6話
「カーンカーンカーン」
朝の鐘が鳴り、また一日が始まる。
「みんな起きろー。早く起きろー。」
朝からグロウが大声を張り上げる。
そう、今日はパンを焼く日なのだ。
運が良いと昼に焼きたての黒パンが食べられる。
白パンは何かの祝い事じゃないと出てこないから除外する。
それでも焼きたての黒パンは硬いけど柔らかく3日に1度の贅沢だ。
グロウの様子に年少組も今日がパンを焼く日だとわかり、いつもよりやや素早く行動を始める。
「広場に行くぞ!」
グロウは肩で風を切りながらみんなの先頭を歩いていく。
俺達はやれやれと思いながらも年少組の手を繋いでそれを追った。
掲示板についたが今日も水遣りだ。
というより朝は毎日水遣りが日課だからな。
いつもより足取りの軽いグロウと一緒に自分の指定された場所へと水を持っていく。
朝の冷たい空気と徐々に温かくなっていく体に心地よさを感じつつ俺達は走った。
水遣りが一通り終わると朝飯の時間だ。
今日もポリジ、かぼちゃは固定でそれに水瓜と塩茹でした豆が付いている。
「またポリジかあ。黒パンかじゃがいもが食いてえなあ。」
グロウが愚痴をこぼしているが豆があるだけで今日は当たりの部類だ。
豆類はただ茹でただけでおいしく食べられる優等生だ。
「運がよければ昼にはできたての黒パンが食べられるさ」
「そうだな。待ち遠しいぜ。」
俺は、昼に黒パンが出なかったら嘆くだろうなと思いつつ食べることに集中した。
食器を片付け、掲示板を見る為に広場に移動した。
今日は豚の放牧のようだ。
豚の放牧は魔境で行う。
先に大人達が安全を確保してから大人の先導で豚を魔境の森に連れて行く。
そこでドングリなどの木の実などを食べさせるのだ。
俺達は基本的に群れからはぐれる豚を防ぐだけなので楽な仕事になる。
そして魔境に入る数少ない機会でもある。
豚の放牧以外には採取の仕事で魔境に入る。
魔境での採取は子供達に一番人気の仕事で楽しいし、食べ物も見つけられるし俺も好きだ。
豚の放牧でも豚が群れから離れないようにしっかり見ている範囲内なら採取してもいい。
しかし豚はなんでも食べるのでうっかりしていると食べられる物も豚に食い尽くされてしまう。
豚に食べ物を取られないように注意しつつ自分達の食料を探すのだ。
採取した物は必ず大人に見せて調べてもらわなければならない。
魔境の植物は魔素を帯びていて魔境以外の場所では食べられるのに魔境産の物は猛毒だったりと性質の変化が魔境によって様々である。
採取したものを大人に持っていって食べられるかどうか判定してもらう時は少しドキドキするものだ。
ミュッケ村では開拓の仕方も色々考えているので、村のすぐそばに魔境が残っている。
放牧用、採取用などに使われているのだが魔境の切り開き方にも経験が問われるらしい。
何も考えずに片っ端から開拓した結果、魔物に手痛い反撃を食らうなどという事例はよくあることだ。
ミュッケ村では弱い魔物は追い払う程度で無闇に狩り尽くしたりしない。
少しずつ魔境の環境に合わせて開拓を行う。
生息する魔物の種類によっては逆に植林などをする場合もあるらしい。
魔境のすぐそばに果樹の木を植えると育成速度が早くていいが、物によっては魔境から魔物を引き込んでしまうので注意が必要だ。
わざとそうやって魔物を誘い出して狩る方法がないわけではない。
話しはそれるが、開拓村には色々な種類がある。
ミュッケ村のような真っ当に魔境を開拓していく村、冒険者などを呼び込み採取中心でお金を集めようとする村、開拓村を繋ぐ宿屋的な立ち位置を目的とした村、特定の実験の為に魔境周辺の土地を使う実験用の村、魔境には手を出さず畑だけを増やすことを目的とした村。
開拓村といっても作る人によって色々な種類がある。
特に商人が主導の村だと冒険者用と宿用の村が多い。
ただ同じ開拓村としては冒険者用の村は嫌われる傾向にある。
冒険者を呼び込むことで呼び込んだ村は大金を得るが、治安は悪くなるし周りの魔境は資源を狩りつくされ、魔境は荒らされる。
一種の空白地帯となった魔境は環境が変化して混乱を呼ぶケースが多い。
まじめに開拓している村や魔境に手を出さずに畑だけを増やしている村などにとってはいい迷惑だ。
その上、資源を狩り尽くすとさっさと別の場所に移動してしまう。
それらの皺寄せは周辺の村や魔境にいくことになる。
幸いミュッケ村の周辺は畑を増やすことを目的とした村ばかりで今のところは安定している。
というより最初からそういう場所を選定したようだ。
村長が所属していたタウロ開拓団は人気のある場所をどんどん開拓していてミュッケ村などの場所はそれに比べると人気のあまりない場所となっている。
自分の村の近くに防衛力の高いしっかりとした村があることは心強く、タウロ開拓団の開拓村の近くに他の開拓村が作られる場合が多い。
そういった事情から開拓する場所も流行廃りが出てくる。
自分の力を頼りに自力で開拓するという考えはかっこいいが俺だったら安定した大手クランの周りに村を作るだろうな。
豚を一塊りにまとめながら移動していた俺達は魔境との境に到着した。