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教会の敷地に入ると突然何かが俺に突進してきた。


俺は若干気が緩んでいたが素早く後ろへ下がった。

しかし大きさ的に大人の男と思われるそれは俺が下がってもその動きにしっかり付いてきた。


俺は焦って迫り来る人影に肘打ちと膝蹴りをした。

しかし迫り来る人影は余計に加速してどちらとも当たりが浅く男の体に弾き返された。

俺はそのまま男に胴を掴まれて空に掲げられた。


「おおおー。」


意味不明な声を上げている男に俺がナイフを付き立てようとした瞬間、ナイフを持つ手を掴まれた。


「逃げろ!」


メリは俺を掴んだ男を攻撃しようとして俺の手を掴んだ男とは別の女に肩を掴まれ動きを封じられた。


「村長並だ!くそっ。逃げろ!」

「うおおおおーん。」


俺とメリ以外は唖然として動けずにいる。

俺は足をバタバタさせて男を蹴るが体重の乗らない蹴りは全く意味を成さない。


「勘違いさせてしまったが俺達は敵ではない。」


俺は諦めて抵抗を止めた。

俺の手を掴んでいる男の話しを聞いた。


「俺達はタウロ開拓団の者だ。君達の村の村長は昔、タウロ開拓団に所属していたので君達が心配で見に来たんだ。」


俺は冷静になって辺りを見回すと修道女達も何人か見物していてベラもいる。

俺がベラを見るとベラは無表情に頷いた。

それを見て俺は体に力が抜けるのを感じた。


普通はもっとさ、場所を整えるんじゃないのかなあ。


「君を掴んでいるのは俺達の班のリーダーのスカードっていう奴なんだけど君達の村の村長とはいとこで、君達を見たら堪えられなくなったみたいだ。」


「おおおーん。ミュッケ村がスタンピートで壊滅したって言われて本当に心配だったんだ。けどあいつは子供たちをちゃんと守りきったんだなあ。立派な子供達だあ。お前達が居ればミュッケ村は滅んじゃいないよお。」


俺が男の肩に手を置くと男は感極まって余計に泣きはじめた。


「みなさん。外も寒くなってきたので積もる話しは教会の中に入ってからしてはいかがでしょうか。」


ベラの言葉で俺達はおずおずと教会へ入った。

俺は男に掴まれたまま運ばれた。


教会の食堂には豪華な料理が置かれていた。

グロウは料理に釣られてもうこの状況はどうでもいいようだ。


俺を掴んでいた男もやっと落ち着きを取り戻したがまだ泣いている。

そして仲間の女性に慰められている。


「リーダーがこんな感じだから副リーダーの俺、エノが進める。ミュッケ村の子供達が無事で本当に良かった。細やかではあるが宴を用意させてもらった。ミュッケ村の子供達に乾杯!」


小さい子供たちは俺達が着くのを待っていたのだろう。

すぐ食べ始めた。

食事の席にはセリナに支えられながらもエスタも参加している。


「エスタ大丈夫か。」

「ああ、無理はできないがとりあえずは大丈夫そうだ。タウロ開拓団の人に回復魔法をかけてもらったしな。」


ほとんどの子供が食べるのに夢中になっている中、エノが話し始めた。


「みんな食べながらでいいから聞いてくれ。今後の事についてだ。突然な話しではあるが、リーダーのスカードの強い要望によりタウロ開拓団ではお前達の内、年少者は望むなら受け入れようと思っている。この話しは町長にも通して了解を取っていて、お前達がエル村にも誘われていることは知っている。今回の受け入れは完全にスカードの独断なので全員は難しいというのが本音だ。説得次第では後から受け入れる可能性もあるが俺達個人で決められることではないからな。」


「これからお前達が取りえる道は三つある。1つ目、エル村に行く。 2つ目、タウロ開拓団の開拓村に来る。3つ目、自分達で生きていく。この3つになる。3つ目については一応日雇いをやれるように町長に頼むつもりだ。俺達は魔力の回復もあってあと数日はこの町に滞在するので各自、自分のこれからを考えておいてくれ。それと最後に一つ。年長者はタウロ開拓団には保護できないが正規の手段、入団試験を合格すれば所属できる。同じクラン員としてお前達と肩を並べることができる日を待っているぞ。」


