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「これからどうする?飯?それとも必要な物があったら市場?」
「私はご飯!」
「私も特に必要な物は無いかな。背負子とかは毎回棍棒を一個貰って少しずつ作ろうよ。」
ラピアの提案で良さそうだな。
大きな袋だから無理して背負子を作らなくてもなんとかなりそうだ。
「大人と一緒の時はね、ドブヌートを一体買って丸々一体を焼いて食べたんだよー。」
「串代わりもないし塩は買っておいたほうがいいってことかな。」
「塩いいね。お塩がないと泥臭くて嬉しくない。」
「香草とかも安かったらほしいね。」
俺達は一先ず黒パンを1人一個買って市場を回った。
この季節だとかぼちゃ、人参、じゃがいも、かぶ、たまねぎ、豆類、葉物がある。
「かぶと人参どっちがいい?」
「俺はどっちでもいいよ。」
「私もー。」
俺とメリの答えを聞いてラピアは買うものを選び始めた。
そして大き目の人参を1つ1小銅貨で買った。
「味気ないけど今日はこれで我慢しよう。」
俺とメリは頷いた。
長屋に帰る途中に俺達は井戸へ寄った。
「水は桶一杯で1小銅貨だ。」
ここでも金を取るのか。
俺達は水筒をいっぱいにして残った分は自前の木のコップに入れてその場で飲んだ。
俺達は部屋に戻ってくると黒パンを取り出して食べ始めた。
「やっぱりその日にできた黒パンのほうが美味しいねえ。」
「そうだな。」
「はい、人参切ったよ。」
『ありがとう。』
ラピアが人参を3等分に切り分けて俺とメリに渡してくれた。
シャリシャリしていて少しの苦さはあるが食べやすい。
俺達は黒パンを齧りながら今後について話した。
「今お金が手元に合計で40大銅貨ある。何かあった時の為にメリとラピアに10大銅貨ずつ渡しておく。今日ダンジョンで狩りをしたけどまあまあの手応えだったと思う。二人はどう?疲れた?」
「私はまーだまだいけるよ。」
「ちょっと疲れたけど慣れれば平気だと思う。」
「うん。明日からは少しずつ時間を延ばしていこう。今日の感じから朝入って昼出てご飯を食べて、またダンジョンに入って夜出るって形でいいよね。」
「うんうん。」
「あとはご飯をどうするかだな。黒パンを3食食べると1人1日3大銅貨。それにスープやら水やら野菜やらを食べなくちゃならない。できれば一食はポリジを入れたいけどラピアはどうしたらいいと思う?」
「うーん。ある程度お金が稼げるようになるまでは黒パンは一日2個、つまり2食分。朝はポリジでいいんじゃないかな。昼と夜にはお野菜を買えば毎食お野菜が取れるよ。」
メリが露骨に顔をしかめた。
「ダンジョンの稼ぎが安定するまではそれで行こう。それだと黒パン2個2大銅貨、ポリジ一杯2小銅貨、水は朝と夜で2小銅貨、野菜は安いのをちょこっと買うとして2小銅貨って所だな。合計は1人3大銅貨と2小銅貨。それで、えーと一日の部屋代はいくらだっけ?」
メリは俺と目をあわさないで黒パンに集中している振りをしている。
「部屋代は1日6小銅貨だから1人2小銅貨。そうすると一日で4大銅貨は必要だね。お休みの日や訓練の日もその内作りたいよね。風邪引いちゃうと大変だなあ。これから寒くなるのに。」
「夜は危ないから外には極力出ないようにしよう。そうすると軽い訓練しかできないなあ。」
「それじゃあれやろうよ。気配の奴。」
「あれ、私はまだ全然だよ?」
「全然だからやるんだよー。」
「3人じゃ視線飛ばしもできないからなあ。メリよ、瞑想でもいいんだぞ?」
「瞑想は眠たくなっちゃうよ。」
「気配飛ばしも同じような気がするのは俺だけなのか。」
視線飛ばしは4人以上で円を作るように等間隔で座って自分が見られたら見てきた人以外を見るという遊びだ。
これを素早くやることで目と連携を鍛える。
そして気配飛ばしは、視線飛ばしの発展形で気配を飛ばす。
