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雪が降った事で町の活気が少し弱くなった気がする。
何より日雇いは仕事が減ったことでいつもより大変そうだ。
普段は見かけない時間にも日雇いから溢れただろう人を見かける。
それでも多くの人達は寒いので宿などにいるのだろう。
普段より俺達に向けられる視線が明らかに鋭い。
何故か女からの視線が強い気がする。
兵士達もいつもよりも緊張しているように見える。
変なのに絡まれても困るので俺達は最低限の移動でダンジョンと市場と部屋を行き来した。
運動場も人が疎らで俺達が訓練をしていると逆に珍しい物を見たような目で見られている。
俺達は季節に左右されない仕事なのでいいがもう少し季節ごとに生活を変えたほうがいいのだろうか。
訓練日にラピアは治療院の手伝いをしているがいつもの年より来る人が少ないと聞いたそうだ。
町が空気が良くないから気をつけないといけない。
ただ、町の一般住民には俺達がスタンピートの時に教会の前で戦っていたのを見ていた人も居るようで俺達にそこまで悪感情はなさそうだ。
しかし普通の冒険者からはダンジョンに入れる俺達への嫉妬は大きい。
それでも人伝に俺達が戦えるのは聞いているようなので手を出された事はない。
早く春にならないかなあと思う。
暖かくなればまた日雇いなどの仕事も増えるだろう。
今度ルネルに冬はいつもこんな感じなのか聞きたいな。
若干の不安を抱えつつも俺達はダンジョンへ潜る。
最近はやっと暗闇の中での戦いにも少しは慣れて来た。
ライト有りと比べるとまだまだだが進歩は感じられる。
ラピアはまだ気配はいまいち読めていないがその内読めるようになるだろう。
気配飛ばしの訓練は続けられていて、それに加えて真っ暗にして布玉投げを同時にしている。
これが結構難しくておもしろい。
特にメリはこういうのは得意だと思っていたのにこの同時進行は苦手らしく手を焼いている。
俺は日頃の鬱憤を晴らすかの如く素早くメリに飛ばしている。
メリからは悔しそうな気配がしているがたまにはいいだろう。
しかし調子にのってラピアに叱れたのでそれからは大人しくした。
たまにはいいじゃん。
そんな俺達の最近の話題は春になるちょっと前くらいにエル村に行こうという物だ。
春になったら農村は忙しくなるのでその前に一回顔を出しておきたい。
その時に何を持っていくかなどの話しをしている。
重くなるがドブヌートが安定だ。
それにお金に余裕があれば塩も少し持っていければいい。
まあ、ドブヌートだけでも十分だと思う。
ラコス達と俺達で合計4体か5体持っていけばみんながそれなりに食べられるだろう。
問題は受付でそれが大丈夫かどうかだ。
駄目だったら割高でも買わなくちゃならない。
ラコス達には報告しておいたのでまた日が近くなったら相談しようと思っている。
収入は安定しているがまた少し食費が増えた。
一食に黒パン一個とおかず的な物だったが、黒パン1個半あっても足りなくなっている。
俺達が勢い良く多くの黒パンやポリジを食べていると周りから驚いた空気を感じる。
一般の冒険者は自分達より食べている俺達に余計嫉妬しているようだが気にしない。
この食費が増えている事については俺はかなり満足しているし、納得している。
町に来てからメリの身長はまた伸びた。
本人は全然わかっていないようだが、観察しているとメリはドンドン成長していて力も順調に増している。
毎日一緒に訓練している俺がそれを一番実感できる。
ラピアは今までの食事で十分のようなので黒パン半分の変わりにスープや野菜、飲み物を食べている。
冒険者学校に行ったらこの食生活ができなくなると思うと憂鬱になるな。
というより子供がこんな食生活していられること自体が珍しい。
俺達は一日に11~12大銅貨を稼ぐが一般の日雇いは7~10大銅貨、職人は14~20大銅貨位なので日雇いには真似できない生活だ。
特に俺達は3人で一部屋なのでそこがでかい。
町での暮らしなら金がない人こそ結婚した方が得という状態になっている。
だが成人2人となると俺達が今泊まっているような部屋ではさすがに許されない。
そうすると今の一日6小銅貨の部屋から8~10小銅貨位の部屋に移動しなければならない。
それでも少し部屋代が浮く。
二人で働けば14~20大銅貨、部屋代8小銅貨、食費2人2食で5大銅貨前後と考えても一日7~13大銅貨残る。
それに色々と物入りになるから実際はもっと減るか。
あれ?