今後の事かあ。

エル村は・・・・・・申し訳ないがないな。


スタンピートの事もあるしある程度自由に動きたい。

そうするとここで冒険者をしながらタウロ開拓団の試験で合格することを目標にするのが一番かな。


今回の事で俺はできるだけメリとラピアと一緒に居たいと思った。

俺の夢は生き残ることだから生きていればそれでいい。


メリの夢はそれなりに戦えて訓練できればとりあえずはいいだろう。

ラピアの夢は開拓団に行かないとかなり難しい。

後で3人で相談だな。


「今回のスタンピートとお前達の事を教えてくれ。」

「では、まず私が説明します。」


セリナが説明してくれるそうだ。

セリナはそういうのが上手いので助かるな。


完全に飯を食うことに集中しているグロウとは大違いだ。

俺達もあの後どうなったかは知りたいな。



セリナは語った。


ゴブリンの襲撃、ゴブリンの包囲を破っての村からの脱出、ゴブリンの度重なる追撃、その度に大人達がゴブリンを迎え撃った事。


スカードと呼ばれているリーダーはセリナの話しを聞いて感極まっている。


話しは進んでいく。


エル村に着いた事、村長が財産を運ぶために即時の移動を拒んだ事、町から伝令が来た事、逃げる事を選んだ村人達と共に町に向かった事、追撃が止んで一時の安堵を得た事、町への道の半ばでゴブリンの大群が迫ってきたこと、大人達が全員残ってゴブリンを足止めした事、残っていた強いゴブリンからの追撃をエスタが退けた事、町の光が始めて見えたときの事、なんとかギリギリで町に入れた事。


最初はスカードだけが前のめりだったが今ではタウロ開拓団の者達はみんな真剣に聞き入っている。


俺は時折セリナの説明に俺達の状況を付け加えた。


ミュッケ村から町に直接向かったこと、町に着いた事、伝令を出して状況が分かるまで不安だった事、城壁の上から彼らが来るのを待ったこと、地平線に彼らの光を見つけた時の事。


「私はその後エスタの看病で教会の中に居ましたが、ロッシュとメリは教会の外に出て教会を守っていました。」


そこでセリナの説明が終わった。


俺はその説明を引き継いだ。


ゴブリンが投げ飛ばされてきた事、町民が教会に押し寄せてきた事、強いゴブリンが少なくて助かった事、その場にいた兵士達と協力して教会を守ったこと、戦える子供が増えてきて休みながら戦った事、強いゴブリンが襲って来た事、突然ゴブリンの投擲が止んで警戒した事。


途中からスカードはまた泣き出した。

俺が一通り話しをするとエノが言った。


「俺達の状況を説明しよう。俺達は丁度、隣のグリエ町に居た時に伝令が届いたことを知った。自分で言うのはあれだが俺達はここらへんでは一番大きいクランだ。グリエの町長も俺達の腕を見込んで話しを持ってきた。話しを聞いたこいつ、スカードはミュッケ村と聞いて居てもたっても居られずに馬を借りて夜通し走った。しかし着いて見るとデロス町は大量のゴブリンに囲まれていてとても俺達が合流できるような状況ではなかった。そこで俺達はスタンピートのボスを倒すことに専念しようと決めた。特にゴブリンならボスを倒せば逃げ散るだろうことは今までの経験からわかっている。」


「俺達は二手に分かれて引き返して高い所からデロス町を観察する者とデロス町を包囲しているゴブリン達に気づかれないように偵察する者とに分かれた。その結果ボスの位置を把握した俺達はゴブリンに気が付かれないように大回りで背後に回って奇襲した。その時にゴブリンのボスが深手を負っていて自分が前に出られる状況じゃないのでゴブリンを投擲していたということがわかった。再生力の強いゴブリンが回復しきれない程の深手を負っているのを見て俺達は全力でボスに止めをさした。今にして理解したがゴブリンの群れはボスと最下級のゴブリンがほとんどだった。普通はボスから上級、中級、下級の種類のゴブリンがいるはずだが中級すらほとんど見かけなかったのはミュッケ村の者が倒したからだったんだな・・・・・・。」


子供達は小さいなりに大人達のすごさがわかったようだった。

スカードは終始泣きっ放しだったが子供達はそんなスカードの事が好きにやったようだ。


最後は子供達から励まされていた。


「全く。うちのリーダーが迷惑かけるね。」


エノが呆れて言った。


「いえいえ。最初は驚きましたけど俺達だけじゃ町長に話すのすら難しいのでありがたいです。」


「ああ。話しは変わるが最初の突進を下がって避けようとしたのはギリギリ良いとして肘打ちか膝蹴りどっちかにすべきだったな。片方だったらまだ良い当たりが出せる可能性が合った。次の機会があったらしっかり当てろよ。」


この人はスカードに苦労させられているんだな。

その後、宴は和やかに進んだ。


「2~3日後にお前達の今後について聞きに来るからそれまでに決めておけよ。」


酔いつぶれたスカードを背負いながらエノ達タウロ開拓団は去って行った。

俺はベラにさっき集めた金を渡そうとしたが断られた。


「タウロ開拓団の方から謝礼を受け取ったので今回はいいわ。」


今回はか・・・・・・。

節約できて良かったとしよう。


みんなにお金を返した後、俺達は疲れが出たのか今後について話しをせずに寝てしまった。


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