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7話

「魔境に入るぞ。各自気を引き締めろ。魔境では何があるかわからない。魔境に入ったら各々魔境の性質を調査すること。わかったな。」


『はい!』


俺達はこれから魔境に入る。


緩んでいた気持ちをしっかり引き締めて周囲への警戒を密にする。

そして俺達は魔境に足を踏み入れた。


魔境に入ると魔力の質が明らかに変わったのを肌で感じる。

体に魔力がまとわりつき空気が重さを増した。

これが魔素だ。


魔境に入って一番にすることがある。

それは魔境の性質を判断することだ。

魔境の環境はすぐ変わる。


昨日と今日とでは同じ魔境なのに中身は全く違うものに変化したりする。

魔境の変化を軽視したものには手痛いしっぺ返しが待っているだろう。


俺達は各々手の平に魔力を集め、魔境の性質判断をする。


「ファイア。ウォータ。ウインド。アース。ダーク。ライト。」


各属性の低位魔法をゆっくり唱える。

手の平に残る感覚でどの属性が強いのかを判断するのだ。


火が強ければファイアを消した時に暖かさが少し残り、水が強ければ魔法の後に手に水滴が残る。

風が強ければ魔法の後も風が少し残り、土が強ければ砂が手の平に残る。

光と闇はいつもより強さが変わるのを自分で判断する。


念を入れる場合は枯れ木などをまず火魔法で火をつけ、水で消火し、風で乾かし、土に埋める。

その時の変化で魔境の性質を判断する。


今回はいつもと同じで土の属性が強いようだ。


手の平に砂が残った感覚を確かめつつ前回と変わらないことに安堵した。

いつも同じ属性だった場所の属性が変化する場合は最も注意しなければならないが大丈夫のようだ。


余裕ができた俺は同じように性質調査をする周りの子供達を眺めた。


「グロウ、今日の魔境の性質はなんだ。」

「土!」


「そうだ。魔境に入った時はどんな状況でも必ず性質確認はすること。いいな?」


『はい!』


子供達は緊張感から解き放たれて豚の放牧を始める。


楽しい採取の時間だ。

いや、放豚の時間だ。


子供達の心情をわかっているのか、いないのかは別として豚はすぐ地面に落ちているドングリなどを食べ始めた。


この範囲はすでに大人達が採取を終えた後になっている。


採取をある程度終えてから豚を放牧するので食べられる植物はほとんどないと言っても過言ではないだろう。

しかし小動物や虫、育ちの早いキノコなどはある可能性があるので子供達の採取の練習場としては丁度いいのかもしれない。


「蛇捕まえたりー!」


グロウの控え目の声が聞こえてきた。

グロウは目を輝かせ、自慢気に蛇を持って見習い薬師と薬師の所に行った。


魔境では植物、動物、虫、ありとあらゆる生き物、無機物ですら魔力を帯びる。

魔力を帯びた物は帯びてないものとでは違う性質を持つことも多く、取り扱いには細心の注意が必要である。


採取には基本的に薬師が同行し、採取物を精査する。

見習い達にとっても勉強になるので危険が少ない場所にはよく同行する。

そうやって魔境の知識を得ていくのだ。


魔境で学んだ薬師はどこへ行っても高待遇だ。

町の薬師などは経験を積むために開拓村に修行に来ることがよくある。


経験豊富な薬師は貴重でいくらお金を積んでもその教えを乞う者が後を絶たない。


グロウが捕まえた蛇は見習いの薬師に渡された。


見習いの薬師は丁寧に蛇を調べる。


「これはクスシヘビだ。毒のない、食べられる蛇で、魔力に変化の見られないな。」


蛇は普通の蛇だったらしい。

固体によっては牙に魔力が集まっていたりしてすごく毒が強かったり、逆に薬として使えたりと千差万別だ。


魔力を帯びた物を見つけた場合はご褒美としてご飯が豪勢になったりするのでグロウは採取の時は本気なのだ。


残念そうな顔をしたグロウだったが捕まえた時点で自分で見ているので特に魔力がないことはわかっていたようだ。


「捌いてみろ。」

「はい。」


見習い薬師は持っていた荷物の中から木のコップを取り出し蛇の首をナイフで浅く切った。

まだピチピチしている蛇を逆さにしてコップに蛇の血を入れた後、まだ動いている蛇を固定して慣れた手つきで内臓を取った。


