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今日は黒パンと塩茹でした豆を屋台で2小銅貨で買った。
豆は結構量があって良かったがスープが無かったので水を結構飲んでしまった。
黒パンを食べ終わり残していた豆を味わって食べながら昼の部について話した。
俺達は道を覚えたのでもう少し行動範囲を広げることにした。
黒パンを買って水を水筒に補充してダンジョンへと向かった。
多くの出稼ぎ組とすれ違ったが向こうも俺達に慣れて来たようだ。
しかしダンジョン攻略組合の人から感じる気配はまだ険しい。
特に浅い場所でかち合った場合は面倒だった。
彼らはもっと奥に行きたそうだが魔力の関係で奥に行けないのだろう。
自分達はダンジョン攻略組合に入れたという自負もあって俺達を認めることは無いだろう。
そんな彼らも俺達が奥へ進むので合う回数が多くなっていて俺達の中に光魔法適性を持っている者がいると薄々感ずいているようだ。
それがまた気に食わないんだよねー。
俺達はそんな彼らと会わないようにもう少し深くまで行動範囲を広げようとしている。
奥へ行けば行くほどライトに必要な魔力が増えると肌で実感したがまだまだ余裕がありそうだ。
稼ぎも思ったより安定しないので荒稼ぎは出来なさそうにない。
しかしそれはそれで目立たないなら奥へ行っても大丈夫ってことだ。
ダンジョン攻略組合の者に会わない位の所に行きたいもんだ。
会いそうになっても道がわかるのでわざと避けることもできるようになってきた。
万が一戦いになった場合はどうしても俺達が不利だからな。
怖い大人達はできるだけ回避だ。
奥の道を把握できれば朝は浅い所で軽く狩って早めに上がって昼飯を食べて昼の部に奥に長時間潜るって方法もできそうだ。
今はとにかく行動範囲を広げて道を覚えないとな。
昼の部では早い段階でドブヌートの死体が1体手に入ったので安心して狩りが出来た。
「ドブヌートが1体、短剣が1本、棍棒が2本で50小銅貨になります。」
「棍棒は受け取ります。」
「ドブヌートが1体、短剣が1本、棍棒が1本で49小銅貨になります。」
棍棒も背負子を作るのに十分すぎる量が貯まったな。
現時点では背負子は必要ないが奥に進む時にほしくなると思うからそれまでに作っておこう。
周りの大人は俺達の事を棍棒で戦う餓鬼共と言っているようだがメリの剣に目があんまり行っていないようで良い傾向だと思った。
今日は6大銅貨に2小銅貨となった。
毎日ご飯で1人4大銅貨前後使っているがもし俺達の生活で改善すべき点があるとしたら食費だろう。
はっきり言って食べすぎだ。
しかしミュッケ村の大人達は小さい頃にしっかり食べた子供とあんまり食べられなかった子供とでは体格が違うと言っていたのでそれを免罪符に今日もいっぱい食べちゃうのさ。
このままではお金が貯まらないのでもう少し収入を増やさないとなあ。
俺達がダンジョンに入るようになって少し経った時、俺達はダンジョンの中で落ちている棍棒を見つけた。
しかしその棍棒はへし折れられていた。
奥に進むダンジョン攻略組合の人間が棍棒を拾わないで放置していくことがあるが折れている棍棒を見るのは初めてだ。
これは一応受付に持って行った方がいいな。
可能性としては2つある。
ゴブリンが折った、拾われるのが嫌で捨てた人間が折っただ。
ほぼ確実にわざと折られているんだろうな。
1小銅貨如きによくやるぜ。
俺は想像は出来たが何も言わずにとりあえず拾っておいた。
「折れた棍棒は買取できません。」
俺達が狩りを終えて受付に戦利品を提出すると答えが返ってきた。
なるほど、だからわざわざ折ったのか。
「そうですか。落ちてたのを見つけた物ですがよくあることなのですか?」
俺が聞くと受付は少し言い淀んだ。
「たまにあります。ダンジョン内で異変が起きている訳ではないと思いますので安心してください。」
「わかりました。ありがとうございます。棍棒は使い道がないので引き取ってもらえますか?」
「はい。」
俺は話しながらも周囲に目を走らせた。
俺達を見る目は若干の同情の目と、多くの愉快そうに見る目だ。
