23話
「伝令!状況を確認してこい!」
ミデンの声が響いた。
城門が開かれ、伝令がライトを伴って躍り出た。
俺は手を握り締めながらその光景を見ていた。
ラピアは両手を握ってまるで祈るように光を見ている。
地平線から見えた光は徐々に大きくなっている。
地平線からの光とこちらから向かった光が徐々に近づいている。
みんな生き残っていてくれ。
俺は強く願った。
光と光が交わる。
光は併走した後、片方の光は西へもう片方の光はこっちに向かってきた。
先頭の人間が見え始めた。
ラコスだ!
ラコスがウカリスを背負っている。
ウカリスはライトを唱えているが光と相まって青白い顔をしている。
俺が飛び出していきたくなる感情を抑えていると伝令の光が戻ってきた。
伝令の光はラコス達を追い越すと一目散にこちらに駆けてくる。
俺は嫌な予感がした。
伝令が到着すると町の中に駆け込んだ。
「ひ、避難民の後ろ1kmもない地点にゴブリンの大群を発見!どんどん避難民に迫っています。」
多くの者達が不安そうにミデンを見た。
「城門は開けたままだ!避難民をギリギリまで待つんだ!」
俺はほっとしたが予断は許されない。
ラコス達はドンドン近づいている。
後ろの避難民の顔も暗いながら見え始めた。
ミュッケ村の子供達だ。
子供の多くは大人に背負われたり年上の子供に抱えられたりしている。
しかし、ミュッケ村の大人達は居ない。
知らない大人達だけが残っている。
俺は足から力が抜けていくのを感じたが踏ん張った。
ラピアは事態を察したのだろう。
避難民を見ているが涙は止まらないようだ。
「強いライト行きます!ライトを直に見ないようにしてください!」
俺はそういうと手と手を合わせ内側に空間を作った。強いライトをそのまま作ってしまうと目が眩んでしまう。
手の内側に強いライトを発動させ光が洩れないようにゆっくり両手を上に上げる。
少しずつ手の平を解いていくと強い光が洩れ始めた。
俺はそのままライトを高い位置に設置した。
「ラピア、もういいぞ。みんなが来たら回復しないといけないだろ。」
俺がラピアの肩に手を置くとラピアはハッと我に還った。
ラピアは自分のライトを消して明るくなって見えやすくなった西を見直した。
それは黒い塊、ゴブリンの大群だ。
避難民達はみんなボロボロで死に物狂いで走っている。
「急げ!走れえ!」
俺は大声を上げた。
「走れえええええ。」
「もう少しだ!」
よく見るとゴブリン達は避難民のすぐ傍まで来ている。あと100mもないかと思った瞬間、魔力の発動を感じた。
風魔法が一閃した。
先頭のゴブリン達は一斉に転んだ。
その後避難民の一番後ろに土の壁が沸いた。
土壁は50cm程度の物だが横に広く避難民を包むように展開された。
しかしゴブリン達はそれを見ても気にせず突進してきた。
ゴブリン達が土壁に到達し、壁を飛び越えた瞬間火と水と風魔法が放たれた。
ゴブリン達は魔法の直撃を受けて吹き飛んだり倒れたりしている。
後続のゴブリン達はそれらが邪魔で避難民との距離を縮められずにいる。
俺達は見ていられずに城壁から降りて城門でみんなを待ち構えた。
俺達は両手を振って檄を飛ばした。
そしてやっと先頭のラコスが城門を潜った。
エル村の避難民達も続々門を潜っている。
ミュッケ村の年上の子供達は殿でゴブリンを足止めしている。
ゴブリン達の大群は横に広がってきていて、今まで程足止めの効果が出なくなっている。
「早く逃げろー!」
「みんな町に入ったぞ。後はおまえ達だけだー!」
ミュッケ村の子供達はそれを聞くとフラフラしながら城門に駆け込もうとする。
しかし魔力が付きかけて速度が出ない。
このままだと追いつかれる!
