32
「ゴーン。」
デロス町の朝の鐘が鳴った。
子供たちはエスタを除いて全員動ける程度に回復したようだ。
俺達は全員で食堂へ向かった。
ベラの祈りが終わり朝食が始まったがみんな今後について考えているようだ。
「明日の夜には自分がどうするか決めておけよ。エル村にはグロウ、タウロ開拓団にはエスタとセリナが行く予定だ。色々相談するのはいいが最後はしっかり自分で決めるように。」
エスタの傷は深く、まだ完治に時間がかかるようなので特別にタウロ開拓団に行くことになった。
お金がないのでタウロ開拓団に行かないと治療を受け続けることができないからな。
セリナはもちろんエスタに着いていく様だ。
小さい子供達はスタンピートの時の町民の暴走を見ていて、町に対してあんまり良い印象を抱いていないようだ。
町に残るよりエル村かタウロ開拓団に行ってくれた方が俺達も安心するから丁度いいな。
俺達は今日もゴブリンの死体運びだ。
昨日と同じように兵の詰め所に行く。
「メリ、俺達はどうしようか。俺はエル村は除外で冒険者だな。もちろん二人が村がいいならそれでいい。」
「私もエル村は遠慮しておこうかな。」
「ラピアとは話したか?」
「ラピアはどっちでも良さそうだったよ。」
「ラピアが薬師になるには開拓団しかないな。俺が成人するまでは日雇いをやって、そのあと開拓団入りするのが理想か。」
「そのまま冒険者ってのも憧れるよねー。ただこの前の戦いを見るとすっごく貧乏そうだったね。」
「俺達はそれ以下だから人の事言えないぞ。」
話していると人が集まってきた。
昨日と同じように4つに分けられた後、城門の外に出た。
今日はゴブリンを昨日作った穴まで運ぶ仕事が主になるそうだ。
旨味がない仕事だから程ほどでいいか。
俺達は2組に分かれてゴブリンを運んでいる。
昨日より臭いがひどくなっている。
俺達は運びやすそうなのを中心に労働に励んだ。
グロウ以外は今後について考えているようで単純な力仕事で良かったかもしれない。
お昼までの時間、隙を付いて軽く漁ったがめぼしい物は見つからなかった。
「ゴーン。」
昼の鐘が鳴った。
昨日と同じく黒パンが配られた。
俺達は水を飲みながらゆっくり黒パンを食べた。
「みんなは今後の予定は決まったか?」
みんな一斉に首を振った。
「俺もまだ完全には決まっていないしそんなもんだよな。」
そんな俺達を横目にグロウは食べる事に集中している。
「次期村長のグロウさんはさすがに余裕だな。」
「おう。」
全くこっちの話しを聞いていないようだ。
みんながそんなグロウの反応に苦笑いしつつも今後の事について考えているようだ。
その後も死体運びは順調に進められて死体は焼かれて郊外に埋められた。
死体運びが終わったら明日は仕事がないな。
俺達は成人ではないので日雇いの仕事はまだ受けられない。
今回の死体運びが特別なだけだ。
早ければ明日に町長との面談ができるので日雇い仕事ができるのはそれ以降だ。
冒険者学校もあるが12歳の成人からだから俺は通うことができない。
全く、面倒なもんだ。
「ゴーン。」
本日のお仕事が終わった。
昨日と同様6大銅貨を受け取って体を洗って教会へ向かった。
「明日は仕事がないので自由行動だな。」
「やったぜ!」
グロウは飛び跳ねた。
ルッタも嬉しそうだ。
「市も出てるみたいだし買い物をしてもいいが無駄遣いはするなよ。エル村に行くことを考えている人はそれも考慮にいれて買い物しろよ。昨日の棍棒はエル村の暇な人に今日売ってもらって手間賃引いて一人当たり1大銅貨だ。普段は時間をかければ3小銅貨で売れるらしいが棍棒が一杯取れたので2小銅貨で売れた。思ったよりしょっぱいな。ラコスの持ってるあれは12大銅貨で48小銅貨、一人当たり6小銅貨だ。」
