15話
「今回は11歳の者が全て目出度く結婚が決まった。おめでとう!俺達も嬉しいぜ!あとはみんな思いっきり飲んで食べて祭りを楽しんでくれ!」
村長の話しが終わったと同時に調理場から料理が運ばれてくる。
普段は食べられない肉や魚、果物などが一斉にテーブルに並ぶ。
結婚が決まった者達の席には家族や友達が集まってきた。
「みんな結婚おめでとう。」
「おめでとう。」
「ありがとう。」
色々な祝辞が述べられた。
メリはいつも通りとしてエスタも中々に堂々としている。
俺も堂々としている風に装っているがエスタは戦い方といい、今回の件といい中々のツワモノだな。
次期村長候補の内の1人と噂されているだけあるなと思った。
逆にラピア、セリナ、ラコスは真っ赤になって照れている。
ウカリスはラコスの隣に座っていて嬉しそうな表情だ。
美女と野獣を体現した二人であるがそれなりに上手くいきそうだな。
そこへ院長が涙ぐみながら近づいてきた。
「3人とも良かったね。一緒になれて本当に良かったね。」
俺達は席を立って院長に抱きついた。
「みんながみんな、自分が好きな人と結婚できるわけじゃないんだよ、特に孤児はね。私はそういう子供達をいっぱい送り出してきたんだ。この村は本当に良い所だよ。」
そういうと院長は俺達を力一杯抱きしめた。
「ロッシュ、お前は本当にすごい男だ。これからも二人を守っていくんだよ。」
「はい。」
俺も涙が我慢できなくなり院長の服に顔を埋めた。
後日聞いた話しだが、もしその場で片方が選ばれなくても後から院長と一緒に4人で集まってメリとラピアの二人と結婚してはどうかと話し合う予定だったらしい。
ラピアは自分は最初は振られるものと覚悟していたそうだ。
俺の落ち度だな。
こんなことなら院長に呼ばれた時にはっきり言ってくれれば良かったのに。
いや、呼ばれなかったからこそ俺は真実を得た。
2度と同じ轍は踏まないと誓い、終わりよければ全て良しということにしておくか。
俺はメリやラピアより早く落ち着いた。
「来年はグロウか。大変ですね。」
孤児院で俺と同い年はグロウだけだ。
「あの子は食い気ばかりで今回も完全に他人事だったからねえ。良い子なんだけど大丈夫かしら。」
「院長、ロッシュ達どーもどーも。」
噂のあいつが来た。
「ロッシュ、メリ、ラピアおめでとう。」
「おう、ありがとう。」
グロウが手にソーセージを何個も掴みながらやってきた。
「それにしてもさすがロッシュだな。みんなの前であんな大声で言うなんて。」
「やるならきっちりやらないとな。」
グロウはソーセージを食べながら話している。
「こら、グロウ。話してる時は食べるの止めなさい。取り上げるわよ。」
「はい!わかりました!」
取り上げるのくだりに敏感に反応したグロウはとりあえず食べるのをやめた。
「来年はおまえなんだからちゃんと考えておけよ。俺のような失敗はするなよ。」
失敗と言われてもなんのことだかわからない顔のグロウであった。
「おっと、豚の丸焼きが来たぜ。じゃあなロッシュ。」
グロウはそう言うとさっさと豚の丸焼きを取りに行った。
「全く、あの子は・・・・・・。私も小さい子達を見に行くわ。」
ラピアは名残惜しそうにしたが院長は笑顔で俺達の頭を撫でていった。
「俺達も本格的に食べ始めるか。」
「そうね。お腹が空いたわ。」
「うん。」
「二人は何飲みたい?」
「私はワイン。」
「私も。」
「わかった。行ってくる。」
俺は調理場に向かった。
「ワイン2つとエールお願いします。」
「おや、ロッシュかい。結婚おめでとう。料理を作るので忙しかったけどあんたの声は聞こえたよ。たいしたもんだよ。」
調理場のおばちゃんが嬉しそうに言う。
俺は飲み物を受け取ると、
「ありがとうございます。」
と照れないように言った。
「ロッシュ。肉は確保しておいたよ。肉。」
「よしよし。はい、これ飲み物。」
『ありがとう。』
俺はメリに差し出された肉を食べる。
焼いた豚肉にソースをかけた物で美味かった。
大皿に山のように盛られている白パンを取り口に運ぶ。
