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俺達は以前行ったことのある黒パンとスープが安い店に行った。
椅子に座ってゆっくりと食べたかったからだ。
気分が良いのでついでにピケットも追加していつもの昼飯より優雅な時間をすごした。
そして昼の部からは走る時に強化を使うことを提案した。
走り慣れてきた事で足音が小さくなってきたからだ。
まだ俺達は魔力はライトにしか使っていない。
一体の敵にそれほど時間がかかるわけではないので強化したところで時間が短縮される量は少ない。
しかし敵に会うまので時間を減らせるならそっちのほうが効果が大きそうだ。
現に走るようになって敵の遭遇数も増えて収入も増えている。
俺の提案は採用されて昼の部はより早くダンジョン内を走り回った。
いつもより汗を掻いた俺達はトイレに行ったあと運動場の片隅でウォータを使って服を着たまま体を洗った。
ウォータを止めて少し経つと水は消えてすっきりした俺達がいた。
だが問題がある。
今はもう冬、すごく寒いのである。
気持ちは良いのだが寒くて風邪引きそうで怖い。
何か妙案はないかと思いつつ水を浴びるのだった。
強化を使って走り回ることもまた有効だった。
俺達の収入は9~11大銅貨位になってきた。
嬉しいが逆に不安になってきた。
金は稼ぎたいがどれくらい稼いでいいのかいまいちわからない。
最初はアイテムを落す確率が低くて収入は不安定でそこまで気にしなくて良いと思ったが最近は倒す数が増えたせいで収入がより安定してきてしまった。
嬉しい事だがそろそろ周りの目をもっと気にしたい。
嫉妬から襲われたら今の俺達じゃまだ危険だ。
そのことを二人と相談した結果、最初に説明をしてくれたルネルさんに話しを聞こうって事になった。
ダンジョンの建物で話せるなら2~3大銅貨位渡す。
外で話すなら食事を奢るという事になった。
そしてダンジョンの受付でルネルが居るか聞いてみた。
丁度ルネルは居て、話しをしてもいいそうだ。
俺達は受付の人にお礼を行ってルネルに導かれて会議室に向かった。
会議室に着くとルネルは俺達に待つように行って一旦自分は部屋を出た。
その後、ルネルはピケットを人数分と皿に干し葡萄を持って戻ってきた。
俺は待遇が良くて驚いたがとりあえずすぐ3大銅貨をルネルに渡した。
俺が渡している時にラピアはピケットを軽く舐めて味を見ている。
ルネルは最初はいいよと言ったが次に相談しにくくなるのでと言ったら受け取った。
ラピアは俺に向かって頷いたのでラピアがわかる範囲では毒は入ってなさそうだ。
俺も、メリもそこらへんは詳しくない。
ラピアだけが薬師ほぼ決定だったのでそういう知識を少し教えてもらっていた。
もちろんミュッケ村にある本でもラピアは学習している。
俺も祭りが終わったら軽く目を通しておくつもりだったのに惜しいことをした。
今はその知識が値千金だと思うが手遅れである。
メリは出された干し葡萄を美味しそうに食べている。
「お金は別に良かったんだけどね。けどまあ、さすがではあるよね。最近は採取も上手く行ってるみたいじゃん。」
「はい。俺達の話しを聞いてくれてありがとうござます。最近色々聞きたいことが出てきました。」
「いいよー。ドンドン聞きなさい。」
「まず俺達は浅い所ですが人があんまり居ない奥の方まで入ってますがそれは大丈夫でしょうか。」
「私達ダンジョン運営会的には大丈夫よ。ダンジョン攻略組合の人もあなた達がちょっと奥に行ってるのは知ってるけど狩場がかち合わないならそこまで気にしてないみたい。一部は空気が読める子供だと思われてるみたい。でも楽観視はできないから気をつけてね。なんせ3人とも棍棒だからね。今は2人か。そういう意味では上手くやってるよ君達、うん。」
「それを聞いて一安心しました。あと他の人達ってどれくらい稼いでいるんですか。あ、言えないなら勿論諦めます。」
そう言うとルネルは嬉しそうに笑っているが口元がすごく歪んでて怖い。
「そうだよね。気になるよね。なんせ君達じゃ回りに聞けないからね。ダンジョン組合は浅瀬で3人組だと1人あたりは8~9大銅貨って所だね。奥に行く人は4人組くらいで2泊3日でひたすら狩って1人あたり14大銅貨位。」
ルネルはニコニコしながら俺達の反応を見ている。
メリは気にせず干し葡萄を食べている。
ラピアは不安そうな顔をしている。
俺は普通だ。
だって予想通りだから。
