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「やった。まさかダンジョンに潜れるとは思わなかったな。」
「いえーい。ダンジョンだあ。」
メリは飛び上がった。
「メリはダンジョンに潜ったことがあるんだよね?私達だけで大丈夫かな?」
ラピアは少し不安そうだ。
「浅い所なら楽勝楽勝。楽しくなってきたなあ。やっぱほら武器が必要だよ。武器武器武器、武器!。」
冬の農閑期では近くの村の住民は格安でダンジョンに入れる許可書が買える。
冬になると町に出稼ぎが増えるのでその収容先の一つといったところだ。
特に冬は日雇いの仕事が減る。
メリは去年の時点で2年連続で武力部門優勝者だったので大人に混じってダンジョンに潜っていたのだ。
普通はある程度税金を払っている村のみが参加できるのだがミュッケ村は武力や生産物の品質の良さ、その他いざとなった時にタウロ開拓団への伝手といった物が期待され税金を払っていないがダンジョンに入場できた。
エル村は税金を払っていたので今回村が被害を受けたがそれなりの援助物資が得られるようだ。
普段はデロス町からたまに兵士や冒険者が巡回に来ていたそうだ。
俺達がダンジョンに入れるようになるのもスタンピートの損害を回収する為に多めに人を入れようという魂胆だろう。
ダンジョンには最奥にダンジョンコアがある。
ダンジョンコアを抜くと徐々に枯れていって最終的にはダンジョンは枯れる。
ダンジョンに出る魔物や魔獣はアイテムを落す。
人はダンジョンを資源回収目的に壊さずに維持している。
しかしダンジョンコアが残っていても魔物を狩りすぎるとダンジョンが弱り枯れる。
ダンジョンが枯れると魔力が浄化され人間にとって住みよい土地になるがダンジョンからの収益を考えると枯らさないように少しずつ資源を回収する方が良い。
よって、ダンジョン発見当初は多く冒険者を募集するがダンジョン採取が安定すると攻略者を制限して長く安定して採取をできるようにする。
安定してくると管理者が入場を制限するので良い冒険者は囲い込まれ、それ以外は他の新しいダンジョンへと移動することになる。
デロス町のダンジョンは安定して管理されているので許可書がないと入ることすらできなくなっている。
入場を制限されたダンジョンに入るには2通りの方法があり、何個かあるダンジョン攻略組合に所属して組合員として入る、冬場などに近郊の農村の人が冬季限定で入れるようになる限定許可がある。
俺達は最低でも俺が12歳になるまで、ラコス達に至っては今9歳のウカリスが12歳になるまでは入れそうだな。
こりゃ金を稼いだら、後から許可証の代金を払った方が良さそうだ。
稼げたら、な。
そこらへんの加減は周りを見ながら決めたほうが良さそうだ。
程ほどの稼ぎを望まれているのに稼ぎすぎたり、ある程度多くの稼ぎを望まれているのに稼ぎが少なかったりした場合はいまいちよくない。
現場の人からの話しはしっかり聞かないといけないな。
「こりゃ周りに随分妬まれるな。あんまりはしゃぎすぎないようにしよう。」
「はいはーい。みんなの前では静かにしてまーす。」
「ロッシュの言う通りだね。気をつけないと。」
俺達は教会に着いた。
俺はベラに町長と話した事を報告した。
「そう。それは良かったわね。」
「俺達はこの町に残るので今後ともよろしくお願いします。」
思ったより早く予定が済んでしまったな。
「メリ、ダンジョン経験者として俺達に必要な物を教えてくれ。」
「ふんふん。それはね、武器だよロッシュ君!」
「メリに聞いたのが間違いだったな。」
俺は棍棒を持って教会の敷地の隅へ移動した。
俺の様子見を見て焦ってメリが追いかけてくる。
「まあ、待ちたまえ。ダンジョンでは素材回収用に大きな袋を借りれるから特に必要な物はないよ。あえて言うなら袋に短剣とか棍棒に詰め込むと音が鳴って敵にばれるから棍棒だけを運ぶ用の物や短剣をいっぱい入れても上手く音が鳴らないようにする物がほしい。」
「それはどういう物が必要なの?」
