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俺達は冒険者学校に着くと受付に向かった。
「冒険者学校について教えてください。」
「入学希望か?」
「はい。私は1歳足りませんが説明を聞きに来ました。」
「わかった。一度しか言わないからしっかり聞けよ。まず、この学校の運営は町長のネポス様からの援助で成り立っている。ネポス様に感謝して訓練に励むように。冒険者学校は春入学で期間は最長1年だ。入って半年後から試験が受けられるようになり、それに合格すれば冒険者認定がもらえる。」
受付は慣れた様子で淡々と話している。
「冒険者認定があると日雇いの仕事の給料が上がるのでそれ目当てに入学する奴も多い。冒険者認定はどこの町でも有効である。しかし犯罪を行った場合等に取り消される場合もある。授業料は一週間、6日で18大銅貨だ。一月で90大銅貨。一年で1080大銅貨、90銀貨だ。授業料の中は宿代、食事代が含まれている。というよりそれがそれが大半だ。指導料は無料と言っても過言じゃない。ネポス様に感謝するように。家から通っても寮に住んでも一週間18大銅貨だ。飯は朝、夜の2食。朝は時間に遅れるとなしだ。夜は日雇い等で働く者もいるので時間に融通は少し効く。」
「授業は1週間の内に3日毎に分けられている。一週間の始めの3日と後の3日は授業内容は一緒だ。これは一文無しの奴でも冒険者になることができるようにという慈悲だ。金のない奴には重労働だが割りの良い日雇いを優先的に割り振られる。だいたい一日8~9大銅貨位の仕事になる。つまり金のない者は3日働いて3日授業に出ることになる。もちろん金がある者は好きな時に授業を受ければいい。」
一見大変そうだが、冬場に仕事を優先的に紹介してもらえるのはかなり美味しい。
「最初に簡単な読み書きを教えるが、そこで覚えられるか覚えられないかはお前達次第だ。この授業には町のルールを教えることも含まれている。田舎から出てきた奴の中には相当ひどい奴がいるのでこれは当然の処置といえる。決められた場所以外で用を足す者には罰金が課されている。」
「話しがそれたな。冒険者学校に入学して半年後からは誰でも卒業試験を受けることが出来る。卒業試験は講師との模擬戦で武術か魔法である程度の力を示せれば合格となる。良い環境で育った奴は学校の必要がない奴もいるが冒険者認定はどの町でも使える資格なので半年は必ずどこかの冒険者学校でも通わなければならない。最速だと45銀貨で日雇いの仕事がこれからずっと有利になると思えば安いものだろ。それに寝る場所も飯も付いて来るなんて恵まれすぎだな。だいたいの生徒は卒業試験に合格しても学校を卒業せずに寮生活を続ける。そして1年の期間が終わる前に装備を整えるか、その資金を貯めるんだ。」
俺達の借りている長屋は一人用の部屋だそうだ。お陰で宿代が節約できている。しかし普通は何人かで割高の部屋を借りなければならない。鍵の複製は認められていないから相当仲が良かったり上手くやっていけないと大変そうだ。
「冬場は特に出稼ぎが増えて仕事が減るが冒険者学校なら冬場でも優先的に仕事が得られる。それが賢い奴の冒険者学校の使い方だ。5日働いて1日訓練を繰り返せば一週間で40大銅貨稼げて、授業料で18大銅貨かかり、22大銅貨も残る。一日3大銅貨で泊まれて飯が出るところなんてここ以外ないぞ。武器は最低でも25銀貨はする。3~4ヶ月も我慢して働けば卒業前に剣が持てる。冒険者になったら剣以外にも色々必要な物があるから卒業までにどれ位装備が整えられるかでそいつの力量が分かる。冒険者学校制度が無い時は多くの者が大金や労力を払って先達に教えを乞ったんだぞ。」
「この町は棍棒や武器が安いので冒険者を始めるなら他の町より恵まれている。だが一年で卒業できない奴は諦めた方がいい。この町では一回学校に通って駄目だった奴はもう冒険者学校には通えない。これはお前達の事を思っての発言だから曲解して捉えないように。説明は以上だ。」