俺は昨日の内に両替してもらった小銅貨を配った。
「これで昨日の分を使わなければ一人、13大銅貨と6小銅貨になったはずだ。さっきも言ったがエル村に行く予定の者は町で買い物する機会も少ないからしっかり使えるものを買うんだぞ。明日は教会で朝と夜にポリジが出るだろうが、昼は出ない。町では2食が普通だからな。だからといって買い食いしすぎるなよ、グロウ。ルッタさんも買ってやらなくてもいいからね。」
ルッタがうんうん頷いている横でグロウは悲鳴を上げていた。
エル村の人達と別れて俺達は教会に到着した。
俺は敷地内に入る時に気をつけていたが今日はスカード達はいないようだ。
その後俺達は夕飯を食べて俺は明日の予定について話して各自自由行動となった。
俺とラピアとメリは今後の話しをするために食堂に集まった。
「今後の希望について話そう。俺は成人したら冒険者学校に行ってその後タウロ開拓団に入る事が当面の目標だ。」
「私は冒険者できればいいや。」
「私はエル村でも冒険者でもいいよ。私の事を思って開拓団に入りたいって言うならそこまで気にしなくていいよ。」
ラピアは言った。
「ならとりあえずは冒険者でいいか?ずるい考えだがエル村なら冒険者が駄目でも受け入れてくれるだろう。」
「そうだね。」
「うん。それでいいよ。」
「スタンピートが無ければエル村もありだったけど5年後どうなるかわからないからとりあえずがんばろうぜ。」
「はーい。」
「うん。」
「では明日は、今後必要な物を買おうか。俺達はこの二日で1人13銅貨と6小銅貨だった。それとスタンピートの時にゴブリンから得たのが銀貨5枚だ。」
「え、すごい。そんなにゴブリン持ってたの?」
メリが驚いた。
「ああ、銀貨は綺麗だからゴブリンは積極的に拾ったんだろう。銅貨系は銀貨、金貨に比べると綺麗じゃないからな。」
「私は教会のお手伝いで二日で6大銅貨だったよ。一日3大銅貨。」
「3人合わせれば結構な額になるがしっかり考えて使おう。臨時収入なんてこの先はない。日雇いだと一日6~7大銅貨だろう。黒パン1個が1大銅貨だから黒パン3食食べたらそれだけで3大銅貨だ。さすがに黒パンだけじゃ栄養が足りないから野菜も食わなくちゃならない。3食出ていたミュッケ村が懐かしいな。そこでこの先絶対必要だと思うものを挙げていこう。」
「ロッシュとラピアの武器!」
メリが元気よく言った。
「冒険者の仕事は冒険者学校卒業しないと受けられないぞ。よって武器は後回し!」
「えー。」
「これからもっと寒くなるから大きめのマントがあれば夜も寒くないね。毛布は持ち運びが大変。」
「ラピアの意見に賛成。」
「賛成!」
「他は・・・・・・。お椀とスプーンがほしい。」
「ポリジは嫌だあ。」
「稼ぎ次第では毎食ポリジだぞ。」
「メリ、我慢しよっ。」
ラピアがメリを慰めた。
「他には?」
「かばんがほしい!」
「メリ、いい事言うなあ。一個は欲しい。」
「あとは1人1袋は小さな袋もほしいね。」
「あとはない?」
「うーん。今すぐじゃないけど靴。」
「靴もほしいな。」
「そうだね。」
「差し迫った問題はマントか。優先順位はマント、かばん、小袋、靴でいいか?」
「異議なーし。」
「うん。」
メリはお椀の話しが流れて安心した顔をしている。
「安いお椀とかスプーンは買うからな。」
「げー。」
「今日はこんな所か。欲しいのがあったらまた明日で。」
「うん。おやすみ。」
『おやすみ。』