蛇の頭と内臓を捨てると豚がきてあっという間に食べてしまった。


蛇は皮を剥がれ、肉と皮に分けられ水魔法で洗われてからかごに別々に入れられた。

子供達はその手際を憧れの眼差しで見ていた。


「さあ。」


見習い薬師から蛇の血の入ったコップを渡されたグロウはすぐに一口飲んだ。

その後回りの子供達にコップを回してみんなが少しずつ飲んだ。


「幸先がいいな。次は魔力持ちを見つけるぜ。」


グロウはそういうと豚の面倒を見る事を忘れたかのごとく採取を始めた。


薬師はそんなグロウを見て肩をすくめたがいつもの事だ。


大物狙いのグロウとは違い、年中組の子供達はとかげや虫、草などを中心に集めているようだ。


俺は一応豚の様子見もあるので移動せずに探す方法でいくことにした。

それに薬師の解説も一応一通り聞いておきたいのもある。

名前までは種類が多くて覚え切れないが食べられる物とそうじゃない物程度の区別はつけられるようになりたい。


「虫は小さいが栄養価が高い。薬に使われるものもあるし侮ってはならない」


薬師はそういうと年中組の採取してきた物を調べはじめた。


俺は近くにある魔力の多い木の根元を掘り始めた。

迷ったら魔力が多い場所を探せだ。


途中で拾った木の幹で土を掘り起こそうとするが硬くて掘りにくい。

俺は無属性魔法の強化を使って掘ることにした。


俺の狙いは木の根元にいるであろう虫や幼虫、蛙などで運が良ければ魔力を帯びた石が出るかもしれない。

今まで出た事はないがな。


俺が掘り始めると豚がそれを目ざとく見つけて近づいてきた。

掘り出した瞬間に豚に食われるわけには行かないので豚に背を向けて掘った。


掘り進めて行くと食べられる物が出てきた。

みみずだ。


俺は見なかったことにしてみみずを豚のほうへ投げた。


豚は土ごとみみずを食べたがすぐに次を求めてつぶらな目で俺を見つめてきた。


その後、豚の様子見ができる範囲で何箇所か掘ったがまともな収穫物はなんかの幼虫2匹だった。

薬師に見せなくても食べられるとわかっていたが、一応薬師に見せて2匹とも大丈夫と言われた。


「もし魔力を帯びた虫を見つけたら無闇に食べてはいけない。どうしても食べなくてはならない状況になったら内臓の部分を除いて火でしっかり焼くことだ。私達が回りに居る時は生きたまま捕まえて渡しなさい。」


薬師の説明が終わると丁度良く遠くに鐘が鳴った。


「昼飯の時間だな。全員居ることを確認したら一旦魔境の外に出るぞ。」


今まで見かけもしなかったグロウだが鐘の音を聞くや否やすぐ俺達に合流してきた。


「野ねずみを見つけたけど火魔法が使えなくて捕まえられなかったぜ。火魔法さえ使えれば楽勝だったのに。」


悔しそうにしているグロウだが足は飯に向けて素早く動いている。


俺達は豚と共に魔境から出た。魔境を抜けると昼飯が届いていた。


「よっしゃ。できたてほやほやの黒パンだ!」


グロウが小走りで黒パンの元へ向かう。

今日の昼飯も黒パンと水瓜だ。

できたての黒パンは仄かに暖かい。

割ってみると熱気が顔に当たり、中は柔らかくて得をした気分になる。


「蛇や蛙は夕飯にするが、今捕まえた虫は食べてしまおう。」


薬師がそういうとグロウがすごい早さで火の準備をしはじめた。


俺は自分のかごから幼虫2匹を取り出して木に刺して木を強化して焼き始めた。

木を強化すると燃えにくくなって串代わりに便利だ。


「ロッシュは幼虫かあ。それ美味いんだよなあ。いいなあ。」


グロウが露骨に催促したきた。


「半分はあげるよ。残り半分は何も取れなかった奴か蛇とか蛙取ったけど今食べるのがないやつにあげろよ。」


俺は焼きあがった幼虫の頭の部分を取って食べようとしたが年中組が物欲しそうな顔をしていたのでバッタと交換した。


「分けて食えよ。」


たいした物ではないが火を囲んで食べると美味しく感じる。

残り時間でもうちょっといい物が取れるといいな。


その後、同じように掘ってみたが小さい虫と幼虫が数匹取れただけだった。


グロウは大物狙いだったが結局その後は何も取れなかったようだ。

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