26話
「グロウは大丈夫かな。飛ばされ方は綺麗だったから大丈夫だと思うけど。」
「私が休憩がてら聞いてくるよ。」
「お願い。」
ラコスは今さっき強いゴブリンと戦ったばかりなのにこの中で一番強いメリが休憩に入ると聞いて不安そうな顔をしている。
まだ何匹もいるかもしれないがだからこそ一番の戦力であるメリを休ませなければならない。
どうせ強いゴブリンが来たら叩き起こすから今の内に休んでもらおう。
メリはエル村の人達と話すと俺達に向かって両手上げて丸を作った。
俺とラコスは頷いて安心した。
しかし俺は違和感を感じた。
何かあるべき物がない感覚だ。
「ちょっと待った!」
休もうとするメリに向かって俺は自分でも驚くほどの大声で言った。
「え、また?」
メリは驚いて辺りを見回した。
俺は違和感の正体にやっと気がついた。
「ゴブリンの投擲が止んでるぞ!下手したら一番強いのが来るぞ。」
「メリ、休むのは無しだ。みんな!周囲を確認してくれ!」
俺の声が大きかったんだろう、兵士や冒険者達も若干怯えながら辺りを見回した。
城壁は・・・・・・みんな疲れ切っているが今の所変化はない。
「何か気が付いたことはないか?」
みんなはキョロキョロしているが変化を見つけられた者はいないようだ。
「あ、西の城壁の上でみんなが喜んでるみたい!」
西の城壁の上の冒険者と兵士達が手を上げて歓喜の雄叫びを上げ始めたようだ。
東と北と南の城壁にいる人は戸惑っているようだがみんな西が喜んでいるのを見つけて、気が抜けたような表情をしている。
「もしかして親玉を倒したのか・・・・・・?」
「城壁の上の人はもう誰も戦ってないみたいだよ。」
「なんだかわからないが終わったようだな。だが!町にはまだゴブリンが残っている。気を引き締めろ。」
俺はいつもの流れでついつい命令口調になってしまっていたが段々それが恥ずかしくなってきた。
逆にその余裕が出てきたって事なのかな。
俺がそう言うとみんなは持ち場に戻った。
その後、西門は歓声に包まれた。
スタンピートの核と言っていいボスが倒されたようだ。
ボスが殺されたゴブリン達は一目散に逃げ出したらしい。
これからデロス町一帯はゴブリンの被害で悩まされるかもしれないが当面の脅威は退けたと言っていいだろう。
歓声が一段と大きくなり西の城門が開いた。
教会の位置からは詳細はわからないがとにかく勝ったようだ。
最低でも半日以上は続くと思っていたが突然の敵の撤退に俺は少し違和感を感じた。
兵士と冒険者は安心したのか肩の力が完全に抜けている。
座り込んで寝始めた者まで居る。
城壁に居た兵士や冒険者が降りてきて町の中に残っているゴブリンを排除しはじめた。
一回だけ3匹のゴブリンが教会の敷地に入ってきたが俺達は油断なく倒した。
俺達はゴブリンの所持品を軽く漁った後、死体を端に寄せた。
その後は兵士と冒険者がゴブリンを追う声が聞こえ、昼を過ぎる頃に一応の終焉を迎えた。
俺は人知れず一息ついた。
俺達は生き残ったのだ。