25話
ついに朝日が見え始めた。
しかし状況はドンドン悪くなっているようだ。
城壁を越えて入ってくるゴブリンが出始めた。
兵士も冒険者も明らかに疲れてきている。
途中までは疲れた兵士や冒険者は交代していたが今となってはそれすらままらない。
町の中にはゴブリンの鳴き声がよく聞こえるようになってきた。
特に人が多くいる教会にはゴブリンが来る量が増え始めている。
少なくて1体、多くて4体のゴブリンが襲い掛かってくる。
教会を守っている兵士や冒険者にも疲れが見え始めた。
冒険者は防具が貧弱なのと相まって怪我人を出している。
俺達は彼らに混ざって教会の敷地に入ってくるゴブリンを狩った。
俺とメリはできるだけ戦わないようにしていたのでまだ大丈夫だが町に着いてほとんど休んでいないグロウに疲労が見え始めた。
敵も徐々に町に侵入していて俺達の体力も少しずつ削られてきている。
日が出てきて明るくなってきたのが唯一の救いだ。
「グロウ、一回休め。」
「まだいけるが、休むなら今しかないか。」
そういうとグロウはエル村の集団に向かった。
一言二言話すと中に入れてもらったようだ。
俺はそんなグロウを見て感心した。
エル村からの逃走劇を演じた彼らは固い信頼関係を結べたようだ。
「お腹すいたなー。」
メリはまだ言っている。
城壁を登ってきたゴブリンは民家を漁ったりして物を持っている時がある。
狙うとしたらそれくらいだな。
都合よく食い物を持っているといいなあ。
俺はそう思いながら進入してきたゴブリンを倒す。
倒した後に持ち物を探るが価値のある物は持っていなかった。
そんなことを何回かしていると銀貨を数枚手に入れることが出来た。
俺は嬉しいのか嬉しくないのか微妙な気分になったが一応懐に回収しておいた。
進入してくるゴブリンがまた増えていてる。
兵士と冒険者は完全に疲れ切っているようだ。
俺は彼らに2回に分けて休むように言ってメリと二人で今までより積極的にゴブリンと戦った。
普通のゴブリンならメリと連携しないでも大丈夫なので俺とメリは二手に分かれて教会の敷地に入ってきたゴブリンを左右から挟みこむように戦った。
俺は槍を振り回せるので豪快に振って足や胴体に切りつける、俺に注意が向いたゴブリンにメリが止めをさす。
そうやって戦っていると休憩を終えた兵士と交代した。
兵士と冒険者も慣れてきて危なげなく戦えるようになってきた。
そのまま安定して俺達は病院に来るゴブリンを撃退した。
しばらくするとエル村の方に動きがあった。
俺が見るとグロウが丁度起きたようで眠気眼でよたよたこっちに来た。
「エル村の人からもらった。」
そう言って俺達の手に干しぶどうを置いた。
俺達は水を飲む振りをしながら味わって食べた。
エル村の人達は良い人達だな!
俺達が休憩していると教会から人が出てきた。
ラコスだ。
ラコスは教会から出ると心配そうにキョロキョロしていたが俺達を見つけて嬉しそうに駆け寄ってきた。
その手には剣が握られている。
「ラコス戦えるのか。」
「う、うん。他のみんなは魔力切れでまだ寝てる。俺は強化しか使えないから最後に魔力使いきらなかったから寝たら動けるようになった。」
「ラコスが居れば心強いな。」
「あと、セリナがごめんって。」
「いいっていいって。それはエスタの剣だろ?ちゃんとみんなを守ろうぜ。」
「うん!」
ついでにラコスに水筒を渡す。
ラコスは焦りながら水を飲んだ。
「うーん。休むなら今だけどメリ休む?」
「私まだいけるけどロッシュは?」
「俺もまだ大丈夫だなあ。けど少し休んでおくか。」
「休むならエル村の人達の所で休ませてくれるぜ!」
グロウが言った。
「せっかくだからお世話になるか。」
俺はエル村の集団に向かった。
「すいません。休ませてもらえますか。」
「どうぞ。守ってくれてありがとうねえ。」
「いえ。さっきのあれ、ありがとうございました。」
俺がお礼を言うと村人達は嬉しそうだ。
奥のほうにスペースを空けてもらい膝を抱えて寝た。
外は寒かったが俺の周りは汗臭かったが暖かかった。
ふと目が覚める。
エル村の村人達にお礼を言い、メリ達に合流した。
「俺はどれくらい寝てた?」
「2~3時間位かな。」
「そうか。次はメリどうぞ。」
「私も一応休んでおくかあ。」
メリが伸びをしてエル村の集団に向かう。
その時、何かが素早い動きでグロウを襲った。
グロウはなんとか反応して槍で防御体勢を取ったがそのまま数メートル吹き飛ばされた。