女性は仕事によっては日雇いの報酬が男より1大銅貨少ないんだっけか。
詳しくはわからないが大雑把にそんなところだ。
けどこの計算だと子供は男が定職に就いて収入が上がらないと厳しいかな。
みんなどういう生活してるのだろうか・・・・・・。
考えれば考えるほど怖くなってきた。
俺達は将来どうなるんだろう。
ダンジョン攻略組合に入れれば勝ち組なのだろうが、現状では難しいだろう。
となるとタウロ開拓団が一番安全策のように感じる。
そうなるとタウロ開拓団に入団出来る位の力が必要になる。
あと1年はあるから金を貯めつつがんばるか。
町の空気は元気がないが俺達は関係なくダンジョンへ通った。
そして俺達を取り巻く状況が少しだけ変化し始めている。
セイ達が目立ち始めたのだ。
そのお陰で俺達への嫉妬の矛先が完全にずれた。
お嬢様率いるパーティーはお嬢様、兵士、セイ、奴隷少女だったがいつの間にか兵士が参加しなくなっている。
お陰で頻繁に声を掛けられて面倒だがタガが外れたお陰でお嬢様パーティーはかなり自由になっている。
お嬢様パーティーはセイに光魔法適性があるようでセイ1人でライトを維持している。
お陰で収入も10大銅貨を超え始めたそうだ。
何故俺達が知っているかと言うとお嬢様が自慢していたからだ。
ダンジョン攻略組合の下っ端組は収入を越されて相当頭にきている様子だ。
時々聞こえてくる愚痴もセイの話題が中心になっている。
それにはセイがしっかりとした武器と防具を身に着けていることも一因だ。
剣も見た目からして高そうだし、防具も良さそうな皮鎧を着ている。
俺もほしいな。
奴隷少女は服装からして普通だが短剣を抜いた所をチラッと見たことがあるが短剣も質が良かった。
お嬢様は言わずもがな高そうな装備で全身を覆っている。
セイ達はライトを強く使っている上にどうやらセイは気配が読めるようで的確に敵を見つけられる。
しかし他の冒険者の近くの敵も倒してしまうので他の冒険者から見ると横取りされたように感じるようだ。
いつも通り敵の足跡が聞こえたと思ったら足音が遠ざかっていって消える事が頻発しているようでダンジョンに入っている者みんなから迷惑に思われている。
それはお嬢様のパーティーから兵士が抜けてから頻度が増した。
特にダンジョン攻略組合は情報を共有しているのでセイ達の狩り方は筒抜けになっている。
その上、自分で自慢するものだから更なるお怒りを買っているようだ。
俺達は狩場自体を被らないようにしてまず他人と近づく事が少ない。
だから一部からは弁えていると言われていたのだがセイ達は察知する敵を片っ端から倒しながら移動している。
それでも彼らなら大丈夫だろう。
町長の娘なので不平不満があっても中々言えない。
矛先がこちらに来ると困るが周りの様子を見る限りセイに注目が集まっているようだ。
俺達は今は棍棒を削った木刀と棒になっているがそこらへんも注目を遠ざけるのに一役買っているだろう。
これからまだセイ達の収入は上がるだろう。
そうすれば俺達が多少稼いでも目立たなくなる。
俺はセイを応援しつつ感謝しながら狩りをするのであった。
ラコス達にはセイに近づきすぎるなと言っておいたが、セイがウカリスに馴れ馴れしく声をかけていたようでラコスは思い出して鬼神の如き顔をしていた。
これなら近づきすぎる事はないだろう。
怒りすぎて逆に不安になってウカリスを見たがどうにか宥めているようだ。
エル村にいつ行くか話したがラコスにはいまいち届いていないようだった。
俺達はラコスの様子を見て、話しを諦めて解散した。
俺達への視線が減ったお陰で俺達は気を楽にしてダンジョンで狩りをすることができている。
当分はこの状況が続くといいな。




