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「お前達の部屋と日雇い登録は明日役所に行けば貰えるそうだ。ダーデス様に感謝するように。今日の所は詰め所のさっきの部屋を貸そう。あまり夜遅くなると詰め所に入る事はできないから注意しろよ。それと・・・・・・。まあ、いい。」
鉄鎧の男は何かを言おうとして止めた。
なんだったんだ?
「午前中は休ませて貰って、午後から外出しようと思います。」
「ああ、好きにしろ。」
鉄鎧の男はダーデスとの面会で疲れ切ったようで重い足取りで去って行った。
「私は休まなくて全然大丈夫だよー。」
「ラピアはもう少し休んだ方がいいし、俺だってまだ休みたい。早ければ今日の夕方にはデロス町から出た人が来るから午後も一回りしたらすぐ詰め所に戻るぞ。ダンジョン攻略組合の奴らはまだ町に残っているだろうけど気をつけて損はない。」
「ちぇー。」
俺達はさっきの部屋に行って部屋の隅で体を丸めて眠った。
メリは最初はモゾモゾしていたが観念して眠ったと思う。
俺達は昼の鐘で目が覚めた。
俺はゆっくり体を伸ばすと軽く体操をした。
「町を見学に行こう。」
「行こう行こう。」
「うん。」
俺達はまず町の中心にある広場に行って町の地図を見た。
まず役所の位置と詰め所の位置を確認した。
その後一番近くのパン屋へ向かって黒パンを買った。
屋台を軽く見て回ったがデロス町と同じでドブヌートの串焼きが多い。
グリエ町のダンジョンではドブヌートとスケルトンが出るそうだ。
ダンジョンは近場のダンジョンだと出現する敵が似る場合が多く、もっと東に行くとスケルトンが出るダンジョンがあるようだ。
デロス町とグリエ町ではドブヌートが共通しているので、デロス町の近くにダンジョンがあればゴブリンが出る可能性が高い。
そしてスタンピートもゴブリンだったのでこれから数年はゴブリンがいるであろうダンジョンを発見する為に、多くの開拓村ができるだろう。
そしてダンジョンを探す冒険者も数多く参加するので数年は賑わうはずだ。
ダーデスが忙しくなると言ったのはそういうことだろう。
4年以内にダンジョンを見つけられればスタンピートも回避できる。
ダンジョンが見つかって欲しいものだな。
エル村もダンジョンが近くで見つかれば当分は安泰になる。
俺達は町を軽く一周した。
町の様子はデロス町より古い町のようだ。
デロス町が新しいという訳ではないがそれに比べて古いのは確実だ。
となるとダンジョンが枯れる前に次なるダンジョンを見つけたいと思うのは当然だろう。
俺は少しワクワクしながら今後の動きに期待した。
その後俺達は詰め所に戻って部屋で休んだ。
運が良いことに簡単な物だが夕食も出た。
もちろんポリジだ。
俺達は黒パンを背負い袋の中に入れたまま夕食をご馳走になった。
ただ飯ならいくらでも貰おうの精神だ。
食事が終わった後に黒パンを引っ張り出して食べた。
今日一日は訓練が出来なかったので寝る前に軽く剣を振ってから寝た。
俺達は朝の鐘が鳴る前に目が覚めた。
部屋から出ると人の気配は少ない。
俺は詰め所の外に出て鉄鎧の男が来るのを軽い運動をしながら待った。
朝の鐘が鳴って少し経つと鉄鎧の男が詰め所に来た。
「お世話になりました。ありがとうございます。俺達はこれから役所に行きます。」
「ああ。」
俺達がお辞儀をすると男は手を上げて応じた。
そして俺達は役所へと向かったのだ。
役所に着くと開いたばかりのようで人は疎らだ。
空いてる受付で以前のように話しを聞いて、指定された受付に移動した。
俺達は1人1人デロス町の身分証明の鉄板を渡して確認された後にグリエ町の小さい鉄板を受け取った。
鉄板には日雇い登録が表記されていた。
他の村の鉄板は身分証明と冒険者登録くらいしか新しい町では使えない。
しかしそこに記されている資格や許可などはその人の履歴を示すものでその人物の信用度になる。
