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魔境に適応した俺達3人であったが魔力の回復量はラピアが圧倒的に多かった。
その理由はわからないが魔素を魔力に変えるのが上手いのだろうか。
このまま鍛えれば魔境の中での方が魔境外より魔力を効率的に使えて回復も早くなりそうだ。
魔境の中の方が強いなんて話しは聞いた事がないがなんか格好良いな。
よし、俺もがんばろう。
そして魔境に適応したことによって魔力に余裕が出来た。
普段より目を強く強化することができるようになって、より見えやすくなった。
中々進まずにいた暗闇での戦闘もこれにより大きな前進を遂げた。
そして目の強化によっての見え方が3人で大きく違いがでてきた。
なんとラピアは魔力の消費を気にせずに大量の魔力を使えば外と同程度の視界を得る事ができるようになった。
ただ魔力を増やせば増やすだけ見えやすくなるわけではない。
ある一定のラインまでは見えやすくなるが各々の力量によって見えやすさに上限があるようだ。
俺達は魔境に適応する前に目を思いっきり魔力で強化したが見え方はほとんど変わらなかった。
しかし適応した後は一目瞭然で違う。
今まで障害物だった物が取り払われた様な明瞭さだ。
なるほどと俺は後付で理解した。
魔素を異物だと思っているうちは魔素がこんなに一杯ある場所じゃ見えなくてもしょうがない。
けど今は魔素は障害物ではない。
そうすると魔素は邪魔する所か俺達を助けてくれる存在になる。
夜にダンジョン外で目を強化してみたがダンジョン内ほど明瞭には見えなかった。
俺はそのことに気が付いて少し感動してしまった。
ラピアも驚いているようだった。
メリはなんで外の方が見えないの? と疑問顔だった。
ラピアと俺はダンジョン内なら暗闇の中でもかなり見えるようになった。
メリは多少視界は晴れてきたが俺達ほどではないようだ。
俺もラピアと比べると見劣りするが戦闘が普通にできる位だ。
それによりダンジョン内での地位が一気に逆転した。
今までダンジョン内での模擬戦はメリ、俺、ラピアだったが今では俺、ラピア、メリだ。
俺はついにメリを圧倒したのだ!
夢に見た状況がダンジョンにある。
しかし俺は一回メリと戦って圧勝して熱が冷めた。
このまま調子にのって勝ち続けたら最終的に負けるのは俺だからだ。
今、メリは圧倒的に不利な状況で必死に戦っている。
俺も視界の良さに胡坐を掻いていたらメリの視界が鮮明になった時に圧倒的な差で俺は勝てなくなる。
俺は目の強化を弱めて見えにくい状態で戦うようにした。
ラピアはそんな俺に気が付いたが何も言わなかった。
ただ少し微笑ましい目で見られたのが少し恥ずかしかった。
暗闇の中で戦う方法は得た。
そして次の段階は魔力視もなしに暗闇で戦う方法だ。
俺はしだいに目の強化を弱めていった。
そしていつの間にか強さはラピア、メリ、俺となった。
ラピアは俺と違って後衛なので目を強く強化するのに慣れた方がいい。
逆に俺は前衛なので目に魔力を使いすぎて他の強化が疎かになってはいけない。
あの闇の中で俺は気配察知ができるようになった。
常に厳しい状況に追い込んで鍛えた方が伸びはいい。
俺は今後の為に、目の強化は程々にして自力を磨く事にした。
メリは俺の強さが徐々に弱くなって、自分が強くなっているわけじゃないのになんでなのか全然わかっていないようだった。
俺はメリより強くなりたいが短期的に強くなりたいわけじゃない。
長期的に強くなりたいのだ。
だから今はまだ雌伏の時だ。
ずっと雌伏してそうで怖い・・・・・・。
俺達が魔境に適応して暗闇での戦闘も一歩前進して浮き浮きしていた時、俺達以外も成長していた。
セイ達は今では12大銅貨を超える収入になったらしい。
最近では昼食持参で入ったらそのまま奥に向かって時間的に半分になったら引き返しているらしい。
