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デロス町に来て1ヶ月が経とうとしている。

俺達は1週間に5日ダンジョンに行って、1日訓練日を取る事にしている。


ここ最近は強化をしながらダンジョンを走り回っているので収入は上がったが訓練の進行度はまだまだといったところだ。


メリだけは気配飛ばしも気配察知も俺達に比べると明らかに鋭くなってきた。

俺が慣れたのは目を強化して魔力視の視野を広げるくらいだ。


それもやり方を説明したらあっという間にメリに並ばれた。

俺達は体力が段々付いてきている実感があるのでそれだけでも十分な成果だと思う。


そしてその日も俺達はダンジョン内を走っていた。

俺達が走っていると視界の端に別のライトの明かりが洩れた。


俺達は走るのを止めて歩き出した。

地理は覚えているのでライトが来た方向から離れるように移動した。


奥へ向かう道に近づいているとよくある事だ。

俺達は徒歩でゆっくりと脇道へそれて行った。


いつもなら脇に行くとライトの光漏れは離れていく。

しかし俺達が脇道にそれようとも少し経つと光洩れがまた見え始めた。


俺は警戒を最大にして二人に言った。


「つけられている可能性が高い。メリ、魔物が出たら二人ですぐ倒すぞ。歩く速度はまだ歩きで近づいてきたら走る。いざとなったらライトを消すぞ。」

「わかった。」

「う、うん。」


メリは目が覚めたかのように目に火が付いた。

ラピアは怖がっているようだ。

俺も怖いが今は動かなければならない。


「出来るだけ分岐できる道へ行くか一直線に逃げるか。分岐が多い道ならライトを消せばとりあえずは大丈夫だと思う。一直線に逃げた場合、どうしても通らないといけない場所は入り口付近だけだけど2,3通りになっちゃう場所がある。待ち伏せされているとやばい。さすがに入り口付近では待ち伏せはしていないと思う。水の残り量は半分位。」


「水は半分より少ない。光を消して待ち伏せは?」

「私は半分以上ある。できるだけ戦いたくない。」


メリは好戦的だがラピアは戦いたくないようだ。

俺だってわざわざ戦いたくない。


「単独だった場合、待ち伏せは有効だけど俺も戦いたくはないな。奥に行っている連中だったら負ける。魔力に余裕があるからライトを囮にして俺達はライトを消して離脱するのが一番だと思う。ただどっちにしろ待ち伏せには気をつけないとならない。」


歩く早さも少しずつ早くなってきている。

駆け足で移動しながらも光の見え具合から相手の速度を計る。

追いかけられると思うだけで普段より体力が奪われていく。


「囮案で行こう。」


メリが妥協してくれて俺はほっとした。

俺達は頷きあう。


「後少し進んだ所に分岐点がある。そこまで行ったら俺は先行して走って囮用のライトを置いてくる。2人は囮を置く場所とは別の道を進む。俺は囮を置いたら遠回りをしてメリ達に合流する。囮がばれにくいように短時間で消えるようにしておく。囮って言うのは最終的にばれると思うが今すぐ気が付く可能性はできるだけ低くしたい。もし俺の合流が遅れたら先に進んで。」


「やだよ!」


ラピアが泣きそうな声で言った。


「ラピアじゃ単独行動はまかせられない。俺ならライトを使わずに囮を置く場所まで静かに移動して帰ってくることができる。」

「わかったよ。」


メリは賛同してくれた。


「メリ、ラピアをまかせたぞ。俺達は絶対にこんな所じゃ死なない。万全ではないが準備が役に立ちそうだ。」


少し走ると光は見えなくなるがまた少し移動すると光がまた見える。

完全に俺達を追っているようだ。


「そろそろ分岐点だ。俺は先に行くが二人はそのまま進んでくれ、待ち伏せの可能性もあるから足音を極力消せる徒歩程度でいい。相手が本気で走ってきたらこっちも本気で走らないとまずいけどね。それじゃ行ってくる。」


