16話
目が覚めた。
今日は祭り後の3日の休みの初日だ。
俺は体を起こした。
まだみんな寝ているようだ。
隣で寝ている寝相の悪いグロウに布をかけ直して俺はみんなを起こさないように広間へ移動した。
「おはようございます。」
「あら、おはよう。ロッシュは早いのね。」
広間には既に院長が居た。
俺は院長の隣の席に座った。
「昨日は夜遅くまで起きてたからもう少ししたらみんなを起こして食堂に行くわよ。」
「はい。今までありがとうございました。」
「いいのよ。ロッシュは全く手がかからなくて寂しいくらいだったわよ。」
「その分をグロウをお願いします。」
「はいはい。けど本当に良かったわ。特に若いうちは心では思っていても中々実行に移せないものよ。」
院長は俺の告白の事を言っているらしい。
「俺がもっと早く動いていればラピアにつらい思いをさせずに済んだのに。」
「あなたも遠慮しがちな所があるからね。でも自分の欲しい物は遠慮しちゃ駄目よ。ラピアもそういう所があったけど一度決めたらすごく頑張ったのよ。」
「そういうのは教えてくれないとわからないんですが。」
「あら?そうね。うふふ。メリは良い子だけどみんな怖がってそういう話しがなかったから助かったわ。」
「メリの面倒は見なくちゃならないと思ってたんで・・・・・・。けどメリのあの精神力は見習いたいもんです。」
「あの子もそんなに強いわけではないと思うわよ。いえ、強いかも。結構子供は見てきたけどあの子は計りきれないわ。本当におもしろい子ね。どっちにせよ、あなたが居れば大丈夫。」
「できる範囲でがんばります。」
ドタドタ。
ラピアが焦った様子で広間に入ってきた。
「どうした、ラピア。」
俺も焦って席を立ったがラピアは俺を見ると落ち着いたようだ。
「起きたらロッシュだけ居なかったら怖くなって・・・・・・。」
「俺はラピア達を置いて行かないぞ。逃げられる可能性はあるかも。」
俺はラピアの手を取って院長の隣に座らせた。
「あらあら。お若い二人に見せ付けられてしまいましたね。」
院長の言葉にラピアは顔を真っ赤に染めた。
「全く。今日で最後なんだからあんまりからかわないで下さいよ。」
「そうね。」
ラピアは院長に話したいことがある様子だ。
俺は訓練用の木刀を持って外に出た。
「昨日は食いすぎたから体を動かしてくる。」
孤児院を出ると、朝早いというわけではないのに結構寒い。
俺は木刀を構えてゆっくり振った。
そしてこれからの事を思う。
メリは兵士、ラピアは薬師になる。
メリは兵士で経験を積んでドンドン強くなるだろう。
俺は来年の祭りの為に勉強しつつメリの練習相手になる位には強くならないとな。
ただ問題なのは俺が訓練しているとメリも訓練するので差が更に広がるだろうってことだ。
とりあえず来年の目標が決まった。
俺が素振りをしているとラピアが孤児院から出てきた。
「そろそろみんなを起こして食堂に行くって。」
「わかった。」
俺は木刀を元の位置に戻して寝室に移動した。
「みんな起きろー。もう昼だぞ。」
みんなが起きはじめる。グロウはまだ眠たそうにモゾモゾしている。
「グロウ、明日からはお前がみんなを起こすんだぞ。」
半分寝ていたグロウが突然目を開いた。
「え、そうなの?」
「俺達が孤児院から出たらおまえが一番年上だぞ。」
「そんなあ。ロッシュ、俺を見捨てないで。」
「明日から頑張れ。」
グロウと遊んでいるともうみんな目が覚めたようだ。
「よし。グロウを置いて食堂へ行くぞ。」
食堂と聞いた瞬間グロウは嬉々として動き出した。
「昨日の残りだからきっと豪勢だな。」
グロウはニヤニヤしながら先頭を進んでいった。
俺達は年少組を連れて後ろから着いて行った。
「グロウはあんな感じだからお前達は自分で頑張るんだぞ。」
「グロウが起きなかったら布ごと引っくり返してもいいわよ。」
院長が呆れて言った。
俺達が食堂に着く。
大人達は飲みすぎなのか頭を抱えている者がいる。
「飯を食べたら、結婚組は広場に集合。その他は自由。いただきます。」
俺達は昨日の残りの白パンや料理を食べる。
これらの料理も明日の朝には無くなっているだろう。
みんなそう考えているらしく悔いが残らないように一生懸命食べている。
食べ終わって食器を片付けると移動だ。
しかしラピアの周りにはラピアとの別れを惜しんだ年少組が集まって泣いている。
一方メリのほうを見るとガキ大将引退の儀式が行われている。
俺のところにも何人か孤児院の子供達が集まってきた。
各々と別れの挨拶をする。
残った年上はグロウなので心配だが院長がいるからなんとかなるだろう。
まあ、俺はあと1年は仕事の振り分けが一緒だから寝床が違うだけだ。
メリとラピアも孤児院の子供達とのお別れを済ませたようだ。
「じゃあ、行くか。」
俺達は広場に向かった。
広場には俺達以外の結婚組はもう揃っていた。
「みんな揃ったな。支給品を受け取った後は各自自分達の家に移動してもらう。」
と村長が言った。
俺達は一列に並んで支給品を受け取った。
一家につき、テーブルが一脚、大きめの箱が1つ、取っ手のついた桶が一つ配られた。
そして1人に1つずつ毛布、椅子、コップ、皿、服、小さい袋、大きい袋、水筒、小さなナイフが配られた。
「支給品を受け取ったらお前達の新しい家に移動だ。」
俺はワクワク感を隠しつつ村長についていった。
「村では夫婦はまずこの大きさの家に入ってもらう。その後、仕事や子供の数に応じて大きな家に移っていくことになる。メリ達もみんなと同じ大きさの家からだ。3人で狭いだろうが我慢しろ。」
俺達は指定された家に入っていく。
家の広さは縦3m横2m位だ。テーブルと椅子を置くとさらに狭くなる。
今まで孤児院生活だった俺達は自分の家というだけでただただ嬉しい。
俺達は荷物を家の中に置くと一先ず家の外に出る。
「これで終了だ。食事は今までと同じくみんなで共同。井戸水の使用は自由だが節約するように。仕事をすると給料が出るので欲しい物があれば自分の給料で買うこと。この後今日を入れて3日で仕事が決まる。自分の希望の仕事に就けない事もあるがみんながみんな好きな仕事に就けるわけではない。3日の間に個別に訪問して職業の相談をするので飯以外は家で待機するように。」
『はい。』
「では解散。」
嬉しそうな子、恥ずかしそうな子、いつも通りな子、寂しそうな子、1人1人違った表情をしているが、村長の言葉が終わると自分達の家に入っていった。
家に入ると俺達はテーブルを隅に移動して寝っ転がった。
「私達の家だ。」
「俺達の家だ。」
俺達は思う存分自分の家を堪能した。
少し落ち着いた俺達はテーブルを引っ張り出して椅子に座った。
「桶に水汲んでくる。」
俺が言った。
『私も行く。』
「仕事の相談が来るかもしれないから二人は留守番!」
二人とも残念そうな顔をしたがしょうがない。
異論がないようなので俺は水を汲みに行く。
「いってきます。」
「いってらっしゃい。」
「・・・・・・しゃい。」
メリは元気よく言ったがラピアは恥ずかしくて語尾の方しか言えてなかった。
俺は何気なくいってきますと言った事に軽く後悔して身悶えしたが誰かに見られたら恥ずかしいので平静を装った。