俺達は運よくダンジョン入場許可が貰えていたので信用度は高いようだ。
それに新しい鉄板が増えるとなんか嬉しい。
もっと集めたくなる衝動に駆られる。
紐に新しい鉄板を通すメリも嬉しそうだ。
わかっているじゃないか。
ラピアは特に変化はない。
そしてデロス町と同じように部屋の鍵を受け取った。
「時間的に大丈夫だかわからないけど日雇い仕事受けてみようか。遅すぎてたら説明だけ聞こう。」
「わかったー。」
俺達は日雇いの紹介所に向かった。
紹介所と思われる屋台には人だかりができている。
思っていた物よりみすぼらしいなと思いながらその人混みに入っていこうと思ったが隣にも普通の建物で紹介所があった。
俺はとりあえず空いているその受付に行って話しを聞こうと思った。
「日雇い登録を出せ。」
俺達が受付の前に立つとそう言われた。
とりあえず俺はグリエ町の鉄板を見せた。
受付の男は見慣れない俺達を訝しんだが鉄板を見て一瞬驚いた。
「お前達は隣の紹介所だ。」
質問できる空気じゃないので俺達は仕方なく人だかりの方に向かおうとした。
「そっちじゃない。こっちだ。」
受付の男は隣の大きな建物を指差して言った。
俺達はよくわからず軽く頭を下げてその建物へ向かった。
俺達は大きな建物に入るとそこは役所のように内装が綺麗で静かだった。
他の2つの紹介所とは明らかに高そうな雰囲気のするその受付に俺達は戸惑いつつも進んだ。
「日雇い登録を見せてくれ。」
さっきの男よりは良い服を着た男に言われて俺はグリエ町の鉄板を男の方に差し出した。
男は俺達をジロジロと見た後に差し出された鉄板を見た。
その鉄板を男は調べた後、裏にあるデロス町の鉄板を見た。
ほう、と感心した様子で男は話し始めた。
「お前達が噂のデロス町から走って逃げてきた奴らか。」
「はい。噂になっていますか?」
「ああ、夜通し走ってここまで来たんだろ。お陰で町長は一儲けできたみたいだぞ。タイミングが良かったな。前の町では日雇いはやったことはあるか?」
「ありません。」
「わかった。じゃあ、説明する。まずお前達がここに来る前に他の紹介所を見たと思う。」
俺達は頷いた。
「紹介所と言っても位が合って、低級、中級、高級の紹介所がある。外の屋台みたいな紹介所が低級、隣の普通の店みたいな所が中級、ここが高級ってわけだ。」
「外から出稼ぎに来た奴らは基本的に低級となる。中には身分証明も無いような奴もいるからそういった信用度のない奴らが利用する事になる。中級はグリエ町の住民か低級の仕事をまじめに長年やってきた奴らが利用している。そしてここ高級は信用度が高くて能力がある者が利用している。あと長期雇用の場合だな。」
職員を見てみてもここは役所と同じような空気がしている。
外の紹介所とは毛色が違う。
「お前達にはこれから色々な仕事を紹介するが仕事が上手く行かなかったり雇い主が満足するような成果が上がらない事が増えると中級に落ちることになる。けどこれは別に恥ずかしいことじゃない。ここを見て分かるように一部の能力のある者が利用する場所だから日雇い自体に慣れていないお前達にはつらいかもしれない。」
「これはダーデス様が気を利かせて一番良い場所から始めさせてくれたんだな。中級から高級に上がるのは低級から中級に上がる労力とは比にならない位大変だ。それに何より給料が低級に比べると良い。しかしそれだけ大変になる。だからお前達には簡単な仕事から徐々に難しい仕事を受けられるようにしていくが中級に落ちないようにまじめに働くことだな。」
「低級ではその日限りの仕事が多いが、中級、高級となるとある程度の期間をまとめて働く事ができる。高級では1年以上の契約で働く者が多い。紹介所を通して契約を結ぶと色々と保護される事があるから人に雇われる時は絶対に紹介所を利用しろ。頭の悪い奴に限って紹介所を使わないで直接人に雇われて痛い目に会うんだ。説明はそんな所だ。とりあえず順に名前と年齢とできる事を言ってくれ。」