「やっぱりなって感じだね。そうだよ。君達はダンジョン攻略組合の収入を上回っちゃってき始めてるんだよね。まあ君達が光魔法適性があるからって言うのが一番の理由だろうけどね。職員やってるとわかっちゃうんだよね。奥に行く人達でも2泊3日のあとは最低1日は休むね。ダンジョン攻略組合はどうしても魔力の問題もあって休みが必要になるけど君達は毎日潜ってケロっとしてるもんね。もう片方の夫婦は光魔法適性はないようけどそれが普通なんだよね。それでも彼らも上手いことやってる。すごいよ、君達の村の子供達。」
彼女は俺達を観察するのがとてもおもしろそうだ。
背中がヒヤッとするな。
彼女は俺達の反応も見て楽しんでいるようだ。
性格悪いなあ。
「私は興味でやってるからいいんだけども、中にはお金をもらって色々情報を漏らしている人もダンジョン運営会ではいるんだよね。だから君達の収入はその内バレちゃうね。その分だとまだ収入が増やせそうなんでしょ?だから私に様子を聞きにきたと。」
「そこまではわかりませんが、状況は把握しておきたいです。」
「んー。たぶんだけどもう少し位なら増えても大丈夫なんじゃないかな。ダンジョン攻略組合でも光魔法適性がある人はさっきの平均より稼いでるし・・・・・・。奥の組に並ばれるのはさすがに危険だね。だからそれくらいの範囲でやれば大丈夫だと思うよ。」
「わかりました。ありがとうございます。俺達の稼ぎが上がっているのは実はライトをかなり強めに使うようにしたんですよ。」
「ネタをばらしちゃうんだー。けど光魔法適性がないと出来ない力技だね。人が居ない所に行ったのも納得がいくよ。けど私は君達はもっと色々隠し持っていると思うんだけどなあ。」
流し目でこちらをチラチラ見ている。
走っていると言っちゃうと他の奴らも行動範囲が広がって面倒じゃん?
走るのは余裕ある人にはすぐ真似される。
力技で解決しているのは真似されにくい。
だからそういう事にしておくのが一番だ。
「まあ、私としても君達と色々話せておもしろいからいいけどね。君達は特に他の冒険者とか出稼ぎとかと毛色が違うから見てて飽きないよ。それにさ、わざわざ稼ぎすぎない様に話しを聞きに来るなんて君達くらいだよ。ブフフ、みんながみんな収入を上げようと必死なのにさ。笑わしてもらえていよ。」
俺はとりあえず聞きたい事は聞けたので後は女性陣にまかせた。
俺はピケットをチビチビ飲みつつ女性同士の会話を見ていた。
「私から見るとメリちゃんもラピアちゃんも二人とも中々の能力を持っているみたいだけどどうしてロッシュ君と結婚したの?二人なら望む相手と結婚できたんじゃないの?」
俺は盛大に咽た。
そんな俺の反応を見てルネルは初めて、してやったりという顔をした。
完全に遊んでやがる。
ラピアは恥ずかしそうに急にモゴモゴし始めた。
「3人とも同じ孤児院だったからね!」
メリが言った。
俺はもう踏ん反り返って慣れた振りを必死にする。
これ以上この女に餌を与えてなるものか。
「ミュッケ村は実力主義だからね。強い人とか賢い人が結婚を優先的に申し込めるの。私とラピアは二人で同時にロッシュに結婚を申し込んだのよ!」
メリは堂々として自慢気に言った。
さすがメリ、恐ろしい精神力だ。
「そうしたらロッシュがみんなの前で二人とも好きで結婚したいって叫んだからこうなったのよ。すごいでしょ。」
ルネルは終始ニタニタしながら頷いている。
俺はもう平静を取り戻したがラピアは耳まで赤くなっている。
「はー。さすができる男は違うねえ、ロッシュ君。」
女同士の話しは突然こういう方向に飛び火するから油断ならない。
面倒なこと、この上なし。
ミュッケ村の話しをしたがルネルは結構興味深そうに聞き入っていた。
そして話しもそろそろお開きかなという雰囲気になり始めたときにルネルが言った。
「あとあれだね。君達は大丈夫だけど開拓村のもう一組の夫婦のほうは女の子が可愛すぎて今すぐってわけじゃないけど気をつけないとまずそうだね。もちろんメリちゃんもラピアちゃんも可愛いよ。けど二人は自衛力がある感じだよね。それにあの子達は君達ほど要領は良くなさそうだからね。いうなれば夫の差かな?」
所々に俺をからかう一文を入れてくる。
「そうですね。彼らには伝えておきます。忠告ありがとうございます。」
俺は無難に受け流した。
そして俺達はルネルに再びお礼を言って会議室から出た。
本当かどうかわからないが思ったよりルネルは乗り気で楽しんでいたようだ。
まあ、俺達が楽しめるようにしたっと言っても過言ではないがまた話しを聞いてもらえそうな雰囲気だな。
メリだけは素だったが。
最大の懸念が一応解消されたので俺達の足取りは軽くなった。
だがその前に・・・・・・。
「メリ! お前だけ干し葡萄食いすぎだろ!」
「だってぇー。」
夕飯は黒パンとポリジになった。