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ここら辺はほとんど平原なので林と違って採取は大変そうだ。
とりあえず蛇に気をつけてよう。
気配を探るが蛇のような小さい生物まで察知できるかはわからない。
目で見える物は回りに任せて俺は気配を探った。
村の近場はもう見て回ったようで遠くの場所まで足早に進んだ。
俺は常に集団の一番外側に居るように心がけて採取をした。
だが収穫は今の所なしだ。
少しずつ移動しながら探っているが何も引っかからないな。そうしていると木立が見えた。
俺達は木立へ向かった。
ここなら掘れば何かしら見つかるかもしれない。
そう思っていると地面に気配を感じた。
俺は強化をしてその場所を木刀で手加減して叩いた。
俺が突然地面を叩いたので周りの人が一斉に俺を見たが俺は気にせず気配がした辺りを木刀で掘り起こした。
そこには冬眠中の蛇が居た。
周りからは驚きの声が上がった。
グロウやメリは余計やる気に火が付いたようだ。
なるほど、近ければ冬眠中の蛇も見つけられるか。
俺が蛇を見つけたのを見たメリはどうやら気が付いたようでその後すぐに2匹の蛇を見つけた。
2匹目を見つけた時には一瞬俺の用を向いてニヤついていた。
少し、少しだけ腹が立っとした。
その後、俺達は木立の中を掘り返しながら採取を続けた。
濡れた木の枝も回収して乾かして使うそうだ。
俺はそんな村人達を見ながら回りの気配を探った。
突然鋭い気配が飛んできた。
俺は慌てて見返したがそれはメリだった。
俺がメリを見るとメリは口に手を当てて静かにするようにと示している。
俺はゆっくりメリに近付いた。
ラピアも同じように呼ばれていてメリの近くに集まった。
「目は動かさないで静かに聞いてね。向こうからこっちを見る視線を感じるよ。たぶん草原狼かな?兎にしては少し大きい気がした。」
俺はメリに言われたので気配を探ってみる。
しかし俺は見られている程度しかわからない。
それも見られていると言われないとわからなかっただろう。
俺達は石を拾った。
「ラピアが気付かれないように魔力をゆっくり貯めて魔法を打って。私達は石を投げた後追うよ。」
「わかった。」
ラピアも頷いて少しずつ魔力を貯め始めた。
俺はメリと少し離れて追いやすい位置へと移動した。
「アイスランス!」
ラピアが魔法を唱えた。
メリはその後に続いて石を投げた。
俺は気配がいまいち掴めなかったので石を持ったまま気配の方向へ走った。
近付くと何かが走って逃げようとしている。
俺は石を投げたが当たらなかった。
しかし走り去ろうとした何かはよろめいている。
草原狼のようだ。
足を怪我したようで速さが遅い。
メリは獣の様な疾走で後を追った。
道はぬかるんでいるがいつもダンジョンを走っている俺達にはそこまで難しい場所ではない。
俺は石を拾ってメリの援護に回った。
俺の投げた石はまたも当たらなかったが狼の進路方向を一瞬遮った。
そしてラピアからのアイスアローが草原狼に当たった。
これが決まり手となった。
走れなくなった草原狼はメリに追いつかれて首を折られた。
草原狼を持ったメリがみんなから拍手で迎えられた。
「3人ともすごいぜ。前もすごかったけど今はもっとすごい。くそっ、俺もがんばるぞ!」
グロウは嬉しそうに悔しがっている。
興奮冷めやらぬまま採取を続けたが、結構良い時間になったので俺達は街道まで送ってもらってそこから帰ることにした。
「なんか貰ってばっかりだな。今度はゆっくり遊びに来てくれ。」
「みんなに会えて楽しかったぞ。また来るからよろしく。」
各々が別れを告げている。
子供たちは寂しそうだったが草原狼を倒した俺達を尊敬の眼差しで見ている。
昔は俺が大人を見る側だった。
昔の俺は今の子供達のように 目を輝かせていた。
俺は急に胸が締め付けられる思いがした。
だから言う事は一つだ。
俺はわざとらしく大きく笑って言った。
「みんなもそのうちできるようになる。がんばろうぜ。」
子供達は頷いた。
俺達はミュッケ村の大人達の背中を見て育った。
大人達は色々な物を俺達に見せてくれた。
そう、わざわざ俺達に見せてくれていたのだ。
だから俺達は答えに向かって追いかけられる。
答えが分かっている問いならいつか辿り着けると信じて。
こうして俺達はエル村の村人と別れて町に向かった。
メリは嬉しそうで、いつもに増して誇らしげだった。