「・・・・・・。」
メリは固まった後、素振りを始めた。
「なんだっけ?」
「全然覚えてないってことね。」
ラピアが補足した。
俺達はメリが思い出すのではないかという淡い希望を抱くことすらせずに訓練を始めたのだった。
「そうだ、ドブヌートは倒すと死体が丸々残るから背負子が必要だよ。それさえあればなんとかなる!ポーターは背負い籠の人が多いけど背負子の方が積むのに時間がかかるけど良いって大人達が言ってた。」
「なるほど。メリよく思い出したな。」
「へへ。」
「でも市場見たときにはそういうのなかったね。どうするの?」
「大人が棍棒を削って縄で結んで作ってた。上手く説明はできないけど私たちでも作れるよ。」
「背負子はメリ先生にまかせるか。」
「しょうがないなあ、ロッシュ君は。」
メリが勝ち誇って言った。
メリに作らせれば俺は楽である。
けど作り方は覚えておかないとな。
俺達が訓練を続けていると昼の鐘がなった。
今日は朝のポリジしか食ってなくてお腹が空いているがタウロ開拓団の面々が食べ物をなんか持ってきてくれると信じている。
お願いだ。
子供達もタウロ開拓団を待つのに教会から出たが俺達が訓練しているのを見て武器はないが各自訓練を始めた。
「あ、スカードだ。」
「スカードが来たぞ!」
子供達の歓声でタウロ開拓団が来た事を知った。
タウロ開拓団は俺達の想像を裏切らず食べ物をたくさん持ってきているようだ。
子供たちがそれに群がった。
俺達は訓練を止めて食べ物を運ぶのを手伝った。
「おう、みんな。今後の事は決まったか!」
スカードが始めてまともに話している所を見た。
『はーい。』
「とりあえず食い物を持ってきたから飯だ。飯。」
そういうと子供たちを伴ってスカードは食堂へ向かった。
俺達はその他の面々に軽く礼をした。
彼らは片手を上げてそれに答えた。
「難しい話しは後にしてかんぱーい!」
俺達は配られたエールを片手に乾杯した。
俺は食事が始まって場が少し落ち着いてきた時に副リーダーのエノに話しかけた。
「タウロ開拓団のお陰で町に残る組はダンジョンに潜れるようになりました。ありがとうございます。」
「俺達はそこまで手配はしてないが大盤振る舞いだな。まあお前達が貢献したのもでかいだろう。」
「多少ですがね。」
「まあ、歳の割にはよくやった。同じクラン出の村の子供がここまでやれてスカードも喜んでた。喜びすぎではあるが。」
「はい。子供たちは年少の半分くらいがお世話になります。」
「そうか。スカードがこんな贅沢していられるのも今の内だ。タウロ開拓団に合流したら雷が落ちるぞ。」
「スカードさんのお陰で元気をなくしていた子も元気になってきましたしありがたい限りです。」
ふむ、順調に行きそうだな。
俺は安心して飯を本格的に食べ始めた。
ラピアも話しの様子を少し伺っていたので大丈夫だと言っておいた。
食事は円満に終わった。
スカードが酔い潰れたことを除けばだ。
「明日の朝食後、町を発つ。別れの挨拶はすませておけよ。」
当然のようにエノが仕切ってタウロ開拓団に合流する子供たちを集めて話している。
「みんなのまとめ役をまかせてしまって悪いな。本来は俺がやるべきだったのに・・・・・・。」
エスタが話しかけてきた。
表面上は大丈夫そうだがまだ魔力が不安定でつらそうである。
「エスタ、おまえはすべき事はやったよ。お陰でみんな無事に辿り着けた。」
エスタは少し考えたあとに頷いた。
「そうだな。次会う時は俺はもっと強くなる。メリにだって勝ってやるさ。」
「ふふふ。エスタの挑戦を待ってるよ!」
メリも嬉しそうだ。
「ラピアちゃん、毎日回復魔法ありがとう。私はあんまり上手くないから。」
「セリナちゃん、がんばりすぎないようにね。」
二人の少女は手を握り合って話している。
メリはあっちの女側でも良いんだが完全にこっちの男側に馴染んでいる。
まあいいか。
タウロ開拓団はスカードを背負って去って行った。
豪勢な食事があったので夕食はなしになった。
俺達は寝室に割り当てられた奥の小部屋で夜遅くまで語り合った。