俺はみんなを回収しようと強化を使って飛び出そうとした。
そう思った時だった。
「魔法打てー!」
ミデンの号令と共に魔法の攻撃が開始された。
城壁から攻撃魔法を受けたゴブリン達は子供達に触れることなく吹き飛んだ。
俺とメリは外に出て残っている子供を急いで回収した。
「全員入ったぞ!」
「閉門急げー!」
力任せに子供を引きずって門の内側に運び込んだ。
門が徐々に閉じられていく。
ゴブリン達が押し寄せるが城門が閉じられるのが先だった。
「みんな大丈夫か!」
「大人が強いゴブリンが来るたびに足止めに残って!みんな俺達の為に!」
何人かの子供は魔力切れで気を失って倒れた。
残りの子供達も安堵からなのか泣きはじめた。
「エスタが怪我をしているの。誰か回復お願いします。誰か回復お願いします。」
回復魔法を使える者がエスタを囲んで回復し始めている。
エスタはボロボロで血だらけになっている。
腹部からも血が湧き出している。
それでもエスタの顔に浮かぶのは悔しそうな表情だけだ。
「親父達が・・・・・・。俺の力が足りないばっかりに!」
「お前はよくやったよ。子供達はみんな無事だ。」
「そうか。無事か良かった。」
そう言うとエスタは気を失った。
「エスタ!エスタ!」
セリナがエスタに縋り付いて泣いている。
「俺達も回復魔法使えます!」
『ヒール!』
俺とラピアは回復魔法を使っている大人達に混ざってエスタへの回復魔法を唱えた。
エスタの腹に空いた孔が徐々に塞がって行く。
「腹部以外に大きな怪我は?」
「お腹以外は大きな怪我はないです!」
腹の傷が塞がったのを確認した後は体中を一通り検査したがそこまで大きな怪我は無かった。
「とりあえず治療はこれまでだ。これから怪我人がいくらでも出てくる。魔力を温存しろ!」
回復魔法を先陣に立って使っていた治療師が言った。
「この子は教会へ運ぶ。」
「他に重傷者は居ないか?」
「他に居るのは軽症者です。」
「よし、私達はそこの建物を臨時の治療院にしている。」
「負傷者が出たらそこへ運べ!」
そういうとエスタを運ぶ人達以外は治療院に戻っていった。
城壁の上では戦闘が始まっている。
城門の扉がゴブリン達の攻撃でミシミシいっている。
しかし扉一枚に付き3人の兵士がついて扉に強化を使っている。
扉はまだ大丈夫そうだ。
「ミュッケ村の子供も一緒に一旦教会に行こう。」
俺とメリは倒れた子供や泣いている子供できるだけ担いだ。
ラピアはエスタが重症を負って泣いているセリナの手を取って話しかけているようだ。
「動ける子は動けない子や泣いてる子を助けてやれ。」
「あの、すみません。」
俺達が移動を始めようとすると声がかかった。
「私達はエル村の者です。私達はどこへ行けばいいのでしょうか。」
みんな自分の持ち場が忙しいらしく無事だった人間に裂ける余裕はないらしい。
「とりあえず私達と一緒に教会へ行きませんか?教会に入れなかった場合でも人が多く居る場所のほうがいいでしょう。その後、エル村の村長さんには町長さんに直接会いに行けばいいと思います。」
「はい、そうします。」
そう言うと俺達は教会へ向かった。
エル村の女性陣が泣いている子供達の手を引いてくれたので助かった。
教会に付くと修道女がエスタを床に寝かせた。
これから細かい治療が行われるようだ。
俺は立場が上のような老いた修道女に声をかけた。
「私達はミュッケ村から逃げてきた者です。子供の数が30人位居ます。あとエル村からの避難民が40~50人居ますがどこに避難すればいいのでしょうか。」
「子供達は教会で保護するわ。エル村の避難者は一旦町長に相談しなさい。」
「わかりました。ありがとうございます。」
俺は教会から出てエル村の人とミュッケ村の子供達にそのことを伝えた。
「子供は教会で保護してもらえるそうです。エル村の方は数も多いので村長さんが町長さんに相談してください。」
「みんな、修道女さんに迷惑をかけないように大人しくしてるんだぞ。」
俺はそう言ったが子供達は疲労困憊でみんな地面に座り込んでいる。
「メリ、ラピアお願い。」
メリとラピアは子供達を教会の中に連れて行った。
これで子供達は一先ず大丈夫だろう。
「ロッシュ、おまえも元気そうでなによりだ。」
「グロウ。お前が無事で良かった。」
俺はグロウに軽くに抱きついた。
「おいおい。止めろよ。お前らしくないな。離せよ。大丈夫だよ。」
グロウは戸惑っているが目が潤みそうになっている。
俺はグロウの背を強く叩いた。
「心配したんだぞ。良かった。」
「ああ、子供達だけになって強いゴブリンが追ってきた時は死ぬかと思ったけどエスタがなんとか追い払ってくれた。」
「だからあんなに怪我してたのか。」
「ああ、すごかったぜ。」
「あのいいでしょうか。」
俺達が話しているとエル村のさっきの大人が話しかけてきた。
「実は村長は村に残っていまして・・・・・・。ここには普通の村人しか居ないんですよ。」
「そうだよ。聞いてくれよ、ロッシュ。エル村の村長は欲かいて財産運び出すからまだ出発するなとか言ってきたから無視して村を出てやったぜ。」
「そうですか。それではあなたが村長代理でお願いします。」
「そうだよ。カタロさんがやるのが一番だって。」
村人のほうを見たが疲れ果てて、それ所ではなさそうだし異論もなさそうだ。
「お父さん。みんなが休む場所がないからとりあえず村長代理やったら。」
「私が村長代理など・・・・・・。けどわかりました。今だけ村長代理をやります。」
「では俺も一緒に行きましょう。と言っても一度も町長の家に行ったことないので方角だけしかわかりません。」
「はい。」
俺は村長代理の人を連れてライトの強い光を頼りに町長の家に向かった。
何故かグロウと村長代理の娘も付いてきたが気にしないでおいた。
それっぽい建物を見つけると表に兵士が立っている。
「すいません。ここが町長様のお宅でしょうか。」
「そうだ。お前達は何者だ。」
「私達はエル村から逃れてきた避難民です。私が村長代理として避難場所を教えてもらおうかと思いまして・・・・・・。」
カタロさんが兵士と話している。
「俺は先に教会に戻ってるよ。グロウも気をつけろよ。」
「わかった。」
俺はその場にグロウ達を置いてさっさと教会に戻った。