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俺達がダンジョンに潜るように2週間、つまり12日の時間が経った。
背負子は少しずつ作ってやっと完成した。
部屋代は貯まったので、あと3週間、18日以内に払わなければならない。
手元のお金が無くなるといざとなった時に困るので部屋代はあと1,2週間経ってからだ。
俺達の収入は一日当たり6~8大銅貨の辺りを行ったりきたりしている。
ダンジョンの狩りにも完全に慣れて来た。
問題はこれから先どうするかだ。
ラコス達はライトの時間制限があるが俺達よりも一人当たりの収入は1大銅貨ほど多いそうだ。
こっちは3人だからなあ。
だが俺達の方はまだ色々と余裕を残している。
今後どうするか迷う所だ。
このままこの調子で居ても俺は悪くは無いと思う。
迷った時は相談だ。
俺達は夜ダンジョンから帰ってきて黒パンを食べながら相談を始めた。
「ダンジョンに慣れてきて収入もだいたい安定してきた。この後はどうする?現状維持?もっと進む?」
「もっと奥に行ってもっと戦いたい。」
メリが言った。
俺も戦い足りないとは思う。
「私は慣れて来たからどっちでもいいよ。お金が稼げるようになればご飯も心配しなくていいね。」
現状は収入の大半が食費に消えてお金が中々貯まらない。
「奥に行くのは却下。と言いたい所だが最終的には賛成。」
「え、珍しい!」
メリは驚いている。俺だって奥に行ってバリバリ戦いたいけど色々あるのよ色々。
「でもさ、奥に行ったところであんまり変わらないと思うよ。1大銅貨位は増えるかもしれない。」
「お金をいっぱい稼ぐには奥に行くしかないんじゃないの?」
「今、俺達は既に人の少ないところで狩ってるからね。奥に行くより敵と多く戦える方法があるじゃん。」
「あ、わかった。」
ラピアはわかったようだ。
俺はそのまま続ける。
「だからと言って今のままその方法をするのはちょっと難しいね。というかやりたくない。」
「たくさんの時間潜る!」
「残念。俺達は常に余裕を持ってやってる。というか慣れてきて余裕すぎてるよね。時間はこれ以上は延ばしたくないな。帰りが夜遅くなると危ない。」
「えー、じゃあどうするの~?」
「それはね。たぶん走るってことかな。」
ラピアが少し躊躇って言った。
「敵との戦う回数を増やす方法は奥に行って敵の多いところに行くか、自分達の足で走って距離稼ぐかだ。」
「なるほどー。それでいいね。ドンドン走るよ。」
「そこでさっきの話しに戻る。今のままではまだ足りないなあ。」
「と言うと?」
「ここで話しは変わるけど俺達はどこまで行くつもり?どこまで強くなりたい?」
「すごく強くなりたい!村長を超えるくらい!」
「私はそこまでは強くなれないかもしれないけど魔法はがんばりたいな。」
「俺は自分と二人を守るためにもっと強くなりたい。お金ははっきり言って今のままでもやっていけるとは思う。それと同時にこう思う。ミュッケ村の大人達と肩を並べられる大人になりたい。」
ゴクリッ。
メリが喉を鳴らした。
そして体は前のめりになり目が爛々と輝きだした。
この目が村でメリが結婚を申し込まれなかった一番の理由だと思う。
メリは小さい頃にはでか女と言われていたが大きくなれば子供でも心は成長して慣れてくる。
けどもこの獣の目が問題だ。
模擬戦などでも興奮してやりすぎた事なんぞ数知れずだ。
この目に射られる事に11歳の子供は耐えられなかったのだろう。
怖すぎるもん。
話しの間に少し溜めを挟んだがメリは早くしてという顔をしている。
「ダンジョンは魔境だ。この魔境で俺達がすべき事は金稼ぎ?それもあるけど一番すべき事が他にあるんじゃないの?それは修行だ!」
メリの方に視線を向けると、メリは熱くなってきているようだ。
「ダンジョンは俺達にとって修行場だ。前に大人達が魔境を探索している所を見たことがあるよな。大人達は昼でも夜でも雨でも雪でも、道が険しくても、道が無くとも、敵が居ようとも居まいとも平然と魔境を走破していたよな。倒すべき敵は倒し、倒さなくて良い敵は残す、採取はしてもいつも適量で回りに大きな影響を与えない。魔境で魔境の中の1種の生物として適応していた。俺もこのダンジョンに適応する力が欲しい。今、俺達がやっていることは力尽くだ。剣も鍛えたいが今はダンジョンという最高の修行場を使い倒したい。」
