139
***注意***
18/02/01
感想に指摘があった通り、137話が抜けていました。
137話を新しく投稿して正しい並びにしました。
感想ありがとうございます。
******
複数人での模擬戦は思った以上に勉強になる。
普段の練習では重い大振りの一撃が重視されがちだが複数人で戦う場合は動作の小さな安定した一撃の方が怖い。
大振りの一撃は隙が大きいし分かりやすい。
逆にこちらこの行動を見てから合わせてくる攻撃は対処が難しくなる。
相手が増えるにつれて陣取りというか隙間探しという意味合いが強くなる。
これがまたおもしろい。
人によって戦い方に個性が出てくる。
メリやギールは先頭に立って相手の注意を引き付ける戦い方を好む。
俺やラピアはそれを後ろから手助けする戦い方が好きだ。
けどせっかくの機会なので俺も積極的に前に出ることにしている。
こんな経験を積める機会は中々ないのでみんなには練習相手になってもらっている。
もちろん俺だけが得をするのではなく相手に取っても実りのある訓練にしている。
慣れない内は大人数相手に数で押されていたが最近では慣れてきて余裕ができてきた。
しかし戦績は依然と大して変わっていない。
大人数相手に凌ぎきれる事もあれば押し負ける事もある。
余裕ができて相手の動きがしっかり見れるようになってくると良い攻撃が来た時は避けずに喰らう事にした。
メリはそんな事は気にせずに大人数相手にも毎回本気でやって勝っている。
だが俺は違う。
俺は教師の側に立って訓練をしている。
もちろん口に出して言うのは恥ずかしいので言わない。
しかし内心では指導している気分だ。
訓練の上では楽しさも重要になる。
メリは特別枠としても俺までスイスイ避けていたら対戦相手は面白くないし、実力が付いたのかわからない。
俺は良い攻撃を防がない事で楽しさと達成感を与えてあげているつもりだ。
他人から見たら独りよがりの傲慢な考え方に思われそうだが人の乗せ方の勉強だと勝手に思っている。
一言で表わすなら飴と鞭だ。
甘すぎてもきつすぎてもよくない。
一人一人の個性にあった調整ができれば最高だ。
しかし相手は複数なので今回の場合は大分甘い方に舵を取っている。
傲慢な言い方だと楽しませてあげているのだ。
一応多くの人が楽しそうにしているので俺の試みもそれなりに成果を上げている、かもしれない。
そういった調整はゲニアが上手かったと今ならわかる。
教え子が根を上げない程度に厳しくできる奴だ。
俺達に対しては鞭9割だったがそれは俺達が鞭9割でも大丈夫な教え子だったからだろう。
思い出したらちょっと腹が立ってきたぞ。
逆に冒険者学校に来ている生徒の半分以上がちゃんとした訓練を受けた事がない。
今、模擬戦を許可されている生徒もはっきり言って訓練不足だ。
だから厳しい訓練はしないし、レニーも俺達にそこまで求めていない。
初心者を鍛えている間にそれなりに訓練しておけば良いという扱いなのだろう。
お陰で比較的自由に動けるのはありがたい。
ゲニアは焦るなと言っていたがこの状況を貪欲に利用し尽くしたいと思う。
しばらくすると服を新調した生徒が現われ始めた。
町に初めて出てきて舞い上がっていた生徒も今の生活に慣れ始めて落ち着きが出てきた。
レニー達はまだ初心者の指導をしていて模擬戦組は自由なものだ。
俺も時折レニーに指導をしてもらうがあっさりした指導で物足りなさを感じている。
そんな俺とは対照的にデールやギールは強くなってきている。
ギールは働いていないので6日の内の4、5日は冒険者学校に来ているようだ。
働きながら通っている俺達から見れば羨ましい。
もし俺も働かなくて良いのだったら3日は冒険者学校に行って残り3日は道場に通う。
親に金を出してもらって通っているギールを他の農村出の生徒が嫌うのもよくわかる。
