28話
「一回教会に戻るか。」
教会に戻ると人も負傷者以外はみんな元の場所に戻ったようだ。
入り口の顔見知りになった兵士に会釈して教会の中に入った。
負傷者達が並べられているが重傷者は居ないようで穏やかな空気が漂っている。
見かける修道女に会釈しながら俺達は奥に入った。
奥の部屋を見るとミュッケ村の子供達が何人か目を覚ましていた。
「みんな無事で良かったよ。」
俺達が入ってきたのを見ると子供達が嬉しそうに集まってきた。
「ウカリス、大丈夫だった?」
「ありがとう。大丈夫よ。」
ラコスはウカリスの方に一直線に向かっていった。
俺はラピアを探したがこの中には居ないようだ教会の仕事を手伝っているのかな?
各々が話し始めたのを見て俺はラピアを探しにいくことにした。
「俺はちょっとラピアを探してくる。それに今日もここに泊めてもらえるだろうけど、それなりに働かなくちゃならない。ゴブリンの死体はさっさと運んで燃やすなりして埋めないといけないからな。ということで何をしたらいいか聞いて来る。」
教会の上の人を探しに行こうとしたが立ち止まった。
「そういえばみんなは飯食った?」
「まだー。お腹減った。」
「うーん。そうか。メリとグロウ、子供達を炊き出しに連れて行って。まだ敵が潜んでるかもしれないから気をつけて二人の言うことを聞くんだぞ。」
二人が居れば不測の事態もなんとかなるだろう。
人攫いもさすがにこんな大勢を狙わないよな?
俺が誰に話しかけようかと思っていると丁度、老いた修道女を見つけた。
「ミュッケ村の者です。子供達を保護してくれありがとうございます。目が覚めた子供達は炊き出しに連れて行く所ですが他に何か手伝えることはありませんか?もしゴブリンの死体を移動させるなら場所さえ教えてくれればやります。」
「あなた達も教会を守ってくれたみたいね。感謝するわ。ゴブリンの死体の移動は明日になるから怪我人に与える食料をもらってくるのを手伝って。」
「はい。」
老婆は作業中の修道女を1人呼び出して話しかけた。
「この娘についていきなさい。」
さっき奥の入り口に居た女性の修道女だ。
「はい。よろしくおねがいします。」
「はい。これから町の食堂に行くので付いてきてください。」
俺達が教会から出る途中にラピアを見つけたので手を振った。
ラピアは俺に気が付いて微笑んだ。
俺は一応ゴブリンが出ないか注意しながら彼女の後を歩いていった。
「あのお名前はロッシュさんですよね。」
「はい。」
「私はリタって言います。私は見習いなので言葉使いは普通でいいですよ。」
「周りに人が居ない時はそうするよ。そっちも普通でいいよ。」
「うん。ロッシュはラピアと結婚してるんだよね?」
「そうだよ。最近結婚したばっかり。」
「へー。いいなー。」
「修道女って言ったら結構良い立場じゃないの?相手も教会関係者だろうし。」
「ラピアちゃん位の実力だったら選び放題なんだろうけど私はそんなに光魔法得意じゃないんだよねー。」
「ラピアはちゃんと働けてた?」
「ちゃんとどころじゃないよ。年上の治療師並みだったよ。私より年下なのにすごいなあ。ベラ様も顔には出さなかったけど驚いてたみたいよ。ベラ様っていうのはさっきロッシュが話してた人。」
「うちの村で腹に穴が開いたのが居たけど治療師に塞いでもらったよ。さすが治療師だな。」
「ここの町って結構お金あるから腕のいい治療師様がいるんだよ。今回のことで教会も存在感をしっかり示せたね!あっ。」
突然リタは立ち止まった。
「ここだよ。」
そう言うと食堂に入っていった。
「教会の者です。受け取りにきました。」
「こちらになります。」
中身がたっぷり入った大なべを俺達は受け取った。
匂いからしてわかる。
これはポリジだな。
『ありがとうございます。』
大なべを二人で持ってゆっくり歩き始めた。
