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「無事だったようだね。」

「はい。来る途中にラコス達にも今回の件について説明は終わらせました。これから俺達を追跡してきたであろう奴を特定したいので手を貸してください。」


「私ができることはほとんどないわよ?」


「はい、もちろんできる範囲内で、です。居ないとは思いますが普段より稼ぎが少ないダンジョン攻略組合の組が居たら合図をしてください。それで十分です。普通なら今日の分を稼いでから追いかけっこをすると思うので見つからないとは思います。あとはダンジョンから出てくる人に見えない位置で観察するのを許可してください。」


「それくらいならいいわよ。」

「よろしくお願いします。」


俺はルネルに6大銅貨を握らせた。


「私は別にお金はいらないわよ。」

「また頼むかもしれないので貰ってください。まもとな大人のほうが回りに少ないのでルネルさんがいるだけで十分助かっています。」


「はぁー。開拓村ではこういうことも教えてるの? すごいところね。」

「そんなわけないじゃないですか。」


俺達は笑いあう。

ルネルは清算の受付に移動して俺達は隠れてそれを観察した。


「これから俺達を追跡したかと思われる人が出てくるだろうから観察する。みんな気配を消して落ち着いて見ててね。」


それから俺達はダンジョンから出てくる人々を観察した。

結構な時間が経ったがやはりルネルからの合図はなく、誰が俺達を追ったのか特定できなかった。


昼の鐘が鳴って出てくる人が増えても反応は芳しくなかった。

出てくる人が減り始め俺はそろそろ諦めて、とりあえず今日浅瀬にいたダンジョン攻略組合の人の顔をできるだけ思い出していた。


その時一組の冒険者達がダンジョンから出てきた。

清算をしているとルネルが合図をした。


俺はその合図を見て安心した。

よく俺達について文句を言っているわかりやすいやつだ。


いつも嫉妬の目で俺を見てくるので特に気をつけていたが、ここまで短絡的だったとは。

強さ的には普通の冒険者より上だがダンジョン攻略組合の中では最底辺の奴らだ。


と俺が安心しているとメリから怒気が立っているのをみて軽く肩を叩いた。

メリは俺を見たが俺が余裕そうな顔をしていると怒気を沈めてまた視線を戻した。


その後は出てくる冒険者も減ってきたのでルネルが合流してきた。


「まさかとは思いましたけどこんなにわかりやすいなんて驚きです。」


俺は呆れながら言った。


「そうね。彼らはよく愚痴を溢してたしほぼ確定と言ったところかしら。」

「ありがとうございました。とりあえずはもう大丈夫です。」


「いえいえ。私もそれとなく情報を流しておくわ。貰う物は貰ったしね。」

「軽くでいいのでお願いします。」


ルネルに一同で礼をすると俺達は建物から出た。


「とりあえずどっかで一緒に飯を食おうぜ。話しの続きはそこで。」

『うん。』


俺達はトイレを済ませた後、この前の黒パンとスープが安い店へ向かった。

途中でウカリスがルネルに払ったお金の半分を自分達も払うと言って来たが今回は俺達だけを狙っていたようなので遠慮しておいた。


ラコス達の方に行かずに俺たちの方に来てくれて助かった。

その後、店で今後の事や注意点を話し合った。


結果、俺達は明日も潜って様子を見る。

ラコス達は明日は休む。


追跡が続くようならばまた話し合うという結論に達した。

その日はもうダンジョンに潜らないで解散となった。


俺達は明日の準備に黒パンを夜、朝、昼の分の9個買い込んだ。

背負い袋をパンパンにさせて部屋に戻った。


基本的に戦いたくないしできれば逃げる派の俺と、戦うことになっても危険を排除する派のメリで軽く喧嘩になったが結局結論は出なかった。

ラピアは戦いたくない派のウカリス達は守りたい会に所属した。


俺は強くなったらラピア派に鞍替えするだろうが、まだその時ではない。

自分達の命が一番なのだ。


今回追ってきた奴らなら実力的にはどうにかなるだろうが相手は組織だ。

話し合いは続いたが明日もあるので早めに寝る事になった。


俺はライトを消してマントに包まって今日の出来事を思い出した。

思い返して見れると、途中からあんなに強気だったのは直前に気配を少し読めるようになったのが理由だ。


自分が現金すぎて恥ずかしくなる。

反省。



