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22話


それからどれだけの時間が経ったかはわからないが周囲が騒がしくなってきた。


俺の意識が徐々に覚醒してきた。

メリは完全に眠っている。

ラピアは目を閉じているが緊張しているようだ。


「ドンッ。」


部屋の扉が勢いよく開けられた。


「早馬からの情報でエル村にミュッケ村の避難民が到着しているようだ。子供達を休憩させた後こちらへ向かうらしい。」

「はい。」


「ゴブリン達は避難民を襲う群れと村を襲う群れで分かれたらしいが追撃する数が多かったらしく多くの護衛が足止めの為に残ったそうだ。村に着いた護衛は10名だ。ゴブリン達はまだ追ってきているらしい。」


俺達は背筋が凍った。

体温が一気に奪われる錯覚に襲われる。

足の力が抜けそうになるのを堪えてた。


「くそ!」


メリが叫んだ。

俺は凍える体に熱を与えるように深呼吸をした。


「近くの町に応援を要請したが早くても応援は明日の朝になる。今夜が山場になるぞ!」


ミデンは犬歯を剝き出しにして吼えた。


「私達は二人に光属性の適性があります。正規兵の負担を減らす為に夜間のライトを使いたいのですが!戦闘は武器がないので難しいです。」


メリが体を乗り出そうとしたが俺は目で止めた。

俺は悲しみに囚われないように心を怒りで満たした。

ミデンは俺達のほうを改めてみる。


「ライトはどれくらい使える?」

「弱いライトなら体から離さなければ一日は使えます。周辺一帯を照らす大きさとなると二人で交互に使って数時間です。規模を限定すれば朝まで持つかどうかといったところです。」


ミデンは少し考えているようだ。


「わかった。西門の城壁でライトを使うことを許可する。敵襲は早くても夜間になるので敵襲が来るまではライトは弱くていい。敵襲が来たら強めのライトを設置した後下がっていい。」


「はい。出来れば護身用に武器を貸してください。剣と槍が使えます。」

「それも許可する。人をやるのでこの部屋で待機していろ。」


『はい。』


そういうとミデンは足早に去っていった。


「私は戦えるのに。」

「いざとなったらこの町も捨てて逃げなくちゃならない。その時にメリが怪我をしていたらそれすらできなくなるぞ。俺はミュッケ村のみんなが助かるならこの町を犠牲にしても良い。というよりここで俺達ができることはライトをしっかり使うことだ。駄目そうだったら逃げる!」


ラピアは俺の意見に同意しかねるようだ。

だが口には出さなかった。


少し待っていると他の兵士が入ってきた。


「付いて来い。」

『はい。』


俺達は兵士の後を着いて行った。


「お前達に槍を貸す。戦いが終わったら必ず返しに来るように。」


俺達は一人一本槍を借りた。

大きさは大人用なので大きいが槍の使い方を習っていたので問題なく使えそうだ。


「これからお前達を西門の城壁に連れて行く。そこで面通しをする。その後はお前達は現場の兵士に従え。敵襲が来たらライトを設置して避難していいとのミデン様からのお言葉だ。」