気配というか注意というか注目というか意識というかまあそんなもんだ。
そこらへんを分かりやすく気配で統一して気配飛ばしと言う名前が付けられたそうだ。
例えば後ろから人を見た時にその人が怒っていたり、喜んでいたり、気を抜いていたりというのがなんとなくわかることがある。
それを常にわかるように鍛えるのがこの気配飛ばしだ。
魔力の流れを見てもいいが魔力の流れとも違う別ものである。
この気配が分かるようになると相手がどこを狙っているのかがわかる。
相手が未熟な場合、狙おうとする所に大きく注意がいってしまう。
その注意を読み取る練習なのだ。
例えば人と話している時、人と正面を向き合ってお互いを見ながら話しをしている時に相手が上の空だったり、別の事を考えていたり、すごく自分の話しに集中していたりという事がわかる。
これは正面から見ているので顔や目の動きから判断できる面もあるが気配も察しているのである。
最初の例に挙げた後ろから人を見た時に相手の様子がわかるのは何故なのかそう聞かれた時には多くの人間が雰囲気だとか空気だとか気配だとか言う。
答えはわかっているのにそれを多くの人は使いこなせていない。
それを使いこなせるようにする訓練だ。
だが気配飛ばしができるようになって相手の注意点がわかるようになったから相手の攻撃が手に取るようにわかるわけではない。
上位の実力者はそれを容易く無効化する。
反射的に戦ったり、無我で戦ったり、武器と一体となったり、戦っている自分を上から見おろしながら戦ったりと人によって色々方法はあるが真の実力者の前ではこの気配の察知は有効ではない。
しかし多くの魔物相手となるとかなり有効だ。
初見の魔物でも狙ってくる所がわかれば敵の形状や動き、武器によって攻撃の予測が出来る。
言葉は通じなくても気配は通じるのだ。
対人だと特に飛び道具や暗器、特殊な武器の射程を読むのに使える。
相手を切る時にはどこをどうやって切るかイメージして切ることが多いと思う。
その切るイメージが相手に読まれていたら勝ち目はないだろう。
剣を持っている相手と戦っているのに切る気配では無く、撃つ気配、刺す気配を感じたら相手が別の武器を持っているとわかるだろう。
超1流には通じないが1流程度なら通じる技能なのだ。
だから俺達は気配を重視する。
この世界で一般的には体が大きくて筋肉が多い者が強者とされている。
実際にその中にも強者はいるが一見普通の見た目の男が凄まじい力を持っていたりする。
そんな強者を見抜くための気配察知だ。
しかし今の俺達に見抜かれる程度じゃ、まあまあの強さだな。
それと気配を上手く使えると自分の強さも隠すことができる。
強さをひけらかしていた方がいい場合もあるが、俺達は基本隠しておいた方がいいだろう。
ということで俺達3人は正三角形を描くように等間隔に座った。
目をつぶって呼吸を整え合図を待った。
「私からいくよー。」
メリが言った。
俺とラピアはメリの居る方向に集中した。
普通だったらメリから飛ばされたらメリ以外を選らばなければならないがそうするとメリ、俺、ラピアかメリ、ラピア、俺の順に固定されてしまうのでメリ、俺、メリという順番も有りとした。
と言っても俺達もまだそこまで気配がわかるわけではないので順番にしていった方がいいだろう。
しばらくすると俺はメリに見られている感覚を掴んだ。
実際目を閉じているがメリの意識がこっちに向けられているようだ。
自分へ気配が向けられているのを自覚するのは他人が他人に気配を向けているよりわかりやすい。
俺は次はラピアの方を目を閉じながら見て意識を集中させた。
そうして少しするとラピアはメリに気配を飛ばした。
こうしてゆっくりと互いの気配を回しているとメリから寝息が聞こえ始めた。
「自分が一番に寝るのかよ。」
「いつものことだね。私達も寝よう。」
俺達は囁きあって、メリにマントを被せて俺達もマントを被って寝た。