「グロウ!」
吹き飛ばされたグロウは気を失ったようにぐったりしている。
グロウを吹き飛ばしたのは普通のゴブリンより一回り大きいゴブリンだった。
村に最初に到達した足の早いゴブリンだろう。
ゴブリンはグロウを吹き飛ばすとその勢いのまま、教会の入り口に集まっている人混みに飛び込んだ。
メリが踵を返して殺気を放つ。
「待て!確実に一撃入れるぞ。」
ゴブリンに切り込もうとしていたメリが一旦止まってすごい目で俺を睨みつけた。
「ラコスは魔力が少ないから広い場所で待機。俺とメリで混戦を利用してできるだけ削るぞ。俺達はできるだけ目立たないように他の人に紛れる。俺達に襲い掛かってきたらラコスがいる場所に誘導する。その後は俺とラコスで隙を作ってメリが倒すんだ。西の空も気をつけよう。」
ラコスは暴れているゴブリンを見ながら何度も頷いた。
メリも少し落ち着きを取り戻してきたようだ。
グロウはただ気絶しているだけのようでカタロさんがグロウをエル村の集まっている場所に運んでいる。
俺達は殺気を消して人混みに紛れ、暴れているゴブリンに近付いた。
教会前は阿鼻叫喚の状態になっていて兵士や冒険者達も動き回るゴブリンを捕らえられずにいる。
俺達は注目されないように、人混みに飲まれて動きを制限されないようにゴブリンに近付いた。
ゴブリンに近付くとメリが一瞬俺を見た。
俺はメリの合図を理解して強化を使って切り込んだ。
周りにまだ人が多いので俺は一番当たり易い胴体へと槍を一突きした。
ゴブリンが俺の突きを受けて俺に注意が向いた瞬間、メリが切りかかった。
メリの一撃はゴブリンを深く切り込み血が溢れ出た。
俺は急いで槍を引き戻すとゴブリンは棍棒を大振りに俺を狙ってきた。
ゴブリンはメリにも攻撃しようとしたがメリは既に距離を取って逃げ惑う群衆と共に動いている。
ゴブリンは怒りの形相でわかりやすい俺の方へ向かってきた。
できればもう一回位奇襲が出来ればよかったが一回でこちらに注意が向いてしまった。
俺は残念に思いつつも左右に動きながら徐々にゴブリンを人が少ない広めの場所に移動した。
俺は自分が攻撃する事を諦め、ゴブリンの正面に牽制の構えを取った。
ラコスが待機する場所に誘導が終わったので俺とラコスは南側に左右に分かれてゴブリンの行動範囲を狭めた。
メリは北側を陣取って決定的な隙が生じるのを待っている。
西からゴブリンが飛ばされてくるのでかなり神経を使わなければならない。
消極的な俺と体の大きいラコスではゴブリンは次第にラコスの方に集中し始めた。
俺とラコスは押されてはいるがゴブリンを釘付けにしているので兵士や冒険者もゴブリンの囲いに参加した。
俺とラコスが中々崩せなくて苛立ってきたゴブリンは時折俺達以外に攻撃を加える。
兵士は何とか囲いを維持できているが冒険者は攻撃が来るたびに崩れてせっかく維持していた囲いがやぶられてしまう。
しかし動けなくならないだけましではある。
防御優先の為、メリが攻撃して以降、まともなに攻撃は成功していない。
浅い傷は付けられているもののゴブリンにもまだ余裕がある。
俺達への注意も段々薄れてきて攻撃が俺達より弱い冒険者に向かい始めた。
一撃離脱を繰り返していたゴブリンだったが冒険者が崩れたのを見て止めを刺そうと棍棒を振り上げた。
今だ!
俺とラピア、ラコスは全力でゴブリンへと突撃した。
俺は再び腹に槍を突き刺した。
本当は腕を狙いたいのだが突く攻撃では点を狙うことになるので腕に攻撃しても最悪弾かれる可能性がある。
メリは一撃では倒せないと悟り、ゴブリンの足を切り払いゴブリンの丸太のような足を折った。
俺とメリに遅れて体勢が崩れて回避できないゴブリンに向かってラコスが上段から頭を狙って切りつける。
ゴブリンは反射的に俺達をなぎ払った。
しかし頭への一撃と足が折れた事でその一撃は精彩がなく、俺が受け止めた。
棍棒での一撃を防がれたゴブリンは足掻こうとしたがメリが一閃して首をへし折った。
ゆっくりと倒れこんだゴブリンの腕を俺は突き刺してメリに目配せをした。
メリは頷いて首を完全に切り離した。
ふう、俺は気が抜けそうになるのをなんとか押さえ込んで再びいつもの待機位置に戻って西を見た。
ゴブリンに止めを刺されかけた冒険者は運よく肩を砕かれた程度で済んだようで同じ冒険者によって教会へ運ばれた。
兵士達は動かなくなったゴブリンを重そうに教会の端へと移動した。
それが終わると教会前で呻き声を上げている町人を教会へ運んだ。