4話
この世界は魔力優位の法則に成り立っている。
普段は起きない現象も魔力が関わると起きる。
その一例として魔力漏れがある。
魔力漏れとは人が死にそうになる前に体から急激に魔力が抜ける現象のことを指す。
そして魔力が尽きると死ぬ。
例えば、狭い洞窟内またはダンジョンの中で火魔法を大量に使った後に急に魔力が漏れることがある。
そのままにしておくと死ぬが場所を移動すれば魔力漏れは止まる。
水中で呼吸ができなくなった時、魔力漏れが発生する。
しかし空気を吸えば魔力漏れは止まる。
その場合、水を飲み込みすぎるとそのまま魔力が漏れて死んでしまうので息が苦しくても口を空けてはならない。
食べた物に毒が含まれいてた場合、それが強い毒ならすぐ魔力漏れが起こる。
しかし食べた物を吐き出せば魔力漏れが弱くなる。
そのことから魔力を帯びた物は高値で取引される。
魔力を帯びた物は、何かあって魔力漏れが発生した時に魔力を帯びた物から魔力を引き出して魔力の消費を肩代わりさせることができる。
なんの変哲もない石が強い魔力を帯びているだけで家を何軒も買えるような値段で売れたこともあるそうだ。
同じ物でも魔力のあるなし、種類によって全く別の物になってしまう。
だから目に見えている物より魔力で物を判断したほうがいいということだ。
その最もたる例が魔境だ。
魔境は魔境以外から見ると別世界だ。
それを理解しない人があまりにも多すぎるせいで開拓は困難を極めている。
逆にそれを理解した集団だけが安定して開拓を行っている。
ミュッケ開拓村の村長はタウロ開拓団という有名なクランから独立したと俺達子供に自慢していたがこの村から出たことのない俺にはさっぱりわからない。
タウロ開拓団は開拓では今トップを走っているクランだそうだ。
開拓、輸送、販売などをクランで全て賄っていると話す村長は、やたら得意げだったのを覚えている。
では何故ミュッケ村にはタウロ開拓団の人が来ないのか。
それはタウロ開拓団は輸送、販売などを自分達でやってしまう為、開拓村を作る場所はどうしても輸送などが効率のいい場所になってしまうということだ。
そういった色々なしがらみもあって独立したという話しだった。
だが村長はタウロ開拓団の事を良い思い出として懐かしく思っているようだ。
魔法部門で上位を目指す者達はさっきの戦闘訓練に影響され真剣な表情で訓練を始めた。
グロウは火に適性があるので火魔法の訓練スペースに移動した。
俺はというと光と無属性の適性があるのでその訓練を始める。
ライトを唱え光球を発生させ、無属性魔法で体を強化し、走る。
俺は光魔法での攻撃は一切捨ててライトと回復魔法に力を入れている。
同じ属性の魔法を使っても人によって何を重視するか全く違うので個性が出てくる。
全ての魔法を極めるのは難しいからだ。
特に複数適性属性がある場合には将来も考えて訓練をしなくてはならない。
使えば使うほど適性は伸び、魔力の消費が下がり、威力が上がる。
だからこそしっかり考えて使う魔法を選ぶ。
俺は無属性魔法を中心に光属性のライトと回復魔法を補助にする持久力を重視した魔法構成でいく予定だ。
中には一回の魔法の威力を極限に高めた一発屋もいるが属性が合わなかったりするとを考えるとやはり安定性を重視してしまう。
だから無属性の適性があった時に俺は自分好みの戦い方が出来るので嬉しかった。
自分の好みの戦い方と適性が合う場合はいいが、違う場合は色々と悩む羽目になる。
俺だったら好みと合わなくても適性にあわせる自信があるが戦いを好まない人が火属性の適性があった場合などは大変だなと思う。
火魔法ならつぶしが利くから当たりの部類だ。
「ロッシュ。何考えてるの?」
考えながら走っているとメリが話しかけてきた。
「俺は無属性魔法の適性があって良かったと思ってた」