『はい。』


ライトを設置したら避難していいのは助かるな。


俺達が詰め所から出ると人が慌しく移動している。

すでに情報は行き渡っているようだ。


デロス町にはダンジョンがあるのでしっかりした装備の冒険者もいるようだ。

冒険者達は同じ方向に向かっているので参加は強制なのかもしれない。


町中を眺めていると西門に到着したようだ。


「こっちだ。」


俺達は城壁に上がる階段を上った。

高いところから見る風景は遠くまで見えていいものだな。


「今後はこのボボロの指示に従え。」

『はい。』


「俺はボボロだ。お前たちはライトを使うだけでい良から余計なことはするなよ。暗くなるまでここで待機しておけ。」

『はい。』


ボボロはそういうと自分の位置に戻っていった。

俺は町の外を一通り眺めた後、町の中を眺めていた。


怒りと悲しみが渦巻いていた心がやっと少し持ち直してきた。

今やれる事をやろう。


冒険者ギルドらしき場所に冒険者であろう人達が集まっている。

ほとんどの者が軽装で皮鎧すら着ていない人の方が多い。


武器も貧弱で今借りた槍のほうが良い武器だ。

ゴブリンの数が多く、篭城戦になるだろうから人手が多い分には良いか。

俺は冒険者達の事は深く考えないことにした。


俺はメリとラピアから少し離れて軽く槍を振ってみた。


槍は鉄製の単純な作りで先端に刃が付いている。

俺の手には若干大きすぎるがしっかりとした作りで町の裕福さがわかる。

俺が軽く槍を振っているとメリが近づいてきて槍を振り始めた。


「あんまり本気を見せるなよ。俺は手に馴染むか軽く振ってるだけだからな。」

「わかってるよー。」


「思ったより良い槍使ってるな。あそこに見える冒険者達に比べると雲泥の差だ。」


俺は冒険者ギルドらしき方向に視線を向けた。


「あれが冒険者かあ。貧相な格好してるね。」

「俺達が言える台詞じゃないぞ。俺達は裸一貫だぞ。」


俺は軽く振ってからラピアの元に戻った。

メリは興が乗ったようでまだ振り回している。


他の兵士がチラチラこちらを伺っているが話しかけてくる者は居なかった。


「メリ、俺は寝てるから暗くなったら起こして。」

「はいよっと、ほっ。」


メリはおもちゃに夢中になった子供のように槍で遊んでいる。

メリも平静を取り戻しているようだが今は体を動かしていた方が良いかもしれない。

俺はラピアの隣に座った。


「俺はもう少し寝る。ラピアもつらかったら寝てていいよ。さっきも眠れてなかっただろ。」

「うん。けど寝られそうにない。」


「目をつぶってるだけでもいいよ。」

「うん・・・・・・。」


ラピアは随分参っているようだ。

俺はラピアの横に座って、ラピアの暖かさを感じながら眠りについた。


「ロッシュ、そろそろ出番だよ。」


浅い眠りを繰り返しているとメリに起こされた。

辺りは暗くなり始め気温も肌寒くなってきた。


「ライトは俺が先でラピアは温存気味でいこうか。」

「え。いいの?」


「怪我人が出て来た時用にラピアの魔力は温存だ。その代わり俺が強化に回せる魔力が減るからメリ頼んだぞ。」

「おまかせあれ。」


メリはこんな状況でもいつも通りになっている。

俺はボボロの所に行った。


「そろそろライトを使いましょうか?」

「いいぞ、やれ。」


「はい。光は最初は弱めで行くので光が弱かったら言ってください。」


「ライト」


俺は片手でライトを唱えた。


そして座りこんでライトの魔力消費が少ないギリギリの所まで高く上げた。

目の前で光量の強いライトを付けっ放しにしたら眩しすぎるからな。


眩しすぎず魔力を消費しすぎない位置にライトを置いた。

光はまだ弱めだ。

暗くなったら少しずつ明るくしていく。


魔力は無駄遣いしなかったお陰でしっかり残っている。

そして夜の帳が下りた。


光源は俺のライトと街中のライトだけになった。

俺はライトの光を少し強くしたが問題が発生した。


冬の夜は寒いってことだ。

着の身、着のままの格好の俺達は冬の夜は寒すぎた。

マントかなんかを借りなかった事を後悔したがメリとラピアが俺の両側に座ってくれたので助かった。


街中では冒険者ギルド、兵の詰め所、町長の家、教会にライトが設置されている。

俺達が避難するのは教会になりそうだが非戦闘員を全員収納できるのか不安になる大きさだ。


駄目だったら町長の家か兵の詰め所に行くか。

本当は逃げ出す時の為にぐるっと一回り城壁の上を回りたかったな。


城壁の上には俺達と兵士とは別に冒険者も5人1組になって等間隔で配置されている。

特に西門付近は敵襲が予想されることから相当の密度になっている。


冒険者もチラチラ俺達の方を見ているからこっちも何も言って来なかった。


「ロッシュ。大丈夫?そろそろライト変わろうか?」

「まだ余裕あるけど交代のタイミングを間違ったら困るからお願い。」

「うん。唱えるね。」


俺は魔力に余裕があるが一旦ラピアに変わってもらった。

あんまり長時間使いすぎても適性ありだと完全に悟られるからな。


ラピアのライトが俺のライトと同じくらいの光量に落ち着いたので俺は自分のライトを消した。

俺のライトをそのまま使っても良かったが長時間やる分には自分で発動したほうが安定感が違う。


さっきまでは俺を真ん中に座っていたが今度はラピアを真ん中にして座った。

それからどれくらい経っただろうか俺がラピアに交代を言い出そうとしたその時、真っ暗だった地平線から一粒の光が漏れて見えた。


「ライトの光だ!」


注意が散漫になっていた者達も西の地平線を見た。

星の輝きの如きその小さな光は俺達に希望を与えた。


俺は胸の奥に込み上げて来る物を感じ、食い入るようにその光を見ていた。

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