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「ゴーン。」
別れの朝が来た。
いつもよりずっと静かに朝食を終えた俺達は教会の前でタウロ開拓団が到着するのを待った。
「おはよう。」
スカード率いるタウロ開拓団の人達が来た。
小さい子供達の中には泣きそうな子供もいるがみんな我慢している。
俺達は別れを惜しみながら東門へと移動した。
「よし。行くぞ!他の子供達もタウロ開拓団に来るのを待ってるぜ。またな!」
「またねー。」
「ばいばい。」
各々が別れの言葉を告げる。
時折振り返ってこちらに手を振ってきた。
俺達は彼らが見えなくなるまで手を振り続けた。
スカードは途中から後姿からも泣いているのがわかったが言わないでおいた。
「教会に戻るぞ。生きてればその内また会えるさ。」
俺達は泣き出した子供を連れて教会へ戻った。
子供達が落ち着くのを待って俺はラコス達を呼んだ。
「身分証明書とダンジョン入場許可書を役所に取りに行くぞ。」
俺、メリ、ラピア、ラコス、ウカリスは役所へと向かった。
役所に入ると受付が何個もあってどこに行けばいいのかわからなかったので一つの受付で話しを聞いてみた。
「おはようございます。ミュッケ村の者ですが住民登録とダンジョン入場許可書を受け取りに来たんですけど、どこの受付に行けばいいですか?」
職員はダンジョン入場許可書という言葉を聞いた時に随分驚いた印象だったがどこの受付に行けばいいのかを教えてくれた。
俺達は指定された受付に行って用件を述べた。
職員は一度奥に行くとトレイに鉄の板を5枚載せて戻ってきた。
「ミュッケ村の方々ですね。こちらが登録板になります。この板はこの町の住民票となっています。まずこちらをご覧ください。」
メリの名前の書いた鉄の板を俺達のほうに見せる。
「この板には生まれた場所、生まれた年、その他にこの町での資格や許可が書かれています。この板にはこの町の住民登録と日雇いの登録、ダンジョン入場許可が書かれています。この板は基本的に身分証明となり他の町でも使えます。しかし許可や登録は各町で取ってください。この板を偽造した場合、罰金と刑罰の対象になりますので絶対行わないでください。失くした場合には再発行に3銀貨必要になります。」
「ミュッケ村のみなさんには特別に1夫婦に付き1部屋、長屋の1か月分の料金が無料となっています。こちらの鍵に部屋の番号と貸主の場所が書かれています。更新は一ヶ月毎に貸主に一ヶ月45大銅貨のお金を払えば可能です。長屋の使用料は一日辺り6小銅貨になります。」
すごい速さで説明が終わった。
「税金はどうなるのでしょうか。」
俺が聞くと受付は一瞬止まったがすぐに素早く話し始めた。
「税金は基本的に報酬を受け取る時点で払われている形式となっています。日雇いなら報酬を受け取る前の段階で税金分が差し引かれています。自営業の場合には自営業の税がかかっています。ダンジョンの事はダンジョンの受付で聞くのが一番ですが簡潔に言いますと採取した物を売った際に報酬を受け取る時に税金が2割差し引かれます。」
とのことらしい。俺は他に質問はないか4人を見たがラピア以外は余計にわからなくなったという顔をしている。
「ありがとうございました。」
『ありがとうございました。』
俺は登録板と鍵を受け取ると登録板をみんなに渡した。
俺は職員の対応に感心しながらみんなを役所の外に移動した。
「登録板に穴があるから紐を買って首にかけられるようにしようか。失くしたら再発行する金がない。」
俺とラピアは呆けている3人に優しく噛み砕いて説明をしながら市場へ向かった。
そこで5人分の紐を買った。
「ロッシュ、メリ、ラピア、ありがとう。」
俺は買った紐をラコスとウカリスに渡した。
「よし、一回教会に戻ろうか。」
「えー。新しい部屋を見に行きたーい。」
「そう?ラコス達は?」
ラコスはウカリスの方を見てウカリスの意見を待っている。
「私もお部屋を見に行きたい。」
恥ずかしそうにもじもじしながらウカリスは答えた。
「なら長屋を見に行くか。」
鍵には長屋の部屋番号しか書いてなかったので案内板まで移動して長屋の位置を探した。
自分達の借りた部屋に行くついでに長屋の持ち主の場所を確認しておいた。
長屋に着くと自分達の部屋を探す。
ラコス達と隣の部屋のようだ。
部屋の番号が並びだからそりゃそうだよな。
部屋の鍵を開けて中に入るそれは以前見た広さだった。
縦3m横2m位の部屋だ。
しかし村の家と違って長屋で木の壁がやたら薄い。
そしてなんか臭い。
掃除が必要だな。
以前の家ほど飛び込みたくなる床ではなかったので俺は冷静さを保てた。
隣のラコス達が大きな声を出したらここまで聞こえそうだ。
板という板が薄っぺらくて窓もない。
まあ大部屋雑魚寝に比べたらマシだな。
長屋の周りを歩いた時に回りに人が居なかったからここは日雇いの人が大半ってとこかな。
俺達は冷静に部屋に鍵をかけて出た。
ラコスの部屋をノックして反応を待つ。
ラコス達も俺達と同じ感想だったようだ。
その後俺達は教会へ向かった。
教会に着いた時に丁度昼を告げる鐘が鳴った。
「時間が中途半端だなあ。次はどうしよう。俺はベラに報告してくるから3人は自由にしてて。」
「うん。」
俺は教会の中をベラを探した。
途中リタを見つけたのでベラの場所を聞いた。
そして部屋を借りたから明日から教会を出る旨を告げた。
リタは寂しそうな顔をしていたが、がんばってねと言われた。
俺はきびきびと働いているベラを見つけて話しかけた。
「さっき登録板を受け取って、長屋に部屋も借りました。明日には教会を出る予定です。今までありがとうございました。」
「そう。がんばりなさい。」
「はい。」
あっさりだがこんなもんか。
子供達を避難させてくれただけで俺としては大感謝だ。
俺は報告を終えてラピア達に合流した。
「報告してきたよ。そう、がんばりなさいだってさ。」
「そっけないなー。」
「ベラさんは私達に気を使ってくれてたし良い人だよ。」
「まあ、助かったな。それよりこの後はどうする?自由時間にしようか。」
「私はダンジョンに行きたい!」
メリが手を上げて答えた。
「ダンジョンでも良いけど説明聞くだけだよ?」
「うっ。でも今日説明聞けば明日は入れるでしょ?」
「そうだね。みんなはどう?」
「私もダンジョン行って見たい。」
ウカリスは興味津々だ。
ラコスもウカリスに同意して頷いた。
「ウカリスが行きたいなら行こうか。」
ラピアが言った。
「それじゃあ行こうか。」
『わーい。』
ウカリスがこんなに食い付くとは驚きだがラコスも行く事になって嬉しそうだ。
休みたかったのは俺だけなのか・・・・・・?
けどダンジョンに行くとなると俺もワクワクしてきた。
思ったより俺は調子が良いらしい。
ダンジョンに到着したがダンジョンっていうより俺達の視界に入ってきたのは石造りの建物だ。
俺達が建物に入ろうとすると警備の兵士に止められた。
「ここから先は許可無き者は通せん。即刻立ち去れ。」
「許可は得ています。これが登録板です。」
俺達は1人ずつ登録板を見せる。
兵はそれを見て1人が建物の中に入って行った。
しばらくすると別の女性職員と共に出てきた。
「確認した。入ってよい。」
女性職員に先導されて俺達は建物の中に入った。
俺達はそのまま会議室のような部屋に通された。