「ここの講師の人で剣がすごく上手いお年寄りの方が居ましたがその人からは教えてもらえるのでしょうか。」
「校長のことか。あの方は若い頃はここら辺一帯に名を轟かせていた人だ。今は講師をすることはないがたまに剣を見せてくださる。大変ありがたいことだ。十派一絡げのお前達に教えてくれるようなことはない。」
「はい。ありがとうございました。」
『ありがとうございました。』
俺達は冒険者学校を後にした。
結構厳しい話しだったな。
冒険者の装備が貧弱な理由が分かった。
しかし校長とやらは剣を教えてくれないのか。
冒険者学校に通いたかったが今の話しを聞いたら一気に熱が冷めたな。
これはお金が貯まっても棍棒より強い武器は持てないな。
せめて木製ならいいだろうが剣でも買った日には嫉妬がすごいだろう。
ただでさえメリは剣を持っているのでこれ以上はなしだ。
一目のある所ではメリの剣は使ったことがない。
周りからは剣が鈍らすぎて使えないと思われているといいな。
最近ではメリも棍棒なので大丈夫だが武器強化は一旦脇に置いておこう。
自分で言うのもあれだが俺達って結構稼いでるな。
そのうち訓練日を増やすか、休みを増やすかしてもいいかもしれない。
いや、休みは半日もあれば十分だな。
だが3日働いて3日訓練って言うのは中々いいかもしれない。
どうしても生活を考えると金稼ぎが中心になって訓練が疎かになる。
訓練をしなければ。
せめて次にセイと戦うことがあったとしてもう少しましな戦いが出来るようになりたい。
今のままでは小技を駆使しても勝てない位の力量差がある。
「あの爺さんが教えてくれるならメリとラピアだけ先に冒険者学校に行くってのも魅力的だったがいつ教えてくれるかわからないんじゃ俺と一緒でいいな。」
「そうだねー。あのお爺さんが剣を振った時だってほとんどの人が価値が分かってないみたいだったからね。」
「私は治療師の人に教えてもらえる環境があるから恵まれてるね。」
「ただ働きだけど、しょうがないか。」
「うん、治療院だと怪我人がよく来るしお勉強になるよ。上手い人のやり方を見られるし、ヒールをたくさん使えるからね。」
「それで提案なんだけど、仕事2日、訓練1日、仕事2日、訓練1日って日程に変えない?」
「私はそれでいいよー。」
「うん、私もそれでいいよ。治療院でのお仕事を増やしてもいいし、普通にみんなと訓練でもいいよ。」
「村の大人は子供の内に訓練した方が強くなるって言ってたからもっと訓練を増やそう。その日程で訓練が足りなかったら仕事3日、訓練3日でもいいかもね。」
「よし!がんばろう。おー!」
「おー。」
メリは嬉しそうだ。
とりあえず体を動かせれば嬉しいのか?
俺達は冒険者学校の隣の運動場に来て訓練を始めた。
もちろん校長と呼ばれる爺さんが出てこないか監視は忘れない。
遠目でも目を強化すれば講師が手本をしているのが見えるのも中々良い点だ。
教えてくれる人というか技を見せてくれて指導してくれる人が居ないのは少し不安だがメリは着実に力を付けているので効率的ではないがなんとかなっていると思う。
努力は正しい努力をしなければ目標に到達できない。
間違った努力にならないように気をつけなければならない。
いくら努力しても中身が空だと貴重な時間を無駄にするだけだ。
そんなことならダンジョン内で走り回っていた方がまだいい。
それから俺達は2日ダンジョン、1日訓練の日程にした。
後でルネルに聞いた話しではそれ位が普通らしい。
ダンジョン運営会では俺達がほぼ毎日ダンジョンに行ってたので驚いていたそうだ。
やっと休みを取るようになったんだと言われたのでその日は訓練日にしますと言ったらルネルの顔が微妙な物になった。
また一本取ってしまった。