24話
教会に付くと負傷者が増え始めている。
ラピアは負傷者に回復魔法をかけているようだ。
メリは重傷者を運んだり包帯を運んだりしている。
「強いゴブリンが町の中に入ったぞー!みんな気をつけろ!!」
「ドカッ。」
それと同じくして重いものが投げ込まれたような音がした。
「ゴブリンが飛んできたぞ!逃げろ逃げろー!」
「うわー!」
俺が外に飛び出すと黒い影が飛んでくるのを見た。
ゴブリンだ。
ゴブリン達が投げ飛ばされて町中に入っている。
しかし無理やり投げられているのか着地が上手くいかず死んでいるゴブリンもいる。
ゴブリンが侵入したことで街中は混乱に陥った。
俺は教会に入って告げた。
「メリ。行くぞ!」
呼ばれたメリは獰猛な笑顔を貼り付けて俺を見た。
「わかった!ラピア、ここはまかせたよ!」
「わ、私も。」
「ラピアは回復に専念してくれ。あと子供達もまかせた。俺達は教会に敵が入らないように守る。」
ラピアが回復していた所を見ると、臨時の治療師として受け入れられているようだ。
ラピアの抜ける穴は大きいがラピアが負傷することが俺達にとって一番の痛手だ。
俺は眠っているエスタの所に行った。
セリナはエスタの手を握って不安そうにしている。
「セリナ、エスタの剣を貸してくれ。」
セリナはハッとするとエスタの剣を大事そうに抱えた。
「駄目!これはエスタの剣よ!」
「そうか。」
俺は剣を諦めた。
セリナの痛ましい姿を見るとこれ以上言うのは可愛そうだな。
「町の中にゴブリンが入ってきている。俺達は教会を守るが中に進入されたら子供達を守ってくれ。」
俺はそういうと踵を返した。
慣れた片手剣のほうが良いが贅沢言ってられない。
俺が剣を持ってグロウに借りた槍を貸せれば最高だったんだが・・・・・・。
普通のゴブリンなら大丈夫だが強いゴブリンが来た場合はメリになんとかしてもらうしかない。
できるだけメリの装備は充実させておきたい。
さっきまでは負傷者と修道女が占めていた教会に一般市民が大挙して押し寄せた。
入り口に待機していた兵士と派遣された冒険者達は町民を抑えようとするが恐怖に駆られた町民達は我先にと教会へ駆け込んだ。
俺はこれは逃げられないなと思いつつ覚悟を決めた。
俺はメリに近づいて囁いた。
「俺達が生き残ることを最優先で行くぞ。強いゴブリンが出たら他の奴を囮にして隙を作って倒す。普通のゴブリンは自由で。2人で固まって動くぞ。」
俺がそう言うとギラギラとした目でメリが俺を見つめた。
俺はその目を正面から見つめ返した。
少し見つめあったが一応は納得したようだ。
「わかったよー。もー。」
「俺達がもっと強ければもっと好きなことができた。けど今の俺達はまだ弱い。あと半日は確実に戦い続けなくちゃならないんだぞ。」
教会に押し寄せる町民の波を逆行していると俺は気が滅入って来た。
教会の外に出ると町民達が群がっている。
これは全部収容できないな。
エル村の村人達はこの様子を見て怯えて教会の敷地の隅に固まっている。
人が群がっている限り教会にはゴブリンが侵入することは難しいな。
守りながら戦うのは難しいのでこれはこれで良い状況だと思った。
彼らには教会の入り口で壁をしていてもらおう。
町民がみんなで木の棒でも持てばゴブリンくらいならなんとかなるのにと思いつつ、隅で怯えているエル村の村人達に話しかけた。
「俺達はこれから教会に敵が入らないように守ります。ここから移動するのは難しそうなのであなた方は荷物を盾にして一箇所に集まっていてください。声を上げてくれれば余裕がある時は助けます。」
エル村の人達は小さい子から大人、そして老人までの人間がいる。
子供と女を一番奥に移動させて大人の男達が外側に配置した。
荷物などを一番外に置いて守りを固めた。
数人の男が棍棒を持っているのですぐに崩れることはなさそうだ。
「すまないがゴブリンが来たらよろしく頼む。」
『はい。』
エル村の住民の態勢が整ったので俺達は教会に入ろうとしている群衆から少し離れた位置に移動した。
「強いのが来ないといいな。」
俺は西から飛ばされてくるゴブリンを眺めながら言った。
「これだけ大勢で騒いでいるとゴブリンにここに居るよって言ってるのと同じだよね。」
メリは呆れながら言った。
俺達がゆったり話しをしていると黒い影が飛んできた。
飛んできたゴブリンは上手く着地ができず転がっている。
しかし体勢を立て直すと大勢居る人間を見て嬉しそうに襲い掛かろうとした。
俺は落ち着いて武器を持っている腕を狙って突き刺した。槍はゴブリンに突き刺さりゴブリンが悲鳴をあげようとした時に首が飛んだ。
俺は基本的にメリのアシスト役で行く。
槍は1人なら振り回したりするのも有効的だが連携するには突き中心の小さい動きが安定しているな。
剣があれば剣と盾で囮をやれたんだが・・・・・・。
飛んできたゴブリンを見て群衆は悲鳴を上げたがすぐに止んだ。
俺達は倒したゴブリンを教会の敷地の端に蹴って寄せた。
持っていた武器はエル村の村人が固まっている場所に投げた。
村人はそれを受け取って武装した。
「椅子がほしい。」
俺が西の空を見ながら言った。
「私はお腹が減ってきたなあ。」