柔らかい。
持ってきたエールを口に入れる。
ほろ苦い。
メリとラピアはワインを少しずつ飲んでいる。
「ロッシュはエールなの?ワインは普段飲めないからワインにすればいいのに。」
メリが言う。
最初の一杯はエールなのだ。
「どっちも好きだけどね。次はワインにしようかな。」
薄めていないワインは祭りの日にしか飲めない。
普段はエールや水で薄めたワインまたはワインを絞った後に水を入れて絞りなおしたピケットがたまに出る程度なのだ。
ワインは特に売ってしまうからな。
次にソーセージを食べる。
ソーセージ、エールこの順番こそが一番だ。
肉がゴロゴロと入ったスープやシチューがあったので俺はシチューを選んだ。
シチューに白パンを浸しながら食べるのもまた格別だ。
ソーセージが無くなる頃にはエールは空になった。
「飲み物のお代わりは?」
「まだいい。」
俺はワインを取りに調理場へと向かう。
ワインを受け取った俺は途中で見つけたぶとう、りんご、デーツを皿に取った。
「果物食べる?」
「食べる食べる。」
甘いものが食べられるのは祭りの時くらいだ。
その中でも珍しいデーツを食べた。
甘いな。
干しぶどうも甘いがデーツのほうが俺は好きかもしれない。
甘いものを食べた後はしょっぱい物が食べたくなる。
俺は豚肉のステーキを食べることにした。
近くにあったいつもより塩多めの茹でた豆を多めに添えた。
豚肉は脂身が柔らかくて食べると肉の油とソースが口の中で混じり合って美味い。
ソースは塩と油中心の物から果物ベースの物、ハーブがふんだんに使われている物など様々だ。
魔境で育てた豚は美味いと言われているがこれは来年からもドンドン増やさなければならないなとワインをちびちび飲みながら思った。
新しい料理が次々と運ばれてくる。
その中でも一段と俺の食欲をそそる香りがしてきた。
俺は香りの元を見る。
鍋の中にトロトロになったチーズが湯気を上げている。
チーズフォンデュだ。
「チーズフォンデュだ。食べよう。」
俺達のように香りに釣られた人達が鍋を囲む。
一緒に出された湯で野菜にチーズをたっぷりと絡める。
たまに出てくる時のような水っぽい物ではなくドロっとしている。
子供達は、熱いのに焦って食べている。
白パンを小さく千切ってメリとラピアに渡す。
中には豚肉やソーセージを持ってきて食べている人もいる。
俺はメリに目配せすると豚肉とソーセージを取りに向かった。
果物の砂糖煮や魚のパイ、プティング、色々な味付けのされたミートボール等の普段は食べられない料理を味わい尽くした。
さすがにお腹がいっぱいだ。
「ふー。食った。食った。二人はどう?」
「私もお腹いっぱいー。」
「私もいいよ。」
俺は最後に残ったワインを一気に飲んだ。
「よし。帰ろうか。」
『うん。』
大人達はまだ騒ぎ足りないようでまだまだ元気だ。
俺達は村長に手を振るとニカッと笑って手を振り替えしてきた。
俺達三人は手を繋いで孤児院へと向かった。夜の冷たい風が心地よい。
俺達は星が輝く空を眺めながらゆっくり歩いた。
「孤児院にいるのも今日で最後か。」
俺が言う。
「寂しくなるね。」
ラピアがしみじみと言う。
「けど3人で暮らしたらもっと楽しくなるよ!」
メリは、はしゃいでいる。
「そうだな。最近は勉強ばっかりだったし、剣の稽古もしないとな。」
「やった。やろうやろう。」
「ふふ。」
俺とメリのやり取りにラピアは微笑む。
俺達は孤児院に着いた。
院長はまだ小さい子が食堂に残っているので食堂にいる。
「おやすみ。」
『おやすみ。』
俺達はいつもの位置に布を敷いて包まった。
俺は今日の事を一生忘れないだろう。
もし二人のうちどちらかを選んでいたら今日はこんな風に満たされた気持ちで寝られなかった。
今日の自分を褒め称えたい気分だ。
必死に踏み込まなければ見られない風景があることがわかった。
そしてその風景を守るために、力は必要だ。
使う機会が訪れないとしても力はあって損はない。
そんなことを思いつつ長い一日が終わった。