俺達は別に何も考えてなかったが子供達に背中を見せられた事が嬉しかった。
今回結構お金を使ったがそれ以上の事を掴めた気がして俺はありがたいと思った。
町に戻っても訓練をがんばろう。
心機一転して俺達は町へ戻った。
町に着いた俺達は一先ず解散となった。
俺達は夕食を買いにパン屋と屋台を回った。
「村のみんなが毎日ポリジを食べてるから俺達も食べないとなあ。」
俺はニコニコしながらメリの方を向いた。
「う、うう。うん。毎日1食ならね。」
俺はもう少し突こうかと思ったけど今日は止めておいた。
「今日はメリが大活躍だったからこれくらいにしておくか。」
「そうだよ!私達初めて草原狼狩れたね。嬉しかったなあ。」
「よく詳しく気配がわかったよなあ。俺にはぼやけてて大きさまではわからなかった。」
「私もぼやけてるけど見られてるって分かった一瞬だけは大きさがわかったんだよね。」
「ふーむ。まだまだ修行が足りないな。けど今回ので俺達の成長が分かってよかった。」
「うん。そうだね。私も結構体力付いてて嬉しかったよ。」
ラピアが嬉しそうに言った。
昔だったらラコスより体力は劣っていたが今では完全に追い抜いている。
「気配察知はすごいな。冬眠中の蛇までわかった。メリは敵に見られたのに気がつけたし。」
「ロッシュがいきなり地面叩いて驚いたよ。ふっふっふ、けどそれはお姉さんには塩を送る結果になったようだね。ふふ、ふん。」
「私も早く二人みたいに気配がもっと読めるようになりたいなあ。」
「徐々に気配に鋭くなってるのがわかるからもう少しだよ。」
「そうかなあ。頑張るよ。」
俺達は部屋に戻ると気配飛ばしと布玉投げをした。
俺はふと敵意を感じた。
目を開けると目の前は真っ暗だ。
そうか俺は寝ていたんだ。
メリも起きた気配がする。
目を強化して武器を手に取る。
部屋の前に敵意が2体集まっている。
メリはラピアを揺すって起こした。
起きた二人は武器を取って構えた。
ここの長屋の鍵は単純な作りをしているから原理さえわかっていれば開けられる程度の物だ。
どうするか二人に目配せする。
鍵をカチャカチャし始めた音が聞こえる時間はもう少ない。
だが俺とメリは焦っていない。
ラピアは気が動転していたが冷静な俺達を見て落ち着きを取り戻している。
俺達が焦っていない理由は敵が弱いからだ。
気配を感じただけで弱いとわかる。
強い敵だったら敵意を感じさせないはずだ。
しかし部屋の前の二人以外は集中して探っても見当たらない。
メリは俺に任せるよって顔で俺を見ている。
俺は頷いた。
俺は扉に近付いて扉を平手で叩いた。
「ドンッ!ズシャッ!ジャリジャリ、ダッダッダ。」
俺は笑いが耐えられなくなって暗闇の中で腹を抱えた。
メリもおもしろすぎてヒューヒュー言っている。
ラピアだけが俺とメリを見ながら困惑している。
俺はラピアに事情を説明した。
敵意で目が覚めたこと、敵意は2つあったが気配がバレバレで弱いこと、強い奴が他に居ないか探ったが他には居なさそうなこと。
その結果、俺は扉を叩いて驚かしてみたのだ。
その音に吃驚して倒れたであろう音がしてその驚きのまま部屋から距離を取ろうとして後ずさった後、アタフタしながら走って逃げた様な音がした。
メリは俺の説明を聞きながらまた腹を抱えて笑った。
ラピアは納得したけど釈然としない顔をしている。
相手がラコス達の部屋を狙わなくて良かった。
まあ、隣の部屋なら俺達が気が付くか。
でも俺達に向かって悪意が放たれていたからこそ鍵をいじられる前に気が付いた。
あとでこのことはラコス達に教えておこう。
俺は寝るかと二人に言って怖がっているラピアを真ん中にしてすぐ寝た。
後日相談した結果、砂のたくさん入った袋を寝ている時や外出する時にはつっかえ棒代わりに扉の前に置く事にした。
今回は俺が気配察知が出来たからこの手が取れたが俺が気配察知できなかったら待ち受けて捕まえるか追い払う方法を取っていただろう。
そう考えるとやはり力の有無は大きい。
俺は特に安定安全思考だから読まれやすいだろう。
いざという時にはメリに判断を任せた方がいいかもしれない。
けど好戦的過ぎてまかせられないんだよなあ。
今はメリもラピアも大体は俺の言う事を聞いてくれるが以前のように反対される事もある。
できるだけ色々な場合を想定して先に決めておいた方が良さそうだ。
まあ、事前に話し合った所で決まらない事は決まらないだろう。