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5話

食堂に着いて年少組を座らせると自分の席に向かった。


「お、今日は在庫処分の黒パンが余り気味かな。」


グロウは舌なめずりを我慢できずに言った。


配膳された物は黒パン半分と野菜のスープだ。

それとは別に黒パンが小さく切り分けられて別の大皿に盛られている。


「まったく。グロウは下品ね。もうちょっと隠す努力をして品良くしなさい。」


丁度席に着いたセリナが言った。


セリナは風魔法が得意な11歳。

目下ラピアの最大のライバルである。

ラピアもセリナと共に席に着いたが一瞬俺のほうをチラッと見た。


俺はさっきの話しもあってなんか恥ずかしい気分になったが既にラピアは他の女の子と話していた。


席が埋まっていき、みんなが揃い始めてきた。


「黒パンは食べたい奴が小さい子から順番に一個ずつ取っていけよ。みんなに平等に行き渡るようにな。ではいただきます。」


村長の合図が終わると早くもグロウは年少組にパンを取るように急かした。


「ほらほら。食いたい奴はパンを取った取った。」


年少組は半分が黒パンを取った。

続いて年中組は女子を除いて男子はみんな取った。


その状況にグロウは目を光らせつつ自分が何個食べられるだろうかの計算をしている模様だ。

年中組が終わったので年長組へと順番が回ってきた。


俺はもちろんパンを取った。

グロウはどれが大きいか真剣に悩んだ後に取り、男子はみんな取った。


そして女子はメリだけが堂々と取り、年少組に皿を移動させた。


結局黒パンの約8分の1の欠片を2個取ったあたりで黒パンは無くなった。

グロウは黒パンを大事そうにスープにつけて食べているがこっそり1欠片分を懐にしまいこんでいた。


今日のスープは人参、たまねぎ、かぼちゃが入った薄い塩スープだ。

それでも暖かいスープは訓練後の体には染み入る。


ただ毎回かぼちゃが出てくるのは頂けないな。

かぼちゃは数も取れるし保存も聞くから春まではずっとかぼちゃ。

かぼちゃだらけだ。


でもポリジよりはまし。

許した。


このようにミュッケ開拓村では食事は1日3食だ。

しかし開拓村以外では朝か昼、夕の2食だそうだ。

3食でも食べたりないのに2食だったら一日中腹を空かせているんじゃないかと思うとかぼちゃがかぼちゃさんに見えてくる。

食べられるだけでありがたいってことだ。


開拓村で運動量が多いってのもあるがこれが食堂でみんなでまとめてって形じゃなければ孤児の俺達はちゃんと飯を食えただろうかと思うと寒々しい感覚に囚われる。

悪いことは深く考えずにさっさと次にいこう。


飯を食べ終わると食器を片付けて年少組が食べ終わるのを待つ。年少組が食器を片付けたあとはみんなで集まる。


エスタが解散の挨拶をする。


「今日も一日お疲れさま。おやすみ。」

『おやすみなさい。』


俺達は年小組を連れて孤児院へ、両親がいる子は自分の家へ帰っていく。


『ただいま。』

「おかえりなさい」


俺達が帰ると院長が笑顔で俺達を迎え入れた。


「ロッシュとラピアは明かりお願いね。」

「はい。」


俺は今日は寝室の明かり担当でラピアは広間の明かり担当だ。


ライトは近くにあれば小さい魔力で維持できるが離れたところに置きっぱなしになると数倍以上の魔力が必要になる。


俺は魔力にまだ余裕があるので小さくて弱い光球にかなり多めの魔力を注ぎ込んだ。

これで数時間は持つだろうが俺の今日の魔法はこれで打ち止めだ。


年少組の中ではもう寝る子がいるので院長が寝かしつけている。


俺はライトを配置したので広間のほうに移動をした。

広間にはまだ寝ていない子が各々好きなことをして遊びまわっている。


俺はテーブルの端のほうに行き、座学の本を開いた。


本があって読めるってのも恵まれている部類らしい。

魔力に余裕がある時は外に出てメリと素振りや模擬戦ができるが今日は打ち止めだし、祭りの為に勉強しないとな。


メリは俺が本を持っているのを見るとすっと己の気配を消した。

いつもは話しかけてきたり訓練の誘いに着たりするが本を持った俺には近づこうとしない。


一緒に勉強したほうがいいのだがわざわざ気配を消しているので引っ張り出すのも可愛そうだ。


俺が本を読んでいるとラピアが話しかけてきた。


「わからないところがあったら教えるよ。」

「ありがとう。助かるよ。」


ラピアは座学が得意なので来年の為にもしっかり聞いておくべきだ。

そしてラピアに勉強を教わるのも今年が最後になる。


メリもラピアも来年の春には成人して結婚して新しい家に住むことになる。それを考えると俺は寂しい気持ちでいっぱいになるがそれを表に出したりはしない。

出ていないと思う。


そう考えると俺は今動くべきなんだろうか。

受身でいては流されているだけで何も自分で選ぶことができないのではないか。


だからというわけでもないが夕食の時にチラッと見られた時の事を思い出し一応言っておく事にした。


「魔法訓練の時にメリに婚約の予定があるかって聞かれたけどラピアかメリだったらもちろんいいっていう話しをした。」

「あっ。うん。メリに聞いた。」


「一応メリにも言ったから一応なっ。」


俺は早くも自分が言ったことに後悔し始めた。


特にラピアは魔力も学力も高く大人達に人気があるのでもう相手が決まっているかもしれない。

メリとは違うのだメリとは。


メリは同年代の男子と比べても背が高く、剣も上手かったので子供達にでか女でか女と呼ばれていた時期があった。

今はそんなことはないが子供達の中で目立つ存在であることは変わりない。


「そんなことより今回は1位を目指すって話しみたいだけどセリナには勝てそう?」

「わからない。でも私、今回はがんばるって決めたんだ。」


「そうか。一生のことだしがんばれよ。何も出来ないけど応援してる。」

「うん。」


「という事でここを教えて。」


俺は気恥ずかしさを誤魔化しつつ、本の内容が全く頭に入らないが必死に勉強を続行した。


みんなが一緒にいれる日々ももう少しで終わる。

俺はもっと積極的にいかなければならないのかもしれない。


一度失った物は2度と手に入らないのだから・・・。


そんなことを考えているうちにみんなが寝室に移動し始めた。


「そろそろ終わろうか。ラピアありがとう。」

「ううん。わからないのがあったら聞いてね。」


そういって本を片付けて俺達も寝室に移動する。

院長におやすみを言って布に包まる。


こうして俺の一日が終わった。


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