「そうだね。前衛張るなら無属性だよね。」
「メリは剣の才能もあるし無属性も適性があるし理想的な構成だよな。」
「ロッシュだってそうじゃない。その上光魔法も使えてお姉さん羨ましいよー。」
「無属性さえあれば良かったからな。鍛えるのも無属性が優先だし。」
「みんながロッシュほど、割り切れてるわけじゃないからね」
「ただ問題がないわけではない」
「そうだね。問題があるね」
「そう。それは・・・。」
「それは・・・。」
『魔法訓練してる気にならないってこと。』
そう、無属性魔法を訓練する者達はただただ走ることが訓練だ。
他の適正属性を持っている子供は派手に魔法を打っている中、俺達は訓練場の周りをひたすら走る。
訓練終了まで走る。
だがそれが一番の近道であるらしい。
無属性魔法は慣れない内は自分の体を痛めてしまう人が多い魔法だ。
ついつい力が入りすぎて骨折しましたなんてことが日常茶飯事なので走りこみをしながらゆっくり慣れていくのがいいそうだ。
しかし魔法訓練してる気にはならない。
俺はライトを維持しつつ魔力の管理を考えながら走るのでまだましだが無属性一本のメリなどは慣れてしまえばあとはただ走るだけである。
全力で無属性魔法を行使しながら走ると怪我をするので全力で走ることも禁じられている。
「メリは武力部門で1位取れそうだけどラピアはどうなの。」
「ラピアはセリナとの一騎打ちになりそうだね。」
「最近ラピアも気合が入ってるし今回はいけそう?」
普段は大人しいラピアも祭りの前に気合が入っているようだ。
珍しいなと思いつつもメリはいたって普段どおりだ。
「今回は勝ちたいって言ってたからもしかしたら勝つかもよ。」
「薬師はほぼ決定したようなもんだと思うけどな。それでも今後の人生かかってるんだから本気にもなるな。それに比べてメリのこの余裕っぷりはすごいな。」
「えー。別に余裕ないよ。いつも通りだよー。」
「それを余裕って言うんだよ。」
メリの肝の据わりっぷりはすごいもんだな。
10歳の俺達でも周りに影響されてドキドキしてるのに・・・。
1年後に俺はそんな落ち着いてはいられないな。
「それよりロッシュは婚約のあてはあるの?」
簡単に言えないことを簡単にズバッっと言ってきて俺は急な喉の渇きを感じつつも動揺を悟られないように言った。
「メリかラピアだったらもちろんいいぞ。」
「へー。」
メリは品定めをするかの如き目でニヤニヤしながら俺を見つめた。
俺はその視線に耐えられなくなって早口で言った。
「メリはどうなんだよ。武力部門1位は決まったようなもんだろ。」
ついつい怒ったように言ってしまって急に恥ずかしくなった。
「それは勝ってからのお楽しみだね。」
俺は恥ずかしさを我慢して言ったのにはぐらかされてしまった。
「なんだよ。答えを言ったのは俺だけかよ。」
「それは嘘でも俺にはメリしか考えられないって言ってくれてたら反応が変わったかもよ。」
「はいはい。煮え切らなくてわるーございましたねっと」
「いいよーいいよー。そんな優柔不断なロッシュ君もお姉さんは許しちゃうよー。」
その後は二人とも無言で走った。
俺にとっては一応本心を暴露したのだからいまいち居心地の悪い状態になってしまった。
横目でチラッとメリを見たがそれほど悪いような感じではなく、どちからと言えば柔らかい感じだろうか?
俺は気恥ずかしさもあってメリの考えはわからなかった。
そうこうしている間に鐘が鳴り、教官役の大人から終了の合図がかかった。
俺はほっとしたと同時にほんの少しの残念さのようなものを感じたがメリはもう普通のメリに戻っていた。
「ロッシュ。ご飯だから小さい子を連れて食堂にいくよ。」
とメリはいい、そそくさと行ってしまった。
俺は今までにない感覚に身悶えを我慢しつつ、グロウと合流して年少組を連れて食堂に向かった。