。
「それなら以上だ。」
『ありがとうございます。』
俺達は紹介所から出た。
「仕事は明日からだな。とりあえず市場を軽く見て運動場に行こうか。」
「いいよー。」
「そろそろ新しいお塩も買いたいねー。」
俺達はデロス町とは少々品揃えが違う市場を見て回った。
そして昼に食べる物を買って運動場へ向かった。
ここの運動場も冒険者学校の隣にあって訓練が見える。
俺達は軽く体操しながら訓練を眺めた。
講師の質は並ってところかな。
俺達は今まで通り訓練を始めた。
昼の鐘がなると俺達は運動場の端に移動して背負い袋から買っておいた黒パンと玉ねぎを取り出した。
玉ねぎに齧りつくとツーンとして涙が出てくる。
火を通して食べたいもんだ。
そう思いながら水で無理やり流し込んだ。
腹が熱くなってきたが構わず黒パンを食べた。
もう玉ねぎは生で食べる事は止めようと決めて体を動かして気を紛らわす事にした。
俺達は顔を洗ってから腹ごなしに軽く走った。
腹がカッカとするので早いが今日は部屋に行く事にした。
俺達は一旦中央広場に行って地図を見る。
明日の集合場所の材木屋の位置を確認して俺達の借りる長屋の位置と所有者の位置を覚えた。
長屋なんてものはどこでも同じ物で以前住んでいた所と大して変わらない。
しかしグリエ町の方が若干ボロい。
町が全体的に古い感じがする。
昨日町を歩いた時には俺達と同年代か年下の乞食が結構居た。
デロス町では数が少なかったな。
ここにも孤児院があるのだろうがどこも状況は変わらなさそうだ。
孤児院に行くよりも乞食をやった方がいいのかもしれない。
俺達が借りる部屋に付くと鍵を開けた。
そういえばデロス町の部屋の鍵をそのまま持ってきちゃったけどどうしよう。
あの時はあれが最善だったからしょうがないよな。
うん。
部屋の内装もデロス町の長屋と一緒だ。
俺達は特に驚きも無くさっさと部屋に入った。
「部屋に小物を置きっ放しになったのはちょっと勿体無いな。」
「うん。けど無事にここまで来れたし日雇い登録もできたから大丈夫だよ。」
「そうそう。けどダンジョンに行けなくなったのはつまらないなー。」
「これで収入が減るなあ。飯も今までみたいに食えないかもなあ。」
「えー。それは困るよー。」
飯の話しとなるとメリは盛大に溜息をついた。
「もうちょっと稼ぎたかったけどまあ最後に運が良いのか悪いのか一発当てたから運は良いのかもしれない。こっちでの稼ぎが安定してから考えよう。問題は訓練時間が減ることだよなあ。」
「朝早く起きて訓練する位しか方法はないね。冒険者学校に入れば夜でも訓練できそう。」
俺達はこれからの生活について話し合った。
一先ずは食事はそのままにする事が決まり、メリは喜んでいた。
俺もすごく嬉しい。
体を動かすとどうしても腹が減るし今の内にしっかり体を作りたい。
新しい部屋での最初の目覚めだ。
朝の鐘はまだ鳴っていない。
俺達は起き出してパン屋と良いポリジ屋台がないか探した。
とりあえず一番最初に目に付いたポリジ屋台でポリジを買って黒パンを齧りながら食べた。
デロス町のポリジ屋に比べると普通だな。
中身の野菜は少ない。
次は別の屋台に行こうと思いつつ食べた。
ここでも水は有料で1小銅貨払った。
その後、運動場へ向かった。
訓練時間が短いので体操した後はいつもよりきつめの訓練を行った。
朝の鐘が鳴った。
俺達は日雇いは初めてなので体と服をウォータで洗ってすぐに集合場所の材木屋へ向かった。
早く着きすぎたようで回りの人々はまだ朝食をしている雰囲気だ。
俺達はそんな住民の流れを見ながら人が集まるのを待った。
人の流れが仕事に向かう人で増えてきた。
俺達の周りにも日雇いと思われる人々が増え始めた。
俺達は少し目立つようだがダンジョンに居た頃に比べると大した事ない。
集まった人の中には12歳になったばかり位の男も居るが女は居ないようでメリとラピアが少し目立っている。
周りを観察していると一際体の大きい職人風の男が来た。
「日雇いの点呼をする。集まれ。」
俺達は職人と思われる男の近くに集まった。
点呼が終わったが1人足りないようだ。
しかし良くある事のようで淡々と職人は説明を始めた。
「とりあえずここにある材木を現場に運んでもらう。数回行き来する事になるが先導役がいるからそいつに従うように。その後は現場での作業になる。では各自動き始めろ。」
俺達は指定された材木を各々持った。
俺達は周りの様子を見て平均的な量を運ぶ事にした。
「お前達、張り切りすぎて後半ばてるなよ!」
俺達が強化を使ったのを見て職人が言った。
周りは軽く笑ったが日雇いを初めてする人によくあることのようでそれ以上は特に反応は無かった。
「はい。大丈夫です。」
この程度なら全然大丈夫なのだがあんまり力を見せるのも嫌なのでこれ以上の強化は止めておこう。
俺達は現場と材木屋を行き来したが俺と同い年程度の男からの視線が結構強かった。
夫婦だとわかるとこれ以上の視線を浴びる事になるだろう。
メリは周りに話しかけられるが材木を運ぶのが楽しいのか空返事のようだ。
ラピアも話しかけられているが反応は鈍い。
これ位なら別に大丈夫だろうと思いながら俺は町中や現場の作業を見ていた。
作業が進むに連れて周りも疲れが出てきて無駄なおしゃべりもできなくなってきた。
俺達はまだ全然余裕で周りを見回した。
走って逃げた時もそうだが体力が有ると常に余裕ができていい。
疲れれば疲れるほど体も頭も性能が落ちていってつまらない失敗をしたりする。
しかし体力があるうちは安定して行動できる。
走りこみもしっかり続けなければならないなと思いつつ仕事に従事した。
材木屋からの荷運びで朝の部は終わった。