浅い場所での乱獲が無くなり浅い場所で狩っているダンジョン攻略組合の人はほっとしているだろう。
逆に奥で狩っている者には毛虫の如く嫌われているようだ。
俺達も昼飯持参でダンジョン内で昼飯食べてもいいな。
出稼ぎの人達も春になって村に戻っていったのでダンジョンは一時の平穏を取り戻した。
と思われたが春になってセイ達は冒険者学校を卒業したらしくダンジョンに潜る日が増えた。
お陰で以前よりまして嫌われているようだ。
セイはダンジョン攻略組合には所属していないがお嬢様の付き添いと言う事でダンジョンに潜れているそうだ。
町長の娘ともなれば戦闘訓練も必要となる。
特にこの町にはダンジョンがある。
大変だなあと思ったがお嬢様自身はいつも楽しそうなので気にしないでおいた。
俺達は予定としては来年冒険者学校に通って鍛えつつ、武器を買うお金を貯める。
そして1年後に卒業してタウロ開拓団の入団試験を受けてタウロ開拓団に入る。
これが目標だ。
タウロ開拓団に入ったらラピアは薬師を目指すと思うので確実に離れ離れになってしまうのがつらい。
俺はラピアに合わせれば一緒にいれるだろうが、どうにかならないだろうか。
と未来を悲観してもしょうがないので今できる事をやりつつ考えておこう。
ラピアが手伝いに行っている治療院はセイが冒険者学校を卒業してダンジョンに潜る機会が増えたので来る患者の数も戻ってきているそうだ。
ラピアは正式な職員として雇ってもいいと言われているが断っている。
もしラピアが正式な職員になるなら俺もここに根を張るつもりだ。
スタンピートは心配だが正式な治療師になれるなんてすごい事だ。
ただそれだとメリには刺激が足りなさそうだ。
ダンジョンに潜れるようになれば良いのだが一段飛ばしでダンジョンに潜ってしまっている為、ダンジョン攻略組合には嫌われている。
雇ってもらえる可能性は随分と低い。
ここは魔境からも遠いのでダンジョン以外ではメリを満足させられないだろう。
うーん、あっちを立てればあっちが立たず難しい問題だ。
「二人に相談がある。」
俺は夕食後に切り出した。
「セイ達が昼飯持参でダンジョンに入ってるみたいなんだけど俺達もそうすべきか、今のままでいいか二人の意見を聞きたい。俺は、どっちでもいいが効率は昼飯持参の方がいいな。ただそれだと昼が味気なくなるね。」
俺達は追跡劇の後の少しの間は毎回ダンジョンに黒パンを背負って入っていたが食べる量が増えたし、嵩張るし追跡者も怖くなくなったので黒パンの持ち込みは止めていた。
「うーん。昼のポリジが回避できるなら昼はダンジョンでもいいよ。」
「私はどっちでもいいよ。」
メリはそんなにポリジが嫌なのか。
「一回試しにやってみようか。明日やるとなると朝は市場はやってないし屋台がほとんどやってないから昼飯は黒パンのみになっちゃうね。それが嫌なら明日の夜に明後日の分の野菜か何かを買っておかないといけない。二人はどっちがいい?」
「明日でいいよ。黒パンは1個半は食べたい!」
「うん。それでいいよ。」
「わかった。明日の朝は黒パンを何個買えばいいんだい?メリ君。」
「わ、私? うーんと、朝は黒パン一個とポリジだから3個でしょ。昼は黒パン一個半食べるから5個あれば足りるね。合わせて8個あればいい。」
「正解!黒パン食いすぎな気がしないでもないけどお腹減るからなあ。」
「そうそう。ミュッケ村でも子供はいっぱい食べた方がいいって言ってた。」
「メリはもう成人じゃなかったっけ?」
メリは露骨に目を逸らした。
「私は一個で足りるけどメリはまだ背も伸びてるし食べた方がいいよ。」
「ラピア、ありがとう!」
「野菜とかポリジもいっぱい食べるといいぞ。」
「うえー。」
明日の予定が決まったので訓練をしてから寝る。
昼飯持参でダンジョンに潜るっていうのはちょっとワクワクする。