「なんの話ししてたっけ?まあいいや。それよりロッシュ達はその歳で戦えるんだね。」
「小さい頃から訓練してるからな。」
「私が町に来てからスタンピートは一回も体験してなかったけど町の中まで魔物が来るなんて思わなかったよ。怖かったなあ。」
「近くにダンジョンがあるとしたら5年後にもまた来るからな・・・・・・。」
「あ、ごめん。ロッシュ達の村は大人の人達はみんな亡くなったんだよね。」
「ああ。悲しいが大人達が強い敵を倒してくれたからこの町もなんとかなった。これからの事はなんとかするしかないさ。」
「ラピアちゃんだったらすぐ治療師見習いから始めても大丈夫なくらいだよ。」
「俺は日雇いかなあ。冒険者学校に行く金がないし。」
「冒険者かあ。今回の事で冒険者は大変さがわかったから修道女で良かったよ。そうだ!今回、スタンピートのボスを倒したのはタウロ開拓団の人達らしいよ。運よく近くの町に来てたみたいで10人に満たない人数でスタンピートのボスに挑んでズバッと倒しちゃったみたい。憧れちゃうよねえ。」
「タウロ開拓団って有名なクランだよね。」
「そうだよー。ここらへんだと一番強くて大きくて勢いがあるクランだね。今回の事でまた名を上げたね。」
話しているうちに教会に付いた。
俺達は調理場に鍋を運んだ。
リタはまだ話し足りない顔をしていたが別の仕事に取り掛かった。
俺は奥の部屋に行ったが寝ている子だけでまだみんな帰ってきていないようだ。
俺は次の仕事を得るべく、ベラを探した。
忙しそうに動いている修道女にベラの場所を教えてもらった。
「眠っていた子供が起きたら食事を与えるので食堂に来なさい。次の仕事はそこの樽に飲料用の水を運んできて。教会の前の道を東に進めば井戸があるわ。これを渡せば水を受け取れるはずよ。」
「はい。」
俺はベラが書いたメモと背負う用の紐が付いた大きな樽を受け取った。
俺は言われた通りに教会を出て東を目指した。
さっき使った井戸とは別の井戸だ。
そろそろ日が暮れそうで風が一段と寒くなっている。
俺達年上の子供は自分で働けるだろうが小さい子供達はどうすればいいんだろうかと答えの出ない問いを考えながら歩いた。
井戸に着くとここにも数名の兵士が居た。
列も昼に比べるとほとんど無くなっている。
俺は最後尾について順番を待った。
「教会のベラ様の代理で飲料水を分けて貰いに来ました。これを見てください。」
俺はベラに貰ったメモを渡す。
「ふむ。本物のようだな。よし、樽を渡せ。」
俺は樽に水を入れてもらって担いだ。
樽が大きいので結構な重さだ。
あのばあさん、結構遠慮なく仕事を割り振るな。
この仕事は普通、大人の男にやらせる仕事だよとな思いつつ帰路に着いた。
教会に着くころには辺りは暗くなってきている。
教会にいた軽症者達はもう帰ったようだ。
教会には俺達ミュッケ村の者と不運にも今回のスタンピートで親を失った子供達と修道女しか居ない。
修道士達は臨時の治療院にいるようだ。
俺は水で満たされた樽を調理場に運んだ。
「ロッシュ、おかえり。」
「ただいま。」
ラピアが俺を見つけて声を掛けてきた。
「もう少ししたら夕食にするから奥に居る起きている子を呼んできて。」
「わかった。」
俺はそういうと奥の部屋を目指した。
「夕食だそうだ。みんな食堂に集合。」
『はーい。』
まだ泣き止まない子供が結構いるようだ。
特に町の子供は泣いていたり、放心している。
俺達はそんな子供達の手を優しく取って食堂へと連れて行った。
食堂に着くとポリジとコップに一杯の水が配膳された。
修道女達も席に着きベラの神の祈りをした後、食事が始まった。
「いただきます。」
俺達は食べ始めたがまだ泣いている子や放心している子には修道女が付いて食事を取らせた。
会話のない食事の時間が終わり食器を片付け俺達は奥の部屋に子供達を連れて行った。