その反応を見て納得した。
だがつまらないことをするなあ。
こんなことをすれば損をするのは自分たちなのにな。
これに対する俺達の取れる行動は2つある。
それは後で3人で話し合って決めようと思う。
「なんて奴らだ!」
今回のあらましを予想してメリに説明した。
ラピアはわかっていたようだが少し怖がっている。
「そこで俺達ができる事が2つある。1つ、落ちている棍棒を拾うのを止める。2つ、このまま折れている棍棒を持って行き続ける。」
「2つ目はどういう事なの?」
「1つ目は俺達の気は晴れないが現状はそこまで動かないと思う。大人しくしている振りになるね。2つ目は折れた棍棒を持って行き続けることで俺達の気が晴れる可能性がある。」
「なんで気が晴れるの?いらいらするだけだよ。」
「今回の反応を見る限り受付は棍棒がわざと折られているってことに気が付いている。だからあの反応だよ。それで持って行き続けると得をするのは誰になる?」
「受付。」
「そうそう、受付だけが得をする。俺達は損だよね。けどその得っていうのは棍棒を1小銅貨で買った時に比べると大きい?小さい?」
「うーん。ただで手に入る方が得が大きいんじゃないの?」
「たぶん違うと思うよ。折れた棍棒は薪にする位しか使い道が無いし、折れてるから薪として売り物にするには難しいよね。けど、折れてない棍棒は色々なことに使えるじゃん?そこらへんはダンジョン運営会が店にいくらで売ってるかによるけどただってわけではないよね。最低でも2小銅貨では売ってるんじゃない?店で買うと棍棒は3小銅貨だよね。」
一回区切って様子を見てみたがメリはさっぱりわからないという顔をしている。
「それにさ、態々金になる物を手間をかけて壊してるんだよ?ダンジョン運営会、ひいては町長に対する嫌がらせになるよね。だから俺達が折れた棍棒を持っていき続けるとその内ダンジョン運営会か、ダンジョン攻略組合の上の方の人からダンジョン攻略組合の人が怒られるって寸法。よって俺達は少し気が晴れる。」
「うーん。よくわからないけどロッシュはそういう狡賢い事を考えるのが上手だね。」
「ひどい言われようだな。ただその方法を取ると逆に俺達が逆恨みされる可能性もある。しかし賢い人間からは手を出すのは止めた方が良いと思われる可能性もある。」
「??」
「怒られた犯人に逆恨みされる可能性が非常に高い。何人も組んでダンジョンに入っているんだから身内から見れば誰が犯人だか丸わかりだからね。そしてそういうつまらない事をやる人間だから怒られて反省するより俺達を逆恨みする可能性が高い。というかほぼ確実に逆恨みするだろうな。賢い人間は今の話しの内容が俺達がわかるだけの脳みそがあるからわざわざ手を出してダンジョン運営会や町長に睨まれるのは避けたいと思うはず。思うよな?それと折れた棍棒を持って行き続ける事で反応を見れば俺達に同情的か敵対的かがわかる。犯人は短絡的な馬鹿だろうから俺達が受付に渡している現場を見ればおもしろいように反応してくれると思うよ。」
「もうどういう事なのかわからないよー。私はどうすればいいの?」
「それを2人に聞きたかったの。ちょっかい出されてとりあえず我慢するか、反撃するかの2択ってわけ。」
「私はやり返したい!」
「ラピアは?」
「私は我慢の方が良いと思ってたけどロッシュの話しを聞いて反撃した方がいいかもしれない。」
「それじゃあ反撃って事で。いつもは俺が受付をしてるけど今度からは順番に清算しよう。そして各自、敵か味方かの判断をしておくこと。」
「わかった!」
「うん。」
俺達はその後、折れた棍棒を見つけて受付に持ち込み続けた。
反応を伺っていた所、だいたいの犯人と思われる人間を特定できたのはでかい。
それに同情的な視線も思ったより多かった。
俺達が1週間持ち込み続けた所、それ以降は落ちている棍棒が折れている事は無くなった。
思ったより素早い反応だった。
もうちょっと嫌がらせしても良かったんだがな。
そして犯人と思われた人物からの視線が次から余計に強まったので俺は内心勝ち誇ったのだった。
この事は当然ラコス達にもしっかり報告して注意しておいた。