俺は目を強化して走り出した。

囮のライトを設置する場所まで強化を使い走っていく。


歯が鳴りそうになるほど今俺は怖がっている。

足がもつれそうだ。


こんな姿、誰にも見せられない。

俺達はこんな所では死なないと強く念じる。


暗闇の中がこんなに怖いと思ったのは小さい時以来だ。

目的の場所までは運良く敵が現れることは無かった。


角を曲がったら目の前に敵が居たなんて可能性もあった。

俺はライトを素早く設置すると、メリ達と合流すべく走り出した。


ここらへんはまだ分岐点が多い道なので待ち伏せの可能性が少ないのが救いだ。

俺はできるだけ丁寧に足音を消しながら走った。


早く二人に会いたい。

メリとラピアに会えさえすればこの体の震えもすぐ止まるだろう。


そして敵が来るというなら二人となら戦える。

しかし今の俺ははただただ恐怖に駆られて逃げ惑う子供そのものだ。


自分の弱さに呆れかえる。

二人に会いたい。


俺は二人が進んでいるであろう道への曲がり角まで近づくと走るのを止めて足音を消すことを重視してゆっくりと動いた。

唾を飲むのを我慢して二人が見えることを祈りながら道を覗き込む。


しかし二人の姿は見えなかった。

俺は膝の力が抜ける気がして道を覗き込んだまま動けなくなった。


落ち着くんだ、二人が居ないってことは考えられるのは3つ。


1つ、俺の囮が失敗してメリの方が追われてもう通り過ぎている。

2つ、何かがあって通る道を変えた。

3つ、俺が早く付きすぎた。


俺は今更になって合流地点を決めてなかったことを心底後悔した。

いや、敵が居るかわからないのに一箇所に留まるなんてできない。


もしこのまま合流できないなら俺は1人で出口を目指さなければならない。

道は覚えているので迷う事は無いが待ち伏せがあった場合は人数が多い方が良い。


囮のライトを設置する案はただの自滅になってしまう可能性もある。

既に二人が敵に襲われていたら俺は何もできない。


俺は震える手で水筒を掴んで水を口に入れた。

歯が鳴りそうになるのを必死に抑えて水を飲み込む。


よし。少し待って二人が来なかったら俺は1人で出口に向かうか、二人が通る予定だった道を逆に追うかどちらかにしよう。

今は二人を待つ。


俺は歯が鳴るのを必死に抑えて二人が来るであろう道を必死に見た。

周りの闇が俺の体温と魔力をジワジワと奪っていくように感じる。


その時だった。

俺はメリと目が合った。


いや、目は二人とも別な方向を見ているが俺達の間にお互いを感じる何かを感じた。

メリとラピアが来る。


俺は確信すると歯の震えも寒さも一瞬で消えうせた。

俺はいつもの小賢しい俺に戻った。


俺は角から出て道の真ん中に立って二人の到着を待った。


そうするとついにメリとラピアが来た!

ラピアは俺を見ると駆け出した。


俺は走ってきたラピアを抱きしめた。

ラピアを抱いたまま俺はゆっくりと歩き出した。

メリも小走りについてくる。


「メリが来るって分かった。」

「ロッシュが居るってわかったよ。」


「もう今日はライトが無くてもいける気がする。」

「今日はロッシュに道案内をまかせるよ。」


俺達はそのままライトを使わずにゆっくり出口へ向かった。

俺は敵が居そうな気がした場所を避けて歩いた。


できるだけ人気がない道を選んだのでライトの光も見えない。

俺は外に出る為には通らなければならない3つの道の付近まで来た。


だが今の俺はどの道を選んでも待ち伏せを察しられる気がした。

遠回りな道と普通の道とすごく近い道があったが俺は迷わず近い道をズンズン進んでいった。


待ち伏せをするならここという場所の手前まで来た。


気配を探ってみたが待ち伏せは感じられない。

俺はメリを見る。

メリも頷いた。


結局、その先には待ち伏せはなかった。

俺達はそのまま敵にも人にも会うことなく入り口付近まで来た。


俺はライトを使うと硬く手を握り締めた。

今までは察せられなかった気配が今は仄かに感じる。

よし、面倒事は終わっていないが一つ階段を登ったぞ。


今日の追跡者は俺の成長の為の存在だったのだ。

全てが上手く行ったら後でそう思う事にしよう。


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