「んもー!ロッシュ君は安定安全男だと思っていたら良い事言うじゃないかー。」
「だから俺は達成出来なくても大きい目標を持ちたい。このままだと俺達はダンジョン攻略組合の大人と同じになる。身を守る為の力を貪欲に得るんだ。ここの敵が弱いからできる事だ。最終的な到達点はミュッケ村の大人達だがそこに辿り着くまでの方法は3人で考えていこうぜ。今俺が思いついたことを話す。」
俺は息を吸って一拍おいてから話す。
「1つ、迷宮内の移動は人が見ていない所では常に走るようにする。2つ、走って足音を発てたら敵に見つかるし周りの人にばれるので足音を消す。3つ、敵の位置を敵が俺達を認識する前に発見する。これが当面の目標にしたいな。次は出来たらいいなっていう目標。4つ、人が居ない所ではライトは消す。5つ、戦う時もライトを使わない。6つ、暗闇の中でも光があると同じように連携して戦えるようにする。7つ、事故防止の為に防具を調える。」
俺が言い切ると水筒の水を飲んだ。
メリはやたら興奮しているが逆にラピアは思案顔である。
「やろう!すぐにやろう!」
メリは今にでもダンジョンに向かって飛び出しそうな勢いである。
「そうなると一番最初で最大の難関は気配飛ばしになるね。」
ラピアが考えながら言った。そしてそのまま続けた。
「一番大変なのは3つ目かもしれない・・・・・・。危ないのは4、5、6だけど今の私達でも目を強化すれば暗闇でもそれなりに見えるよね。」
その通りだ。
目を強化すると魔力が見やすくなる。
真っ暗でも目を魔力を見るように強化すると普段とは見え方が違うが魔力で世界が見えるようになる。
全ての物には魔力が宿っている。
ライトを使わないということは俺達の利点を全部放り投げることになる。
誰でも目を強化すればある程度は暗闇の中を見れる。
戦える程度の錬度に上げるのは訓練などが必要だが誰でもできる範疇にある。
けどダンジョンで戦う者達はそんなことしない。
目を強化するとそれだけで魔力を食う。
全員が同時に常に強化を使っていることになる。
逆にライトなら1人が負担を受け持つことで残りの人は魔力を温存できる。
一人目の魔力が少なくなったら2人目がライトを使えば良い。
ここ2週間程ダンジョンに入った結果分かったことがある。
ダンジョン攻略組合は浅い所では3人、深いところで何泊かしながら狩る者は4人以上の編成だ。
よってライトを使った方が効率が良い。
能力が高い1人とか2人組ならライトなしでもいけるだろうがライトは敵を探して呼び込む事も兼任しているのでわざわざライトなしでする必要はない。
俺はあえて非効率的な事をしようとしている。
「ラピアが言ったとおり気配飛ばしが一番の難関だ。1,2をやりつつじっくり3を鍛える。4、5、6も練習くらいはしてもいいね。お金を貯めて皮の鎧か服を買って走って転んだり、敵の攻撃を受けても一発で致命傷にならないようにしたい。とりあえずは靴だな。」
メリは色々言い過ぎてよくわからなくなってきている。
「私はどうすればいいの!」
「今まで通りだ!」
「えー!」
「ダンジョン内での移動は人が居ない所では駆け足で足音を無くすことから始めよう。」
「わかった!」
「私良い事思い付いよ。ちょっと待っててね。」
ラピアはそう言うとリュックの中を探し始めた。
布の切れ端をまとめて丸くしている。
「ほら。これなんかどう?」
ラピアは布の切れ端を丸めたボールを嬉しそうに俺達に見せた。
「お、いいね。それだと楽しくやれるな。」
「わからないー。私にも教えてよー。」
「それじゃあね、いくよー。」
ラピアはライトを突然消した。
「あれ、わわわっ。」
「メリ失敗ー。」
「どういうことー。」
「メリ、目を強化するんだ。」
「あ、そういうことね。」
驚いていたメリはわかったようだ。
俺達は部屋を真っ暗にして目を強化して布のボールを投げあった。
遊んだあとはまじめに気配飛ばしを訓練した。