次の日は万全の準備をしてダンジョンに挑んだが特に変わったことは無かった。

ラコス達にそれを報告してしばらくは人が多い所で狩るように注意した。


俺もメリに続き気配が少し読めるようになったので奥へ向かう道には極力近づかず、人が近づいてきたのがわかったらライトを消して距離を取るようにした。


俺達の移動速度の早さと気配の察知のお陰で追跡されることは無かった。

今考えてみれば追跡してきた奴らは俺達の稼ぎが目当てだったのかもしれない。


ただ、この出来事はダンジョンに慣れていた俺達にピリリと現実の苦さを味あわせる事件となったのだ。

終わって見ればだが、今回の件は俺に取って成長と警戒を促せたので美味しい出来事だった。


やはり力は何をしてもどこに居ても必要だ。

特にダンジョンに潜るならなおさらだ。


俺は気合が入るのを感じて訓練に精を出した。

気配を読めるようになって感じたことだが戦い方にも性格がもろに出るということだ。


攻撃の気配を読めるようになってメリに少しは対抗できるかと思ったら攻撃の気配が途中から変わったり消えたりと全然掴み処がない。

既にメリは次の段階に進んでいるようだ。


メリに戦っている時は何を考えているか聞いたが、何も考えてないと言われて俺の目の前は真っ暗になった。

俺は気配を読めるようになっても結局メリの攻撃はたまにしか予測できなかった。


しかし攻撃の気配を読ませてメリを惑わせる戦い方のほうは有効で毎回通じるわけではないが直感型に効くような手を何手か思いついた。

気配を読めてもあんまり意味は無かったが別の方法で挽回できることがわかっただけも前進したというわけだ。



俺達が運動場でいつも通り訓練をしている時だった。


「シュッ。」


小さいが澄んだ風切り音がした。

俺とメリは急いで音の方を向いた。


その方向には冒険者学校があった。

冒険者学校の講師の1人が生徒に剣を教えて居る所だ。

俺達は手を止めて、その年老いた講師を凝視した。


「シュッ。」


再び剣が振り下ろされた。

俺達はその剣の冴えに食入る様にその姿を眺めた。


しかしその老人は素振りを止めて酒に酔ったように揺ら揺らしながら別の場所に移動してしまった。

残った若い講師が生徒達に教え始めた。


「あの爺さん、村長より剣が上手いね。」


メリが関心して言った。

俺も同感だ。


「あの人が見せてくれるなら冒険者学校に行ったほうがいいな。来年から俺も入れないかな。」

「揺ら揺ら動いてたけど、あれはわざとそうしてるね。普通に歩いたら力量がばれる位の強さかも。」

「世の中は広いな。」


俺達は思わぬ収穫に喜びながらあの老人の剣を思い浮かべながら剣を振った。


「今度から冒険者学校の方を向いて訓練しようか。あの爺さんを探そうぜ。」


まともに見れたのは一太刀だけだったが、それでも達人級の技を見られたのは伸び悩む俺には大きかった。

道場も何件か見たが比べ物にならない位に上手い。


この町の強さ順位は俺が見た範囲では老人、ミデン、セイだろう。

戦ったら老人が一番強そうだ。


セイがもっとまともになればミデンはすぐ抜けそうだが今の時点では厚みが足りないな。

というかセイはあの剣の冴えでなんであんな薄っぺらい感じがするのだろうか。


勿体無い奴だな。

俺達にそう思わせるように振舞っていたなら大したものだが性格的にそれはないと思う。


ミュッケ村の大人達は技は見て盗めと言っていた。

教えられた技は軽い、自分で理解した技は重い。


噛み砕くときっとこういうことだろう。

教えられた技は完成品のみを得る。


見て盗んだ技は完成品を見て、自分で作る過程を試行錯誤するから経験が貯まる。

教えられた者は教えられた物しか覚えられないが見て盗む事ができると見ただけで他人の技を盗む事ができるようになる。


きっとセイは優れた師から優しく丁寧に技を仕込まれたんだろう。

1つ1つの剣は冴えるが連続性がぎこちないと言うか、勿体無い感じなのだ。


言うなればゴブリンに良剣か。

だがセイの師がこれをわざとやっているなら恐ろしいな。


後は自分で技を自分に合うように磨けってことになるのかな。

優しいのか厳しいのか判断に迷う。


俺達はあの老人の事が気になったので次の休みに冒険者学校を見に行くことにした。

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