19話
メリを先頭に走り出す。
俺は二人の後ろに盾を持って着いていった。
ここ一帯は広い平原となっている。
見晴らしがいいので、もし獣や魔物が出ても魔法で先制できるのは大きい。
もし魔物が出てきたらラピアに魔法を打ってもらって近づいてきたら俺とメリで対処すればいい。
出来るだけ草の少ない場所を走っていく。
草の多い場所だと足を取られてしまう可能性がある。
エル村とデロス町の間の街道に着けば水瓜が街道沿いに残っていると楽観的に考えよう。
村は大丈夫なのだろうか。
子供達や大人達は逃げ切れたのだろうか・・・・・・。
いや、今考えるのは止めよう。
俺達が無事にデロス町に辿り着くことが最優先だ。
俺達は無言で平原を駆けていく。
体力は鍛えている方だと思っていたが普段より疲労の貯まりが早い。
俺達の中で一番体力がないラピアに合わせて普段より休憩も増やさないといけないな。
「ラピアも疲れてきたみたいだし一旦休憩。」
ラピアの手を引いていたメリが提案してきた。
「わかった。」
「うん。ごめんね。」
「俺もいつも以上に疲れたからしょうがない。今回の休憩で水が無くなるから次回は少し分けて。」
「うん。」
俺は水筒に残った水を口に含み、少しずつ飲み込んだ。
体力的には俺はまだ余裕がある。
ラピアも疲れているが少し休めばまた走れるだろう。
メリはまだまだ余裕そうだ。
本当は強化して走ればもっと早く着くが緊急の事態があった時の為に魔力を残しているのは常識的なことだ。
水も節約して飲めば町まで行くのに十分な量が残ってる。
座っている俺とラピアを横目にメリは回りに何かないか探している。
「使えそうな物も食べられそうな物もないなー。」
「蛇に噛まれたら困るしあんまり草の深い所には行くなよ。」
「へいへい。」
メリは頼もしいのか手がかかるのかわからなくなるな。
俺は体力の回復を最優先にして周りの景色を眺めている。
突然メリの居る方角から魔力が発生した。
俺は驚いて立ち上がりながらメリの方を見る。
「メリ!どうした!」
「やった!兎を捕まえたよ。」
「なんだ兎かよ・・・・・・。無闇に魔力を使うなよ。魔境にいた兎だったら飛び道具がないと魔力の無駄使いになるんだからな。」
そう言いつつも俺は心の中でメリに拍手喝采を浴びせた。
「メリ、やったね。せっかくだからご飯にしよう。」
「ああ。」
「ご飯。ご飯。」
辺りを見回したが草原なので串代わりになる木の棒も落ちてない。
大きめの石の上に肉を置いて魔法で一気に焼くことになるな。
「私が解体やるね。」
「俺は解体を手伝った後に内臓を捨てる穴を掘る。」
「じゃあ、私は使えそうな石とか木の棒ないか探してくる。」
メリはラピアに兎を渡すと周囲に何か無いか探しにいった。
俺はラピアの解体を手伝う。
兎の両後ろ足を持ってラピアが作業をしやすくする。
そしてラピアが兎の静脈を切る。
臭い部分があるのでそれを優先的に丁寧に取る。
その後、小さな切れ目を入れて皮を剥いでいく。
獲ってすぐなら皮も剥ぎやすい。
「皮剥ぎは雑でいいよ。持って行っても匂いで獣が来たら面倒だし。」
「うん。けどそういう時に限って上手くいくんだよね。」
皮が剥ぎ終わると内臓を取り出す。
後は火が通りやすいように小さく切り分ければ良い。
一段落したので俺は近くに程々の大きさの穴を掘り始めた。
黙々と作業をしていく。
俺は穴が掘り終わると内臓と勿体無いが皮を入れた。
「良い石があったよ。」
丁度メリが石を見つけてきた。
俺は水魔法で石を洗ってついでに俺とメリの手を洗った。
メリとラピアは兎の肉を小さく切り分けている。
「よし。準備が出来たよ。」
石の上に兎の肉が等間隔に置かれた。
「誰が魔法使う?」
「私が使うよ。二人はあんまり得意じゃないでしょ。」
「まかせた。」
俺とメリは火魔法はほとんど使わないので大人しくラピアに任せた。
「ファイア。」
ラピアがファイアを使う。
兎の肉にはすぐ火が通り始めた。
これが魔境産の兎だったらまず捕まえることができず、運よく捕まえられたとしても肉を焼くのにも火が通りづらく時間がかかっただろう。
「塩があったら良かったのにね。」
メリが言った。
俺もそう思うが飯にありつけただけで満足だ。
「そういえば持ち物は何を持ってきた?俺は水筒とナイフしか持ってない。」
「私はそれに盾と剣ね。」
「私は水筒とナイフと小さい袋。」
「俺も袋くらいは持ってきてたら良かったのなあ。」
「あ、そろそろ焼けたよ。」
『いただきます。』
俺達はナイフを使って兎の肉を食べ始めた。
味は付いていないが空腹が何よりのスパイスだった。
俺達は一心不乱に食べた。
「ごちそうさまっと。少し時間経ったかな。」
太陽を見るとまだ昼前といったところだ。
俺は残った骨等を全部穴に入れて埋めた。
「よし。じゃあ気をつけて出発しよう。」
『うん。』
俺達はあとで火が付かないように水魔法を使ってからその場を発った。
「腹に入るとやっぱ違うな。」
「でしょー。また捕まえてあげるよ!」
「うふふ。さすがメリだね。」
心なしかラピアも少し元気になってきたようだ。
俺は周囲を警戒しつつもこのまま無事に町に辿り着けるように願った。
そのまま1時間程走った。
「まだいけそうだけど休憩しようか。」
メリが言った。
「うん。」
「わかった。」
俺達は同意して安全そうな場所に腰掛けた。
「ロッシュはもう水がないんだよね。私の飲んで。」
「ありがとう。」
俺はラピアから水筒を受け取った。
少し飲むと返した。
「次は私があげるよ。」
メリが得意気に言った。
「うん。お願いする。順調に進めてるからあと1~2時間走ればエル村とデロス町の間の街道に着くかな。」
「私に聞かれてもわからない!」
「私はエル村にもデロス町にも行ったことないけどメリの話し通りなら順調に行けばお昼過ぎに街道に着けると思うよ。」
「魔力もまだほとんど使ってないし順調ってことだな。」
「うんうん。」
「順調なのはいいことだ。それじゃあ行こうよ。」
俺達は土を払って立ち上がった。
メリは一度大きく伸びをするとゆっくり走り出した。
ここまで来ると魔境の影響も薄くなっていてほとんど普通の土地と言っても過言でない。
逆にもし盗賊がいるなら盗賊が出始める範囲に入ったことを意味する。
盗賊だってわざわざ危険な魔境付近で活動したくないからな。
魔境を通るってことは逆に言うと魔境を越えられるってことだから盗賊にとってもそんな連中には喧嘩を売りたくはないだろう。
魔境付近では魔物に気をつけ、魔境を抜けたら人に気をつける。
全くもって面倒な限りだ。
今の俺達が襲われたら逃げるしか手はないから遭遇したくはないものだ。
走っている平原は隠れる場所が少ないのでここでは出ないと思うが気を抜けない。
走り始めてから順調そのものだ。
迂回が必要な場所も減ってきていてドンドン進める。
そのまま俺達は距離を稼いだ。
エル村とデロス村を繋ぐ街道を発見したのは昼飯時になる前だった。