入口に居た冒険者と兵士もこのままでは何も出来ないと悟り、教会の入口を諦めて群集から離れた位置に移動した。これで彼らも次のゴブリンが来たら戦ってくれるだろう。
教会の入口を占拠している町民だったが怪我人が来た時だけは大人しく怪我人を教会に入れていた。
「誰か助けてー!」
「うわああ!」
教会の近くで叫び声が聞こえた。
兵士と冒険者は話し合い、冒険者が助けに行くようだ。
「助けに行かなくていいの?」
「いいの。」
メリは敵が少ないことにご不満の様子だが持久戦となればそんなに最初っから全力を出していられない。
それにいくらライトで照らされているとは言え、物陰は必然とできる。
夜は俺達の時間ではない。
今は耐えるのみだ。
強いゴブリンが少なさそうなが唯一の救いだな。
俺達が村で見た一際大きいゴブリンもいない。
俺が見た範囲ではゴブリンの大きさは3種類あった。
普通のゴブリンと普通より一回り大きいゴブリン。
最初に見た一際大きいゴブリンは普通のゴブリンの2倍以上の大きさだった。
俺達がなんとか戦えるのは一回り大きいゴブリンまでだ。
一番でかいゴブリンが来たら俺達じゃ絶対に勝てない。
逃げる事すらできないかもしれない。
もしあいつが生き残っていたらこんなに落ち着いていられないな。
強いゴブリンが多ければ城壁の上の兵士達はすぐに殺されるだろう。
しかし城壁の方はまだこちらが押しているようだ。
強いゴブリンの多くはミュッケ村の大人達が倒してくれたのだろう。
そう思いたい。
スタンピートのボスは一向に状況が好転しない事に痺れを切らせてゴブリンを投げ込んできたのだろうか。
避難してくる町民も増えているが後から来る町民は背中に荷物をたくさん背負い込んでいるので余計に邪魔になっている。
投げ込まれたゴブリンに直撃するのが一番怖いので戦う時も常に西の空に注意しておかないといけない。
人はまだ増えてきているので戦う場所すらこのままでは狭くなるんじゃないかな。
そんな心配事をしていると教会の敷地にゴブリンが入ってきた。
兵士達が慌てて対処する。
兵士は最低でも皮鎧を着ていて武器はほとんどが槍か片手剣と盾だ。
中には鉄の鎧を着ている者もいたがそれは少数だった。
兵士達は慌ててはいるものの危なげなくゴブリンを倒した。
恐慌状態に陥っていた町民達もそれを見て少し平静さを取り戻したようだ。
そこにグロウ達が戻ってきた。
俺達は手を振る。
「ロッシュ、無事か。」
「ああ。そっちもな。」
「避難場所を聞いてきたが今はそれ所じゃない感じだよな。」
「ここは人が集まりすぎてるからあんまり人が多い場所じゃなければいいかもな。俺達は子供達がいるから教会から動けないが。」
「グロウ、この槍を貸してあげるよ。ただ借り物だからちゃんと後で返してね。」
「やった!お、結構良い槍じゃん。」
メリが借りていた分の槍をグロウに貸した。
グロウは持っていた木の棒をカタロさんに渡した。
カタロさんは村人達が集まっている場所に移動すると話しを始めた。
「強いゴブリンが来たら回りに囮にして戦うぞ。俺達は絶対生き残る。」
俺はグロウに囁いた。
グロウは葛藤していたようだが、それを飲み込んだ。
「二人には敵わないし、ロッシュの言う通りにするよ。できればエル村の人も守ってくれ。」
「それは、もちろん。」
良かった。
これで反発されたら戦いにくくなっていたな
。村長の娘はグロウの方を見ている。
グロウはそれに気が付いて話しに言った。
エル村の村人達はとりあえずここに残ることを決めたらしい。
「メリさん、ロッシュさん、グロウ君お願いします。」
「呼び捨てでいいですよ。できる限りはがんばります。」
村長代理のカタロさんは丁寧に言うと娘と一緒にエル村の集団に合流した。
娘を奥のほうに入れて自分は戦うようだ。
その後何度かゴブリンが飛んできたが俺達は無傷でゴブリンを倒すことが出来た。
ゴブリンが持っていた棍棒はエル村の人達に与えた。
他の避難している住民に棍棒はいるか聞いてみたが求める人はいなかった。
棍棒があったら戦わなくちゃならないからなあ。
「グロウ、一旦休憩しておくか?」
「いや、いい。俺はエスタと違って少ししか戦わなかったからな。それより腹減ったよ。」
「私も!」
メリが元気よく合意した。身軽なら食べ物探しにいっても良かったんだが生憎ここから離れられないからな。
夜に黒パンとスープを飲んだとグロウに言えば恨みがましい目で見られてしまうだろう。
「水は飲むか?」
「飲む!」
俺は詰め所で水を補給した水筒をグロウに渡した。
グロウは美味そうに水を飲んだ。
俺は西の空を見つつも城壁の上を見た。
兵士と冒険者は未だ戦い続けている。
全方位から攻撃を受けているようだが攻撃の手は止まない。
空が白み始めてきた。
援軍が来ても町がゴブリンに囲まれてるんじゃ助けようとして自分達が全滅する羽目になってしまう。
敵の数がどれくらい残っているのか知りたいな。
一時は教会の入り口に集まっていた群衆だがもうこれ以上は入れないと悟るとエル村の村人のように敷地内の隅に固まり始めた。
入り口にまだ残っている人もいるが回りに人が居なくなって心細くなっているようだ。
ゴブリンは未だ投げ続けられていて終わる気配はない。
ゴブリンが教会の敷地内に入ってくるが兵士と冒険者によって倒された。