性格も悪いしな。
けどまじめに学校に来ているのもあって俺達を除けば実力は上位に達している。
それがまた他の生徒には気に食わないのだ。
デールの方は性格も良い上に才能もあるので俺達以外では一番強い。
伸びも良いのでまだまだ強くなるだろう。
剣を持った事がない初心者の方は明暗が分かれ始めている。
才能がある奴、運動神経の良い奴は木刀の振り方も様になってきている。
逆に才能がない、運動神経が悪い奴は体が出来上がっていない子供の様な振り方をしている。
特に女性陣に多い。
筋が良いのはもう少しで模擬戦の許可が下りるだろうが木刀等で殴られた事がないだろうから模擬戦のやり方を変えなくてはならないだろう。
レニーもこっちに来てくれると助かるんだけどなあ。
ディグとバルボの才能は並より少し上程度だ。
出稼ぎの意味合いが強いディグと違ってバルボは冒険者になると言っているのできっちり鍛えなくてはならない。
まずは走り込みだ。
走り込みは最高の訓練だと思っている。
何をするにも体力があってこそだし、下半身を鍛えられる。
剣は上半身で振っているように見えるが下半身こそ重要だ。
初心者はどうしても上半身で振ろうとしてふらふらしてしまう。
がっちりとした下半身が合ってはじめて、しっかりとした振りができるのだ。
授業後の走り込みは最初は俺達だけだったがディグとバルボを強制参加させてからは人が徐々に増えてきている。
あんまり遅くなると帰り道が怖いので程々の時間で俺達は切り上げるが寮に住んでいる生徒は遅くなるまで訓練ができる。
そこは寮生活の良い所だと思う。
訓練をしていても常に余力を残す事が頭の片隅にあるので一回位は体力が空になるまで動きたい。
無邪気に疲れ果てるまで訓練したり遊んだりできるのは幸せな事なのだ。
デールは模擬戦許可者の中では強いので集団戦の時は先頭に立つ事が多い。
デールは先頭には立つが守勢が上手く粘り強い戦い方をする。
ギールが使い捨ての盾だとするならデールは安定感のある信頼できる盾だ。
ギールは一人で突っ込んでいって暴れた後に囲まれて負ける。
戦い方が大雑把なので安心して役割を割り振れない。
デールのように守勢に回って何人かを釘付けにできれば味方が有利になるのに自分の勝利にこだわっている。
だがそれが悪いと断言できない側面もある。
集団戦ではそういうのが一人居ると集団の勢いが増す。
同格か格下が相手なれば全員で突っ込めば勢いで勝てる事が良くある。
そして怪我をする人が多くなる。
デールのように守勢に回る戦い方は安定している反面、格上にはいつも同じような結果になるがギールのように攻めるとたまに勝ちが拾える。
それでも集団戦としてはデールの様な戦い方の方が怪我人も少ないし見ていて集団戦になっている。
勢いで攻める戦い方は本人達は楽しいだろうが見ている側はごちゃごちゃになってしまってわかりにくいので戦いの流れが掴み辛い。
例えるならばギールが山賊でデールが騎士とか守備隊だ。
「ギール山賊団がデール騎士団に襲い掛かったぞ!」
「負けないでっ。デール騎士団!」
「デール騎士団長は冷静に山賊の攻撃を受け切っていますねー」
「おおっとここで突出した山賊頭ギールが取り囲まれた! いつも通り、このまま負けてしまうのだろうか? 死ね!」
「やった! ギールがやられたぞ!」
「あー、これはデール騎士団の勝ちが決まったなあ」
「あれ? どういうことだ。ギールがやられた山賊団は一転して逃げ始めたぞ! このままでは逃げられる! 追いかけて、デール騎士団!」
「これはギールの人望の無さが原因ですねえ。デール騎士団ならデールが倒れても粘り強く戦ったでしょう」
「おまえら、うるせえんだよ!」
ギールが顔を真っ赤にして抗議したが解説は続けられた。
逃げていた奴もそれを聞いて笑ってしまいあえなくお縄となったとさ。